リティシア家のお嬢様 2
「あいつはなぜかベイリーとソフィアにはとても懐いているから、そいつらに頼るしかねえんじゃねえか?」
「どっちに頼ればいいの?」
「そんなの聞くまでもねえだろ。ベイリーだ」
「ベイリーさんかぁ……」
わたしはどうしても躊躇してしまう。あの時の怖い顔が脳裏によぎった。わたしが外に出ようとしたら、人が変わったみたいにきつい口調で注意をされたときのことを思い出す。
「なんで気乗りしてねえんだよ? ソフィアの方がいいってことか?」
「わたしはソフィアさんの方が聞きやすいかも……。ベイリーさんはなんか知られたくない秘密を抱えてそうっていうか……」
「まあな。ソフィアが言うには腹黒らしいし、なんか怪しいこと企んでんのかも知れねえけどな。ただ、話しやすいことは話しやすい」
ソフィアは厳しいけれど、厳しいメイドはわたしが元々住んでいたお屋敷にはたくさんいた。だから多分、リオナほどは苦手意識はないのだと思う。
「じゃあ、ちょうどいいんじゃねえか? あたしはベイリーのとこ行って、カロリーナはソフィアのところにいけば」
そうだね、と頷く。とりあえず、良い感じに役割分担ができそうだった。
「キャンディはベイリーのとこ行くから、メロはソフィアのとこね!」
「メロディはベイリーのとこ行くから、キャンはソフィアのとこね!」
2人とも、声を揃えている。
「メロはカロリーナと一緒に行くの!」
「メロディ、アリシアおじょーさまのところならカロリーナと行きたいけど、ソフィアは嫌……。キャンが一緒に行ってきてよ!」
「キャンディ、カロリーナと一緒に遊びに行くなら良いけど、ソフィアは嫌……。メロが一緒にいってきてよ!」
「キャンのわがまま!」
「メロの弱虫!」
2人とも両手で相手の頬をつねりながら言う。
「とりあえず、2人ともソフィアのとこには行きたくないのね……」
わたしは苦笑してから続ける。
「わたしは一人でソフィアさんのところ行くから、3人でベイリーさんのところに行ってきてもらっても良い?」
「あたしは良いけど、お前はそれでいいのか?」
「いいよ。ソフィアさんの場合、みんなで行くよりも、一人で行ったほうがいろいろ話してくれそうだし」
「なんか悪いなぁ」
「悪くなんてないよ。わたしはソフィアさんの方が話しやすいから、ちょうど良い」
「じゃ、お互い健闘を祈るってことで」
「けんとー!」
「いのる!」
リオナが軽く手を振ると、続いてキャンディとメロディも大きく手を振りながら部屋から出ていった。あの3人がいなくなると一気に部屋は静かになる。
「じゃあ、わたしも行こうかな」
両手を上げて、軽く伸びをしてから立ち上がって、ソフィアの部屋へと向かった。
礼儀を重んじるソフィアだから、わたしはできるだけ丁寧に扉をノックした。
「すいません、カロリーナです。ちょっとお話があるんですけど」
ソフィアは部屋の中身を隠すようにして、ほんの少しだけドアを開ける。そっと目元だけ覗かせて、わたしを見た。わたしより小柄なソフィアは、メガネの奥から上目遣いでこちらを覗いていた。
「なんですか?」
「少し、聞きたいことがありまして……」
「ちょうどよかったです。わたしもあなたに聞きたいことがありましたので」
「え?」
予期せぬことに困惑してしまう。話は聞けそうだけど、一体何を聞こうと言うのだろか。
「あの、わたしの素行が悪いとか、そういうことですか……?」
「まさか。そんな心配なさらないでください」
わたしの言葉を聞いて、ソフィアは悪戯っぽく笑った。メガネの奥で細まった瞳は随分と可愛らしかったけれど、その後の言葉にわたしは目を大きく見開いた。
「とりあえず、2階の空き部屋でお話ししましょうか。リティシア家のお嬢様」
「……どうしてソフィアさんがその名前を知っているんですか?」