リティシア家のお嬢様 1
〜登場人物〜
カロリーナ……小さくされた元令嬢
ソフィア……真面目な丸メガネメイド
リオナ……怖そうだけど面倒見が良い
キャンディ&メロディ……無邪気で元気な双子姉妹
「……、なあ、キャンディ、メロディ。なんでこいつはこんなにもぼんやりしてるんだよ……?」
カロリーナの目の前で、リオナが困惑しながら手を上下に翳していた。
「どうしてだろうね?」
「エミリアに押し潰されたから?」
「またあの意地悪メイドかよ!」
リオナがカロリーナの肩を持って、体を思いっきりゆすった。
「おい、お前マジで何があったんだよ!
すっかりアリシアお嬢様とのキスで現実離れしていたわたしの心がやっと戻ってくる。
「あ、リオナ! どうしたの?」
「お前、なんかぼーっとしてたぞ。何があったんだよ。エミリアのせいか?」
「いや……、エミリアじゃなくて……」
先ほどわたしの顔を優しく覆ったアリシアお嬢様の柔らかい唇を思い出して、わたしは両手で頬を抑えた。あのキスは、初めてやってきた子みんなにしているのだろうか。
「ねえ、リオナはアリシアお嬢様にキスされたことある?」
「はぁ? いきなり何言ってんだよ?」
「キャンディは無いよ」
「メロディも無い」
「もちろん、あたしもないけど……」
リオナがわたしの方をジッと見た。
「つまり、キスされたってことか?」
「えっと……」と答えに悩んでいると、先にキャンディとメロディが答えてしまった。
「カロリーナ、チューされてたよ!」
「チューだよ! チュー!」
ご丁寧に、そっくりな2人は、正面で向き合って鏡写しみたいに唇を突き出しあってキスの真似をしながら答えてくれた。恥ずかしくなって、わたしは俯く。
「でも、キスしてもらえるくらい仲良くなったってことは前進だな!」
リオナが嬉しそうに笑ったけれど、わたしは首を傾げた。
「何のことだっけ?」
「何って、アリシアお嬢様と仲良くして小さくなった謎を探るんだろ?」
「あ! そうだった!」
「そうだったって、ちゃんと覚えとけよな……」
リオナは少し呆れながら尋ねてくる。
「で、何かわかったのかよ? あたしたちが小さくなった謎が」
「えっと……。聞こうと思ったら、エミリアさんが邪魔してきて……」
「またエミリアかよ」
リオナが苛立った口調で返した。
「カロリーナ、ぺったんこ!」
「ぺったんこ、ぺったんこ!」
キャンディとメロディがお互いの手の甲を軽く叩き合って、パチパチと音を鳴らしていた。多分、わたしがエミリアの手のひらで机に押し付けられていたことを表現しているのだと思う。
「なんでエミリアがそんなに邪魔してくるんだよ?」
「それはわからないけれど、とりあえず、お互いを詮索したらダメだって言われて……」
「なあ、やっぱりあたしたちを小さくした魔女の正体ってエミリアじゃねえのか?」
リオナは真面目な顔で言った。
「どうして?」
「だって、あいつ明らかにあたしらに敵対心持ってんじゃねえか。どう考えたって怪しい」
リオナが納得しているし、わたしも同様にエミリアのことはとても怪しいとは思った。ただ、無闇に決めつけて間違った方向に推理を進めていくのは危険だから、わたしは必要以上にはリオナに同意はしなかった。
「仮にエミリアさんが怪しいとして、どうやって調査するつもり?」
猫の首に鈴をつけようとするネズミの話を思い出す。解決策はわかっていても、わたしたちがエミリアに協力を仰ぐなんて、絶対に無理だと思う。リオナも「うーん」少し唸ってから、押し黙ってしまった。そして、少しの間考え込んでから口を開く。