アリシアお嬢様と仲良し大作戦 2
「ア、アトラクションっていうか、まるでクレーンじゃないのよ!」
キャンディとメロディは慣れているのか、うまいこと指に跨るようにして、安定している状態で捕まえてもらっているけれど、わたしは右足だけがエミリアの右手人差し指と中指の間に挟まっている。逆さ吊りのような状態になっていて、いつ落ちるか気が気でなかった。エミリアがほんの少しでも握っている指に隙間を作ってしまえば、わたしは頭から真っ逆さまに落下してしまう。
「ちょ、ちょっと……。怖いんだけど! ちゃんと持ちなさいよ!」
大きな声を出してみたけれど、当然エミリアがわたしの言葉に聞く耳なんて持つはずがない。巨大メイドはわたしの都合なんてお構いなしに進んでいった。
エミリアがたった数歩歩いたら、すぐにアリシアお嬢様の元に到着する。わたしとソフィアが歩いた時はちょっとした冒険だったのに、この部屋に適したサイズの人たちからしたら、そんなことはないらしい。逆さ吊りのまま、なんとか堪えながら進んでいくと、大きく瞳を開いているアリシアお嬢様が視界に入る。
「危ないですわ!」
アリシアお嬢様が一瞬エミリアを睨んでから、慌ててわたしのことをギュッと掴んだ。逆さまのまま、アリシアお嬢様の手のひらの中に包み込まれる。ふんわりと甘い匂いのする、柔らかい手に包まれた。
続いて、キャンディとメロディも机の上に放り投げられるようにして置かれた。雑に置かれても2人にはそんなに恐怖心がないみたいで、キャッキャと高い声を出して、机の上ではしゃいでいた。
「もう、部屋に戻っていいですわ」
アリシアお嬢様が再びエミリアのことを睨んだ。
「いえ、アリシアお嬢様のことを見守っておくようにご指示を受けましたので」
「監視ですわね。正直気分悪いですの」
アリシアお嬢様がため息をつくと、心地良いそよ風として、わたしたちの身に降り注いできた。
「まあ、いいですわ」
今度はアリシアお嬢様は一転して微笑みながらわたしの方を見た。
「カロリーナとはお茶会の時間に会うのは初めてですわね」
右手の人差し指でキャンディを、左手の人差し指でメロディをそれぞれ撫でながらわたしと話してくれている。
「お茶会?」
「そうですわ。わたくし、小人の皆さんとティータイムをするのが好きですの」
アリシアお嬢様が微笑んだ。すでに湯気の出ているティーカップが机の上に乗っていた。その周辺に、アリシアお嬢様の小指の上に全部乗ってしまいそうな、わたしたちに適したサイズの小さなティーカップが3つ置いてある。
「さ、みなさんでお茶にしますわ」
わたしたちにとっては湯船のように大きなティーカップをお嬢様が軽々片手で持ち上げて、口元に持っていく。わたしたちが飲む1日分の水分量が彼女の小さな一口くらいになるだろうか。
アリシアお嬢様に続いて、わたしたち3人とも小さなティーカップを手に取る。ゆっくりと口に含むと、柔らかい匂いが鼻に抜ける。
「美味しい……」
わたしがホッと息を吐き出すと、キャンディとメロディがピョンピョン跳ねながら、アリシアお嬢様の方を見上げていた。
「アリシアおじょーさま! お菓子!」
「甘いの出して!」
「もちろんですわ〜」
楽しそうに机の端に置いてあったキャンディポットからチョコレートを取り出す。
「口を開けてほしいですの」
アリシアお嬢様が摘んだチョコレートをキャンディの顔の前に持っていくと、キャンディが大きな口を開けて、かぶりつく。一生懸命食べようとしているけれど、チョコレートが大きすぎて、顔中にチョコレートをつけていた。
「メロディも!」
メロディも続いてチョコレートを貰いにいく。同じように顔いっぱいにチョコレートをつけながら、頑張って食べていた。
「キャン、顔チョコレートだらけだよ!」
「メロもチョコレートだらけ!」
そう言ってお互いに笑い合っていた。そんな様子を見て、頭上からアリシアお嬢様が楽しそうに微笑んでいた。
「可愛らしい子たちですわね」とわたしの方に微笑みかけてきた。「はい」と小さな声で返事をすると、アリシアお嬢様がわたしの方にチョコレートを向けてくる。
「カロリーナにもあげますわ」
「自分で食べられるから、もらってもいいですか」
「カロリーナは力持ちメイドさんですのね。リオナでもかなり持つのに苦戦していたのに、すごいですわ」
「え?」と首を傾げていると、アリシアお嬢様がチョコレートをわたしに渡してくる。
「重っ!?」
たかがチョコレートなのに、岩みたいに重たい。元のサイズで自分のお屋敷にいたときは大好きで、よく摘んでいたのに。時々、はしたないからってガヴァネスに怒られたりもしたけれど、当然元の大きさの時には簡単に食べられていた。
わたしはよろけて、お腹に重たいチョコレートを乗せたまま、動けなくなってしまった。ひっくり返った虫みたいに必死に手足をバタつかせて、もがいている。
「あら、重たかったですの? ごめんなさいですわ!」
慌ててどかそうとするアリシアお嬢様は、やっぱり重たいチョコレートを軽々片手で持ち上げてしまって、そのままペロリと一口で食べてしまった。
「チョコレートは、もしかして初めてですの?」
わたしはその質問に首を横に振る。さっそくチャンスだと思った。わたしが元々はアリシアお嬢様たちと同じくらいの大きさだったと自然に伝えられる機会がやってきた。
「食べたことはあるわ。だってわたし、昔は——」
その瞬間、わたしの体はエミリアによって机に押さえつけられた。突如上から降ってきた巨大な手の平に押し潰されて、わたしは困惑する。




