わたしの働く場所 2
「この家って、何もかも巨人用の大きさで作られてるんですね」
まるで赤い草の生えている草原みたいな絨毯の中をソフィアと共に進んでいく。
「私たちが小さいだけですよ」
「またまた〜」と冗談めかして言ったけれど、膝の辺りまで伸びている絨毯の毛を見て、どうやってこんな大きな絨毯を作っているのだろうかと不安にはなった。仮にこんなに大きな絨毯を作っている工場があるのだとしたら、その噂はどこかで耳にしているのではないだろうか。
だけど、わたしはそんな巨大な絨毯工場は見たことがない。ソフィアが見せたいと言っているものがある場所に行くまでに、すでにわたしたちが小さくなっていることを認めてしまいそうになる。
「かなり念入りに手入れしてますので、大丈夫だとは思いますけど、ダニが出るかもしれませんので気をつけてくださいね」
「え?」
「ああ、でもダニが出た方が自分のサイズ感がわかりやすいかもしれませんね」
「や、や、やめてくださいよ!」
ここの家の人たちが巨大なだけだから、ダニが出たところで普通サイズだとは思うけれど、もし万が一、本来の大きさの二十倍くらいのサイズのダニが出たらと思うとゾッとしてしまう。わたしは思わずソフィアに抱きついてしまった。
「あら、カロリーナさんはわたしたちは小さくなっていないと言い張るのですから、ダニがでたところで怖くはないのでは?」
「だ、だってぇ……」
反論できずにただただ弱々しい声を出していると、ソフィアがため息をついた。
「まったく、ただでさえ絨毯の毛が高くて歩きにくいので離れて頂きたいのですが」
確かに時々足を取られながら進んでいるから歩きにくかったけど、それでも離れるのが怖かった。
「む、無理ですよ……」
「もう小さくなったことに納得して頂けたということでよろしいですか?」
「それは……」
本当はもうかなり信じてはいるけれど、認めてはいけない気がしてしまっていた。
「なんでも良いですけど、エミリアさんのやってくる時間に間に合わなかったら困るのは私ではないですからね」
不安になるようなことを言いながら、ソフィアはわたしのことは気にせずズンズンと先に進んでいく。
「あの、ソフィアさん……。一応尋ねますけど、これって夢じゃないですよね?」
「つねったほうがよろしいですか?」
わたしの身を強引に引き剥がして、くるりと後ろを向いたソフィアがわたしの頬を2本の指でつまんだ。そして、つねった方がいいかどうかの回答をする前につねってしまった。
「痛たたた……」
「ここが夢ではないと納得して頂けましたか?」
「えっと……」
痛かったのだから、認めなければならない。けれど、認めたくない。
「まだ納得して頂けませんか、そうですか……。では、アリシアお嬢様のお靴で踏んでいただくなんてどうでしょうか? それならきっと痛いか痛くないかで夢かどうかわか——」
「痛かったです! 夢じゃないです!!」
ここから遥か遠くにあるアリシアお嬢様のショートブーツ(多分アリシアお嬢様はたった数歩でここまでたどり着いてしまうのだろうけど……)の底面はわたしの背丈の倍以上あるのだ。そんなもので踏まれたら、ここが現実だとしたら、わたしは現実ではない世界に、アリシアお嬢様のショートブーツで召されてしまう。震えているわたしに対して、真面目な顔でソフィアが言う。
「あ、今のは冗談ですよ?」
「わ、わかってますよ。さすがに本気だったら怖すぎますし……」
そんなわたしの恐怖心なんて気にせず、アリシアお嬢様は遠くからでも見える大きな脚をブラブラとさせて、退屈そうにしているのだった。