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手乗りメイドはお嬢様に愛されたい!  作者: 穂鈴 えい


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203/207

1分の1のわたしたち 4

元に戻った日から数日してから、わたしは屋敷の前の大きな門扉の前で、みんなに送り出されていた。これから少なくとも1年以上はもうここに戻ってくることは無いのだろうと思うと、寂しさが込み上げてくる。部屋の中のさらに小さなお屋敷の中にいたから、綺麗に晴れた青空の元で陽を浴びるのはかなり久しぶりの気がした。


ここにくる時には荷物は何も持っていなかったから、帰りの荷物は何もなかった。手ぶらの状態で帰るのもよくないと思ったのか、アリシアお嬢様が気を使ってくれる。


「お土産何か持って行きますの?」

アリシアお嬢様から言われて、わたしは苦笑いをした。

「大丈夫ですよ。家に帰るだけですから」


まあ、帰るだけと言っても、長期間行方不明になっていた、婚約破棄をした家出少女として帰るわけで、きっと面倒ごともいっぱいなのだろうけれど。不安な表情のわたしに、パトリシアお嬢様とレジーナお嬢様が声をかけてくれる。


「婚約の許可取れなくて追い出されちゃっても、うちでメイドとして超高待遇で雇ってあげるから、大手を振って帰ったらいいよ」

「ダメよ、ちゃんと婚約の許可をもらってきなさい。リティシア家とうちが親交を深めておくと、今後の他家との交渉時にも有利に行くんだから、絶対に決めてきなさい」

レジーナお嬢様は相変わらず、厳しい口調で言うけれど、その表情はとても穏やかだった。


それに続いて、エミリアが口を開く。

「カロリーナなら大丈夫でしょ。あれだけずっとアリシアお嬢様のことをちゃんと愛し続けてるんだから」


今度はキャンディとメロディが涙を堪えながらわたしの前に出てきた。

「カロリーナ、寂しくなっちゃうね!」

「カロリーナ、また絶対会おうね!」


2人とも頑張って泣かないようにしているけれど、今にも涙が溢れてしまいそうだった。そんな2人の頭をそれぞれの手でソッと撫でた。

「大丈夫、また戻ってくるよ」


一時はわたしのことを泣き声で気絶させてしまうような大きな2人になっていたけれど、いつの間にか元に戻った姿はとても小さくて可愛らしかった。そんな2人の後ろでリオナまで目を赤くしていた。


「ちょっと、リオナまで泣かないでよ!」

「な、泣いてねーよ!」

「そんな潤んだ声で言われても説得力ないんだけど!」


リオナが泣いている姿に、わたしもちょっともらい泣きをしてしまっていた。リオナに泣き顔を見られるのが恥ずかしかったから、ギュッと抱きしめてお互いに顔が見えないようにした。


「あんまり普段言えなかったから、今言うけれど、いろいろありがとね。突然ここに連れて来られてわけわからない時から優しくしてくれて嬉しかったから」

「あたしは初見でカロリーナのこと拘束したんだから、優しくなんてしてねえよ」

「ううん、優しかった」

「そうかよ」とぶっきらぼうに答えていたリオナは少し照れくさそうだった。


リオナから離れると、今度はソフィアとベイリーがわたしの元に近づいてくる。

「これ、私とベイリーさんで一緒に焼いたクッキー。帰りに食べてください。ベイリーさんのことはちゃんと見張っていたから、変な魔法薬とかは入れてないから大丈夫ですよ」

「入れるわけないでしょ! わたしとソフィアで一緒に調理をするなんて何年ぶりかわからないから味は保証できないけれど、健康には害はないわ」

ソフィアとベイリーが笑いながら、2人で手渡してくれた。

「ありがとうございます!」とわたしは笑顔でお礼を言っておいた。


すっかり仲良くなった2人の姿に安心して、いよいよこれから帰るというときに、アリシアお嬢様がわたしの元に再び近づいてきた。

「リーナちゃん、絶対戻ってきて欲しいですの!」

「言われなくても戻るから大丈夫だよ、アリーちゃん」

わたしはアリシアお嬢様の小さな体ををギュッと抱きしめた。


「今度はリーナちゃんの婚約者として、ちゃんと待ってますの」

「じゃあ、わたしは婚約者として間違いなく迎えに行くからね!」

待ってますわ、とアリシアお嬢様が答えてくれたのを聞いて、わたしはアリシアお嬢様の体から離れた。


わたしは小さく息を吐き出して、思いっきりみんなに頭を下げてから、背中を向けて駆け出した。後ろからはそれぞれの声援が飛んできている。何かを話すと涙が溢れてしまいそうだったから、静かに、けれど、たくさんの感謝の気持ちを持ちながら、もう一度ここに戻ってくるためにリティシアの家に向かって駆けたのだった。

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