1分の1のわたしたち 3
わたしはアリシアお嬢様との婚約を2人の間では取り決められたけれど、まだ肝心のパトリシアお嬢様とレジーナお嬢様には伝えられていなかった。昨日はアリシアお嬢様の方から告白してくれたのだから、今日はわたしの方からちゃんと伝えなければならない。
わたしはアリシアお嬢様に近づいてから、手を取って、パトリシアお嬢様とレジーナお嬢様の前に出て、向き合った。アリシアお嬢様が小さな声で「リーナちゃん?」と不思議そうに首を傾げている。わたしはパトリシアお嬢様とレジーナお嬢様の方を向いて、しっかりと声を出した。
「あの、わたし、アリシアお嬢様と結婚を前提に交際させていただきたいです」
わたしの声を聞いたアリシアお嬢様が状況を察してくれて、ギュッとわたしの腕に抱きついてきた。
「この通り、わたくしとリーナちゃ……、カロリーナは愛し合っていますの。だから、お姉様方にも将来的な婚約の許可をいただきたいですの!」
わたしたちの後ろではみんなも緊張感を持って見守ってくれているのがわかった。大丈夫。パトリシアお嬢様もレジーナお嬢様も優しい人だから上手くいくはず。数秒時間が空いてから、パトリシアお嬢様が微笑んだ。
「もちろん、大歓迎だよ! カロリーナちゃんなら、安心してアリシアのこと任せられるよ! 新しく可愛い義妹ができちゃうなんて、私もとっても嬉しいなぁ」
アリシアお嬢様と繋いでいない方の手を取って、パトリシアお嬢様が両手でソッと優しく握りしめてくれた。パトリシアお嬢様からの許可がスムーズに行ってホッとしたのに、レジーナお嬢様は怪訝な目つきでわたしのことをジッと見つめていた。そして、冷たい口調で話し出す。
「現状では許可できないわね。そんな話、到底認められないわ」
「ちょ、ちょっとレジーナ! 何言ってるの?」
「そ、そうですわ、レジーナお姉様! わたくしたちの恋の邪魔をしないで欲しいですの!」
レジーナお嬢様の言葉を聞いて、パトリシアお嬢様とアリシアお嬢様が順番に意を唱えた。そんな2人の言葉をレジーナお嬢様が止める。
「2人とも、ちゃんと当家の将来のことを考えられないのなら、黙っていて欲しいわね」
わたしはできるだけ冷静にレジーナお嬢様に尋ねた。
「何かわたしに問題があるのでしょうか?」
「大アリよ」
ジッとわたしの方に顔をグイッと近づけてきてから、レジーナお嬢様は続ける。
「あなた、お家の人と揉めて、家出してここにやってきたのよね? 家出少女に大事なアリシアは渡せないし、そもそもうちの両親が認めないと思うわよ?」
レジーナお嬢様の言葉を聞いて、パトリシアお嬢様も少し気落ちしていた。
「残念ながらうちの両親は外面を相当気にするわ。ある程度有名な家の出身じゃないと、きっと難色を示すでしょうね。わたしたちはみんなカロリーナがどれだけアリシア思いの勇敢で優しい子かはわかっているわ。でも、両親はそんなこと何も知らない。ただの突然現れた家出少女に過ぎないわ」
「つまり、レジーナお嬢様の許可はもらえないということですか……」
わたしが気落ちして尋ねたらレジーナお嬢様が大きく首を横に振った。
「誰もそんなことは言っていないわ。あくまでも現状では許可できないだけ。でも、あなたには切り札があるでしょ?」
「切り札?」
「そうよ。わたしたちの両親を認められるような素晴らしい外面が」
わたしは納得した。そんなわたしにパトリシアお嬢様が優しく微笑んだ。
「そうだね。うちと親交の深いリティシア家のお嬢様なら、きっと文句も言われない!」
パトリシアお嬢様の言葉を聞いて、レジーナお嬢様が大きく頷いた。
「そういうことよ。カロリーナ、あなたは一度家に帰って、リティシア家の令嬢として、アリシアと結婚することを許してもらいなさい。そうすれば、後はわたしとパトリシアお姉様が両親のことはいくらでも説得するわ。女性同士だって関係ない。幸いアリシアは三女だし、リティシア家とのつながりを強くすることは大きなメリットにもなる」
レジーナお嬢様は力強く言い切った。それを見て、パトリシアお嬢様はレジーナお嬢様の頭を優しく撫でていた。
「えらいよ、レジーナ。ここまで当家のことを考えてくれているなんて。私がいない間にさらに立派になってる」
パトリシアお嬢様に褒められたレジーナお嬢様は普段の緊張感漲る表情を崩して、100点のテストを褒められた子どもみたいに嬉しそうに微笑んでいた。
「わたしだって、一時期は本気で当主にならないといけないと思って、必死に家のこと考えてたもの」
レジーナお嬢様がそう言うと、パトリシアお嬢様が真面目な表情をした。
「その話なんだけどね、私は次期当主はレジーナが良いと思ってるんだ」
パトリシアお嬢様の言葉を聞いて、レジーナお嬢様が目を丸くしていた。それを見て、パトリシアお嬢様が慌てて補足する。
「あ、別に大変なことを押し付けるっていう意味じゃないよ! 大変な部分は一緒にやっていこうよ。なんなら名目上はわたしが当主として動いて、矢面に立ちつつ裏でレジーナが傀儡してくれる形でも良いと思うし! 私は当家のことを考えたらレジーナの方がずっと当主にふさわしいと思ったんだ」
「次期当主って……、そんな、わたしはそんな器ではないし……」
それを聞いて、パトリシアお嬢様が首を横に振ってから、優しく抱きしめた。
「ううん、そんな器だよ。とってもふさわしいよ」
そんなパトリシアお嬢様のことを、レジーナお嬢様が力一杯抱きしめ返した。
「わたし、パトリシアお姉様がいない間、ちゃんと頑張れてたのかしら」
ほんのり涙声になってしまっていたレジーナに、パトリシアお嬢様は優しく頷いた。
「うん、とっても頑張ってたよ。ちゃんとお家を守ってくれてありがとう」
そんなやり取りを聞いて、アリシアお嬢様も2人の方へと駆け寄っていく。
「パトリシアお姉様も、レジーナお姉様もとっても素敵なお姉様ですの!」
そのまま思いっきり抱きついたアリシアお嬢様のことを仲間に入れるみたいにして、3人で抱きしめ合っていた。そんな素敵な三姉妹と家族として一緒に生活ができるようになったら、きっととても楽しいだろうな、と改めて思ったのだった。