表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/207

1分の1のわたしたち 2

わたしは再び机の上に立って、アリシアお嬢様のことを見上げた。まだアリシアお嬢様の温かさが顔に残っていて、ドキドキしていた。

「ありがとうですわ。たくさん堪能しましたの」

優しく微笑んでいるアリシアお嬢様のことを見つめ返してから、ベイリーに向き直して、手の甲をベイリーの方に向けた。

「それじゃあ、お願いします……」


ええ、と頷いて、ベイリーはわたしの手の甲にキスをした。少ししてからわたしの体はどんどん大きくなっていく。アリシアお嬢様の机の上に乗り切らなくなり、地面に降りる。アリシアお嬢様のお腹の前辺りにあった視線が、胸にいき、顔にいき、最終的にアリシアお嬢様よりも背の高い状態で落ち着いた。


改めて、久しぶりに元のサイズで辺りをみまわしてみると、なんだか自分が巨人になったみたいで不思議だった。わたしはホッと息を吐いてから、ゆっくりと小さなメイド屋敷に近づいていく。今までアリシアお嬢様の勉強用のデスクから屋敷まで歩くのはちょっとした冒険みたいだったのに、少し歩いただけでやって来られたのがなんだか不思議な気分だった。


「こんなにも小さくて可愛らしいお屋敷だったんだ……」

わたしたちがみんなで住んでいたお屋敷の屋根をソッと撫でてみた。元のサイズで見ると、あれだけ使い心地の良かったメイド屋敷はただのドールハウスになっていた。元に戻れたけれど、もうお屋敷に入ることはできないから、少し名残惜しくもあった。


「あの時目覚めて、キャンディとメロディに会ってから色々なことがあったな……」

屋敷に住んでいたのは短い期間だったけれど、20分の1になって、400分の1になって、アリシアお嬢様に可愛がられたり、エミリアに虐められたり、ソフィアに軟禁されたり、たくさんのことを経験した気がする。思い出して、わたしは小さく息を吐いた。


そんなわたしの郷愁を一瞬で吹き飛ばすみたいに背中側からレジーナお嬢様が人目を憚らず泣き出す声がした。

「アリシア〜、今までごめんね〜!」

後ろを見ると、レジーナお嬢様が強い力でアリシアお嬢様のことを抱きしめて、あろうことか、頬に唇をくっつけて吸いついていた。


「ちょ、ちょっと、レジーナお姉様、そういうのは人が見ている時には恥ずかしいですの!」

「だ、だって、わたし、パトリシアお姉様がいない間とっても意地悪な態度をとっていたから、アリシアに嫌われちゃったんじゃないかって怖くてぇ……。本当はずっとアリシアのこと大好きだったのにぃ!」


権力争いから遠ざけるためにレジーナお嬢様は無理やりアリシアお嬢様とは仲が悪いふりをしていた。そんな演技も、もうパトリシアお嬢様が戻ってきた今となってはしなくても良いらしい。ここぞとばかりにレジーナお嬢様はアリシアお嬢様のことを可愛がっていた。


「わ、わかってますわよ。レジーナお嬢様がわたくしのことが大好きなことは! わたくしもレジーナお嬢様のことは大好きですの!」

レジーナお嬢様が今度はアリシアお嬢様の首元にキスをしていた。そんな過度なスキンシップを見て納得する。アリシアお嬢様の昨日の積極的な姿は、きっとこうやってレジーナお嬢様から強く可愛がられた名残なのだろうと言うことを。頷くわたしのそばにエミリアがやってきて、ソッと耳打ちをしてくれる。


「アリシアお嬢様に婚約を申し込むのなら、あのお姉様たちのことも納得させておいた方が、今後のために良いと思うわよ」

優しい声でそれだけ言ってから、エミリアはまたそそくさとみんなの中に溶け込むみたいにして戻っていった。


そうなのだ。アリシアお嬢様に求婚をするということは、アリシアお嬢様の家族にも納得してもらわなければならない。そのためにはきちんとあの2人にも自分の気持ちは伝えておかなければならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ