専属メイドテスト 6
「おい、お前らそろそろ良いんじゃねえか?」
ある程度時間が経って、わたしとアリシアお嬢様が巨大な2人の相手をするのに疲れてきた頃を見計らってリオナがストップをかけてくれた。
「えー、まだ遊びたいよ!」
「楽しいのに!」
「ダメだダメだ。お前らも一応メイドなんだから、何かエミリアの手伝いをしろよな」
リオナは一応片手に布巾を持っているから、仕事をしているみたいだった。
「で、テストはどうだったんだよ?」
リオナは今度は机の上に顔を近づけて、アリシアお嬢様のことをジッと見ていた。本人は冷静に尋ねているつもりなのだろうけれど、サイズ差のせいで、緊張していることがしっかりと伝わってきてしまっていた。
「あたしはともかくこの2人は合格で大丈夫だよな?」
リオナが不安そうにアリシアお嬢様に尋ねると、アリシアお嬢様は満面の笑みで「もちろんですわ!」と答えた。
「元の大きさに戻ってからは、わたくしの元で、リオナ、キャンディ、メロディの3人で専属メイドとして働いてもらいますの!」
アリシアお嬢様の言葉を聞いて、キャンディとメロディは抱きしめ合った。
「やった、やった! これからも一緒だね!」
「リオナちゃんも一緒!」
喜ぶキャンディとメロディを横目にリオナが少し申し訳なさそうに首を横に振った。
「せっかく選んでもらったところ悪いけど、あたしは遠慮しておくよ」
リオナが拒んだのを見て、アリシアお嬢様が不安そうに首を傾げた。
「わたくしの専属メイドが嫌でしたら、別に他にもメイド職はありますの。そちらで働いても……」
「いや、そういうわけじゃねえよ。アリシアの為に働くのはもちろん最高だよ。飯も寝床もあるからよ。けど、あたしはこいつらとかカロリーナみてえに潔白な人間じゃねえんだよ……。あたしはここに来るまでに相当悪さを重ねてきて生きてきたんだよ。そんなやつ雇っちゃダメだろ」
リオナが泣きそうな顔で寂しそうに笑っていた。それを見て、アリシアお嬢様が小さな身体でしっかりとリオナのことを見つめる。
「ねえ、リオナ。リオナはここに来てから誰かをいじめたり、嫌な思いをさせたりしましたの?」
「したよ。あたしはエミリアのことぶん殴った」
アリシアお嬢様は「していない」と答えてほしかっただろうに、残念ながらリオナはエミリアに手を出してしまっていた。アリシアお嬢様が言い淀んでいると、エミリアが大きくため息をついてから部屋の中の少し遠い場所から声をだす。
「それ、わたしがカロリーナたちに意地悪したことへの反撃よ。リオナは仲間の為に殴ったのよ」
「あたしがてめえにイラついてたから殴ったんだよ」
リオナがなぜか助け舟を出してくれたエミリアに反論していた。わたしもソッとアリシアお嬢様に伝える。
「少なくともわたしの見てきたリオナは仲間思いの優しい子ですよ」
仲間思いすぎて過剰防衛気味になるところは悪い癖だけれど、わたしたちのことを考えてくれていることは間違いない。
「リオナちゃんはめちゃくちゃ優しいよ!」
「リオナちゃん大好き!」
キャンディとメロディも続けて声を出した。そんなみんなの声を聞いて、アリシアお嬢様は改めてリオナの方を見つめた。
「わたくし、リオナの過去は正直ほとんど知りませんの。そこに暴力であったり、お金を盗んだり、そういうものもあるかもしれませんわね。けれど、それが無意味に行われたことなのか、何か理由があって行われたことなのかによって意味は変わってくると思いますの。リオナの場合はどうですの?」
「生きるためではあるけど、そんな適当な判断で良いのかよ?」
「もちろんですわ。わたくしはここで見てきたことを信じますの。それに、それ以前からリオナがパトリシアお姉様が道に迷った際に助けてくれた恩人であると聞いてますの。お姉様の恩人は無碍にできませんわ」
アリシアお嬢様がフォローした後にエミリアが続けた。
「それに、こんな暴力メイド野に放ったら何するかわからないもの。危ないからここで雇っておいた方が安全かと」
「リオナの馬鹿力活かすのはこのお屋敷が一番だよね」
エミリアに続いてわたしも続く。
「エミリア、カロリーナ、てめえら好き放題言いやがって!」
リオナが大きな声をだしたのを見て、アリシアお嬢様が微笑んだ。
「いずれにしも、リオナがどうしても嫌じゃなかったら、うちで働いてもらいますの」
「アリシアが嫌じゃねえなら固辞する理由はねえよ。これからもよろしく頼むぜアリシア……、いや、アリシアお嬢様!」
リオナがこれからも働くことを聞いてホッとしつつ、わたしは専属メイドからいつの間にか外されてしまっていることに不安になるのだった。




