専属メイドテスト 5
「次はお人形で遊ぼ!」
今度はキャンディが楽しそうに提案してきた。アリシアお嬢様がエミリアにドール人形のセットを持ってくるように指示をしていたから、すぐにセットが届いた。相変わらずエミリアはテキパキと動いている。
箱の中から出てきたドール人形は15センチくらいの大きさで、着せ替えができるタイプみたいだ。すぐそばに置かれたドール人形を見上げてみると、変わらない表情で真正面を見ていた。わたしたちの倍近くあるドール人形の姿はやっぱり少し不気味かもしれない。
「アリシアお嬢様、わたしたちよりも大きいですね……」
「わたくしたちもお人形さんみたいなものですわね」
アリシアお嬢様が無邪気に笑っていた。
机や椅子も出てきたけれど、メイド屋敷に置いているものよりも少し安っぽいものだったから、メイド屋敷の備品はベイリーが小さくしたものだったのかもしれない。キャンディとメロディは持っていたドール人形の服をメイド服に着替えさせていた。
わたしがレジーナお嬢様の部屋で着させられたものと同じだったから、少し懐かしい気分にもなった。あの時はわたしにはブカブカだったけれど、目の前のドール人形にはちょうど良い大きさだった。
「アリシアおじょーさまがおじょーさまで、キャンディたちがメイドさん!」
「いつも通りですわね……」
アリシアお嬢様が優しそうな笑みを浮かべていた。
わたしたちはドール人形を使わずに、生身の身体で役割を与えられるらしい。まあ、ドール人形を動かせと言われても引きずってしまうか、そもそも重たすぎて持てないだろうから、それはそれで良いのだけれど。
「カロリーナはねぇ……」
「えーっとね……」
キャンディとメロディがわたしの役割を考えあぐねていたらしい。
「「アリシアおじょーさまの婚約者!」」
わたしとアリシアお嬢様は大慌てで顔を見合わせた。同じ部屋の中の少し離れたところで聞いていたエミリアはわざわざわたしの方を見て微笑んでから、口を出す。
「あら、とっても楽しそうなシチュエーションね」
「こ、婚約者って、そんな……」
わたしは慌ててアリシアお嬢様に否定してもらおうと顔を赤くしながら視線を送ったのだけれど、アリシアお嬢様は妖艶にニッコリ微笑んでから、「良いですわ」と了解したのだった。
「ア、アリシアお嬢様の婚約者なんてそんな……」
「嫌でしたの……?」
アリシアお嬢様が不安そうに尋ねてくるから、慌てて首を横に振った。
「嫌なわけはないです! ただ、畏れ多いというか……」
「畏れ多くなんてないですの。わたくしがやりたいと言っている遊びに付き合ってくれない方がメイドとして酷いですわ」
アリシアお嬢様がプイッと顔を横に向けたから、わたしは覚悟を決めた。
「わかりました。じゃあやりましょう! わたしとアリシアお嬢様の新婚生活!」
「嬉しいですわ!」
とりあえず、わたしたちの倍くらいの背丈のドール人形用に作られた椅子に座ってみる。
「なんだか小さな子どもになった気分ですの」
アリシアお嬢様が無邪気に呟いた。たしかに、わたしたちのサイズには少し合わなかった。
「婚約者よりも子どもおじょーさまと大人メイドとかの方が良かったかな?」
キャンディが首を傾げた。
「アリシアおじょーさまとカロリーナが子どもでメロディとキャンのお人形が大人役にしようよ!」
背丈に合わない、足の付かない椅子に座っているのを見て、婚約者という話は一瞬で無くなったみたいだ。
「残念ですわね」とアリシアお嬢様が小さく笑っていたのを見て、わたしは曖昧に微笑んだ。みんなの前で公開告白とか、そういうことをしかねなかったし、これならこれでよかったのかも、と少しだけホッとしたのだった。まあ、ドール人形が大人役で、わたしたちが子ども役というのは少しだけ複雑な気持ちになったけれど……。




