元に戻す魔法 2
「あの、ベイリーさん。アリシアお嬢様とカロリーナをポケットの中に入れた状態で戻したら、1回で3人を20倍にできたりしませんか?」
エミリアが提案して、ベイリーが頷く。
「そうね……。できると思うわ……。そうしましょう……」
かなり疲れてそうなベイリーにエミリアが申し訳なさそうに手の甲を差し出した。
「すいません、ベイリーさんお願いします」
ベイリーがエミリアの手の甲にキスをして少しすると、エミリアの体がどんどん大きくなっていく。そして、それに合わせてわたしとアリシアお嬢様も大きくなっていった。
「久しぶりに手のひらサイズになれました」
「わたくしはこの大きさは初めてですの」
わたしたちはエミリアにポケットから出されてまた机の上に戻された。同じく20分の1サイズになったベイリーは、肩で大きく息をしていて、マラソンを走り終えた後くらいしんどそうにしていた。
「多分、今日は次がラストね……。そろそろ気を失いそうだわ……」
立っているのもやっとのようなベイリーを見て、わたしとアリシアお嬢様は顔を見合わせた。
「ねえ、リーナちゃん。もしどちらかが元に戻るのならわたくしリーナちゃんが良いと思いますわ。わたくしが自分のわがままで小さくなりたいなんて言わなければみんな元に戻れたわけですの。でも、もしリーナちゃんがまたわたくしのわがままを聞いてくれるのなら、一緒にこの大きさで小さなお屋敷の中で一晩過ごしてみたいですの。もちろん、リーナちゃんがよければの話ですの……」
申し訳なさそうに言うアリシアお嬢様の提案を聞いて、わたしは頷く。
「わたしはもしどちらかが戻るのならアリシアお嬢様が戻るべきだとは思いますが、もしアリシアお嬢様が希望するのなら、わたしもアリシアお嬢様と一緒に小さなお屋敷で生活してみたいです!」
「じゃあ決まりですの! ベイリーはまた一晩休んでわたくしたちのことを元に戻してもらったら良いですわ」
アリシアお嬢様が優しく微笑むのを見て、ベイリーはかなり申し訳なさそうにしながらも、頷いた。
「申し訳ございません。わたしの力不足です……」
そのままベイリーは気が抜けたみたいに横になってしまった。
「とりあえず、ベイリーさんのことは私が面倒を見ておきますね。エミリアは2人が危なくないようにこの部屋に泊まって屋敷の見守りをしておいてもらってもいいですか? 今の私たちならネズミが出てもすぐに退治できると思いますが、まだこの2人とっては脅威なので」
20分の1サイズでグッタリしているベイリーを手のひらに乗せながら、ソフィアが指示を出していた。ソフィアの指示を聞いて、エミリアが「もちろんです」と頷いた。
リオナとキャンディとメロディもこの部屋に残るみたいだから、結局部屋の中に残るメンバーは昨日までと変わらない気もした。けれど、屋敷の中にいるのはわたしとアリシアお嬢様2人だけ。屋敷の中は今朝までと比べてずっと静かだった。
「なんだか2人だけのお家っていいですわね!」
アリシアお嬢様がウキウキ口調でそう話す。
「そうですね」
「リーナちゃんと結婚したら、こんな感じですの!」
アリシアお嬢様は入り口から入ってから、ダイニングの方にまっすぐ入っていく。
「ダイニングってこんな感じですのね! すっごいリアルですの!」
アリシアお嬢様はこの屋敷の中を屋敷にちょうど良いサイズで入ったのは初めてだ。だから、いちいちはしゃいでいた。ダイニングから出て、今度はソフィアの部屋へと入っていった。ソフィアの部屋はネズミに荒らされた後がそのままになっていて、ドアは無くなっているし、机も転がってしまっていた。
「一応直しておきますね」
リオナの壊したドアを元に戻すのは難しかったけれど、それ以外はほとんど綺麗にしておいた。明日からは誰も使わなくなる屋敷だけれど、だからこそできるだけ綺麗な状態で明け渡したかった。もうこれからは細かいところまで丁寧に掃除をできる人はいなくなってしまうわけだし。




