ベイリーはどこに? 2
「とりあえず、パトリシアお嬢様に会いに行きませんか? それで、その後ベイリーさんを探しましょう」
わたしが提案したけれど、エミリアもリオナもあまり乗り気にはなってくれていなかった。
「あたしらが行くならともかく、カロリーナはやめた方が良いんじゃねえか?」
「そうね。カロリーナだとパトリシアお嬢様に吹き飛ばされちゃうかもしれないわ」
2人が止めるのとほとんど同時に、ポケットから声が聞こえた。
「カロリーナさん、わたしも連れていってもらってもよろしいでしょうか?」
「もちろん。一緒に行きましょう」とソフィアに伝えてから、わたしは2人を見上げた。
「ソフィアさんも一緒に行きますから」
これはソフィアとベイリーとパトリシアお嬢様の問題なのだ。張本人を連れて行かないわけにはいかない。そして、そのためには通訳としてわたしも行かなければならない。
「キャンディも行く!」
「メロディも行く!」
「お前らなぁ……。あたしも行かざるを得ねえじゃねえか」
リオナが大きくため息をついた後に、エミリアも続ける。
「さすがにソフィアさんに危険な思いはさせられませんから、わたしも行きます」
みんな来てくれることがわかり、アリシアお嬢様がわたしに向かって微笑んできた。
「良かったですわね。これでみんなで行けますの」
アリシアお嬢様が喜んでいると、目の前にエミリアの手が出てくる。
「さ、善は急げよ。さっさと行きましょう」
わたしたちはエミリアの手のひらに乗って、そのままポケットにしまわれる。
「何度も言うけれど、外は危険だからちゃんと気をつけてね。絶対にポケットの外に出ないでね」
エミリアに言われて、わたしもアリシアお嬢様も頷いた。わたしたちは顔だけポケットの外に出して、外の様子を見ながら進んでいく。エミリアを先頭に、後ろからリオナとキャンディとメロディもついてきて、みんなで外に出た。
その瞬間、耳が痛くなるくらい大きな暴風のような音が聞こえてきた。パトリシアお嬢様が何か言葉を発したらしい。思わず耳を覆ったわたしとは違い、アリシアお嬢様はとても興奮した様子だった。
「パ、パトリシアお姉様ですわ!!」
わたしは巨大すぎて全然全貌が見えなかったけれど、アリシアお嬢様は一瞬で気付いた。
「さっきからずっと啜り泣いてるんですよね……」
エミリアが心配そうに見上げていてから、大きな声を出す。
「パトリシアお嬢様、みんなで来ましたよ!」
初めは聞こえなかったみたいで泣き続けていたから、もう一度エミリアが大きな声を出す。
「パトリシアお嬢様!!」
「パトリシアおじょーさまー!」
その後に続いて、キャンディもメロディも元気な声を出していたのを聞いて、ようやくパトリシアお嬢様が気づいてくれた。一瞬声の出どころがわからずにキョロキョロ見回していたけれど、すぐに気づいて机の上にかなり顔を近づけてきた。
「みんな揃ってどうしたの?」
顔がグッと近づいてきて、エミリアが思わず後ろに転んで尻餅をついてしまっていた。パトリシアお嬢様はまだあまり大きくなったことに慣れていないようで、距離感が掴めていないようだった。小さいサイズだった頃の癖で声も大きいし、距離も近い。
「エミリア大丈夫!?」
パトリシアお嬢様が慌てて声をかけたのと、地面の向きが変わってしまい、アリシアお嬢様がポケットの中から転がってしまったのがほとんど同時だった。アリシアお嬢様がメイド服の上を転がって行ってしまっている。
「リ、リーナちゃん。助けてですの!!」
「アリシアお嬢様!」
わたしもポケットから飛び出して、なんとかアリシアお嬢様の手を掴んだけれど、その瞬間にわたしたちの体は宙に浮いてしまった。パトリシアお嬢様は今までずっと小さな体に慣れてしまっていたせいもあって、動きが全体的に大きくなっている。そして、400分の1サイズのわたしたちがどれくらい小さいのかということを、400倍の視点からはよくわかっていない。近距離でエミリアを心配して顔を近づけてきているパトリシアお嬢様の呼吸はわたしたちを吹き上げるのには充分な強さだった。
「アリシアお嬢様、絶対に手を離さないでくださいね!!」
わたしたちは手を繋いだまま、呼吸に吸い上げられてパトリシアお嬢様の形の良い鼻にどんどん吸い上げられてしまっていた。




