パトリシアお嬢様との再会
元の大きさに戻ったベイリーは、パトリシアお嬢様のことを元に戻してから、ゆっくりと呟いた。
「パトリシアお嬢様、ようやく会えましたね……」
アリシアお嬢様の部屋の中には、ベイリーとパトリシアお嬢様の2人きり。ベイリーは頬を紅潮させながら、元の大きさに戻したパトリシアお嬢様に声をかけた。
一体どれほどの時間この時を待っていただろうか。ずっとソフィアに小さな姿のまま軟禁をされていたなんて、本当にどれ程酷い仕打ちだっただろうか。小さな姿のまま自身を愛するヤンデレメイドの意のままに好き勝手に扱われてしまっていたのだから。
そんな不憫なパトリシアお嬢様のことをソッと抱きしめようと近づいたのに、パトリシアお嬢様はベイリーのことを睨むような怖い目で見ていた。
「パトリシアお嬢様……?」
「早くみんなを戻してあげて」
感動的な気持ちで再会を喜んでいるベイリーと違い、パトリシアお嬢様は静かに怒っていた。
「まるでわたしが意地悪して戻していないみたいなこと言わないでください……。わたしはみんなにもうすでにいつでも戻すと言ってます……」
「そのみんなにソフィアも入っているの?」
「入っていませんけど、それはソフィアがパトリシアお嬢様のことを軟禁してメイドとして不適切な行動を取ったからで……」
「私がもう許しているのに? ソフィアのこと元に戻して欲しいって言っているのに?」
「それは……」
ベイリーが言い淀む。
「ねえ、早く元に戻してあげてよ! 400分の1のサイズで生活していた時、私はとっても心細かったよ。でも、ソフィアは今8000分の1のサイズ。およそ0.2ミリ。わたしたちからはきっと姿は点としてしか見えないなんて、そんなの心配だよ……」
パトリシアお嬢様が顔を覆って泣き出した。当然、ある程度の時間が経ったらソフィアのことだって元に戻すつもりだった。それまでの間くらい、せめてベイリーは自分の方を見て欲しかった。
「あの……。パトリシアお嬢様わたしと久しぶりに会ったのに、ずっとソフィアのことばっかりって少し酷くないですか……」
「酷いって……。ソフィアを極小サイズにしてしまったベイリーの方がずっと酷いよ?」
そうだけど、それはわかっているけれど……。でも、それでも久しぶりの再会くらいはベイリーのことを見て欲しかった。
「パトリシアお嬢様はソフィアの方が好きなんですね」
ベイリーが静かに言う。
「好きとか、そういうこと言ってる場合じゃないでしょ……。わたしはソフィアが心配なだけ」
「ストックホルム症候群ですか? ずっと一緒にいたから、もうわたしよりソフィアが大事なんですよね?」
ベイリーは目に涙を溜めていた。
「そういうわけじゃないよ」とパトリシアお嬢様が言ったのに、ベイリーは聞く耳を持たない。
「もう全部めちゃくちゃにしてしまいますから!」
ベイリーがメイド屋敷の屋根に両手を置いた。
「何するつもり!?」
「落として、踏みつけて、ぐちゃぐちゃにしてしまいますから!」
ベイリーが泣きながら言い切った瞬間に、パトリシアお嬢様の手のひらがベイリーの頬に勢いよく振り下ろされた。パチンと高い音が部屋の中に響き渡った。ベイリーがメイド屋敷から手を離して、頬を抑えて、唖然とした表情でパトリシアお嬢様のことを見つめていた。
「今のベイリーのことは大嫌いだよ。早くみんなを元に戻して、優しいベイリーに戻ってよ! それまで顔も見たくないし、口も聞かないから!!」
パトリシアお嬢様が言い切ったら、ベイリーが子どもみたいにワンワン大きな声をあげて泣き出した。
「なんでわたしにばっかり意地悪するの? もうみんな大嫌いよ!!」
大泣きしながら部屋から出ていってしまった。
「あ、ちょっとベイリー!」
そうして、結局一晩経ってもベイリーは戻ってこなかったのだった。




