不穏な事実 1
〜登場人物〜
カロリーナ……謎の屋敷に連れてこられた新米メイドの少女
ベイリー……温厚な糸目メイド
ソフィア……真面目な丸眼鏡メイド
「カロリーナちゃん、お待ちなさい。どこへ行くつもりかしら?」
双子の寂しそうな声に耳を傾けることのできなかったわたしだけど、今の声には思わず足を止めてしまった。
恐る恐る後ろを振り向くと、普段の糸目とは違い、パッチリとした目を開いたベイリーがいた。いつの間にか、屋敷の外での作業を終えて、室内に戻っていたらしい。
「どこって……。ちょっと外に……」
コツンとメイド用のストラップシューズの音を鳴らして、ベイリーが一歩だけわたしの方に近づく。
「わたしたちメイドが外に出ていいのは、アリシアお嬢様の指示があった時だけなのだけれど、まだ来たばかりのカロリーナちゃんは知らなかったわよね」
小さく頷いたけれど、きっと知っていても外には出たと思う。わたしは真相を確かめたい。
「あの、ベイリーさん。わたしたちが仕えるお嬢様って、巨人なんですか?」
「まさか、普通の大きさよ」
「え?」
双子の話を元に判断すると、間違いなくアリシアお嬢様とエミリアは巨大な人たちであるはずなのに、ベイリーはかなりはっきりと否定した。メロディとキャンディが嘘をついたということ? そんなことを考えると、双子が恐る恐る階段を降りてきた。
キャンディの後ろに、メロディが身を隠すみたいにギュッと抱きつきながら、階段の下で動きを止めた。
「あ、あの……。ベイリー、キャンディ、カロリーナに言っちゃったかもしれないの……」
「あ、あの……。ベイリー、違うの。メロディがいっぱいカロリーナに言っちゃったの……」
「違うよ、キャンディが悪いんだよ」
「違うよ、メロディが悪いんだよ」
泣きそうな顔で謝る2人を見ている時のベイリーの瞳は、すでに普段のような優しそうな糸目に戻っていた。
「別にいいのよ。キャンディちゃんとメロディちゃんと一緒に行動させる時点でこの展開は読めていたわ。だから、普段よりも早めに仕事を切り上げて戻ってきたわけだし」
「あ、あの……。真相はどっちなんですか……? アリシアお嬢様は巨人なんですか? それとも普通の大きさなんですか?」
「さっきも言った通り、普通の大きさよ」
「それなら……」
どんどん混乱してわけがわからなくなる。先ほどのキャンディとメロディの話を聞く限り、わたしの仕えるお嬢様はとても大きそうだったのに。わたしがもう一度ドアノブに手をかけると、ベイリーの声がする。先ほどの内臓を突き刺すみたいな声ではなく、聞き覚えの悪い子どもを嗜めるみたいに。
「仮に、外に恐ろしい世界が広がっているとして、あなたはどうするつもりなのかしら?」
「そりゃ……。本当に巨人の住んでいる屋敷だったら、わたしは逃げますけど……」
「そう……、なら自分の目で見たらいいわ。でも、その前にもう一度言っておくわ。わたしたちが仕えるご主人様たちは別に大きくはないわ」
ベイリーはしっかりとした声で言い切った。わたしはドアノブを掴んでから、ゆっくり扉を開けると、本当にとんでもない世界が広がっていた。