ベイリーはどこに? 1
トラブルはあったけれど、これでようやくひと段落してご飯を食べられる。
「さ、早く食べないといけないわ」
エミリアに言われてみんなさっさと食事を始めた。
わたしたちに料理を食べさせてくれながら、エミリアが自分もいそいそと食べていた。わたしとアリシアお嬢様に食事を食べさせつつ、自分の口にもテキパキと運んでいくから、かなり動きは慌ただしかった。
「そうだわ、みんな食事が終わってもダイニングに残って欲しいの。大事な話があるから」
「あ、わたくしたちも大事な話がありますの!」
エミリアに続いてアリシアお嬢様も大事な話を提案していた。アリシアお嬢様の方はこれからベイリーにみんなで謝りにいこうという話なのだろうけれど、エミリアは何の話をするつもりなのだろうか。いつにも増して深刻な声を出している。
「エミリアも何か話があるみたいですわね」
アリシアお嬢様がわたしにしか聞こえない声で話しかけてきた。アリシアお嬢様も不安そうだった。
「まあ、とりあえず聞いてみようよ」
「そうですわね」
そうして食事が終わり食器を片付けてからまたみんなでダイニングに集まった。
「とりあえず、まずはアリシアお嬢様からお話していただいてもよろしいですか?」
促されてアリシアお嬢様が話し出す。
「わたくし、これからベイリーに会ってソフィアのことを許してもらうように説得しに行きますの」
アリシアお嬢様の声を聞いて、リオナが困惑の声を返す。
「ベイリーに会うって言っても、アリシアもカロリーナも400分の1サイズなんだろ? あたしらだって、ここなら大きく見えるけど、あくまでも外に出たら手のひらサイズなわけだし」
リオナの言う通りではあるけれど、そこはもちろん織り込み済みである。
「ベイリーさんが部屋の中にいてくれたらなんとか会話の機会はあるんじゃないかなって思ってる」
「まあ、ベイリーが部屋にいたらあたしらが連れて行けるからな。踏み潰されねえように注意はしねえといけねえけど」
リオナが少し納得しかけてくれていたけれど、ここでエミリアが申し訳なさそうに話に入ってくる。
「それが、そのベイリーさんがパトリシアお嬢様と喧嘩をしてどこかに行ってしまって帰って来ないらしいのよ」
「えぇっ!?」
わたしもアリシアお嬢様もリオナも驚きの声を出した。
「どこかって言っても一旦どっか行っただけだろ?」
「そうかもしれないけど、パトリシアお嬢様に場所を言わずにどこかに行ってしまって一晩帰ってこないなんて、ちょっと心配だわ。ベイリーさんらしくない」
「どこかに行っちまったんだったら戻ってくるまで待つしかねえんじゃねえのか?」
そんな風にみんなで会話を進めていると、アリシアお嬢様のポケットの中から声がする。
「先ほど2人とも驚いてましたけれど、一体何があったのですか?」
気を失っていたソフィアが目覚めたみたいで、ポケットをよじ登って顔を出してきた。
「ベイリーさんがどこかに行ってしまったらしいんです」
「ねえソフィア。ベイリーがパトリシアお姉様に黙ってどこかに行くことなんてありましたの? ソフィアとベイリーはとってもしっかりしたメイドだと思うので、無断でどこかに行くっていうのが考えられませんの」
アリシアお嬢様が尋ねると、ソフィアが難しそうな顔をして、考え始めた。
「どこかに行った理由はもう聞いていますか?」
「なんか喧嘩したみたいですよ」
わたしが答えると、ソフィアが怪訝そうな表情でわたしのほうを見上げていた。
「喧嘩……。理由はわかりますか?」
ソフィアに聞かれて、わたしはエミリアの方を見上げる。
「エミリアさん、喧嘩の理由ってわかりますか?」
「ええ、パトリシアお嬢様がソフィアさんのことを元に戻すまでベイリーさんとは口を聞かないって言ったら、泣きながら出ていったらしいわ……」
その内容をソフィアに伝えると、ソフィアがため息をついた。
「ちょっとこれは、帰ってくるまで長いかもしれませんね……」
わたしとアリシアお嬢様はソフィアの答えを聞いて、困ったように顔を見合わせたのだった。
「前にもあったんですか?」
「いえ、そういうわけではないのですが、私とベイリーさんにとってパトリシアお嬢様はすべてなので……。きっとベイリーさんの心は相当ショックだったかと……。パトリシアお嬢様は私たちの気持ちをとっても甘くみていますね……」
ソフィアはどこか諦めたように笑っていたのだった。




