朝食時のハプニング 1
「リーナちゃん、おはようですわ!」
新しいわたしの朝はアリシアお嬢様が耳元で囁いた声で始まった。エミリアが使っている20分の1サイズの小人用のベッドの枕の横で、わたしとアリシアお嬢様は起床した。
「おはようございます。アリシアお嬢様!」
わたしはこの屋敷に来てから、これまでにないくらい気持ちの良い目覚めをした。まさかアリシアお嬢様と同じ大きさで、一緒に寝られる日が来るとは思わなかった。もっとも、400分の1のサイズではなく、普通サイズで一緒に眠りたかったというのが本音ではあるけれど。
とりあえず、初日はわたしとアリシアお嬢様とソフィアはエミリアのベッドで一緒に眠ることになった。4人で1つのベッドを使って一緒に眠ることになったのだけれど、実質エミリア一人分しか場所を取らないから余裕で収まった。エミリアは眠っている時までとても姿勢良く、まったく寝相を崩すことはなかったので、小さなわたしたちも安心して眠ることができたのだった。
ただ、アリシアお嬢様は相変わらず寝相が悪かったので、ソフィアはわたしがお腹の上で軽く抱いて眠ることにした。わたしのお腹の動きに合わせて動くソフィアのことを途中で潰してしまったらどうしようかと不安にはなったけれど、かといってわたしかアリシアお嬢様のどちらかがソフィアのことを確実に認識できる状態にしておかないと、見失ってしまったら大変なことになってしまう。わたしとアリシアお嬢様だってこの屋敷を自由に動き回れるサイズではないのだから、きっと探すのにとても苦労してしまうだろうから。そうやって、いろいろ考えを巡らせてみんなで眠ったのだった。
そして朝になり、わたしとアリシアお嬢様は大きなベッドの上に座り、その間で、ソフィアは立ってわたしたちのことを見上げている。
「そろそろ朝ごはんですね」
ソフィアに言われたから、その内容をエミリアに伝えてダイニングに連れていってもらおうとしたけれど、言う前に、エミリアはサッとわたしたちの目の前に手を出した。
「朝ごはんを食べに行きましょう。ソフィアさんのこともちゃんと忘れずにね」
エミリアに言われて、わたしはソフィアをポケットに入れてから、アリシアお嬢様の手を引っ張ってエミリアの手のひらに乗る。
「手のひらって意外と厚いですわね……」
アリシアお嬢様がエミリアの手に乗るのに苦戦をしていたから、わたしはアリシアお嬢様のことを引っ張り上げた。力一杯引っ張り上げてみたら、アリシアお嬢様は思っていた以上に軽く、勢い余って、わたしに向かって抱きついてきた。そのまま後ろに倒れ込んでしまう。
「ご、ごめんですの……」
「いえ、わたしは大丈夫ですけれど……」
慌ててポケットに入れていたソフィアを確認する。中から取り出してみると、ソフィアが目を回していた。
「ソ、ソフィアさん大丈夫ですか!?」
「な、なんとか……」
アリシアお嬢様に少しだけ乗っかられてしまったらしい。
「やっぱりポケットの中は危ないかな……」
「ソ、ソフィア、ごめんですの……」
アリシアお嬢様も慌てて申し訳なさそうに謝っていた。そんなわたしたちのやり取りを上空からエミリアが心配そうに見下ろしている。
「あの、みなさん大丈夫ですか……?」
心配のあまりうっかり顔を近づけてきたから、ソフィアの体が呼吸の風で宙に浮く。
「ソ、ソフィアさん!」
わたしは慌てて浮き上がったソフィアを捕まえた。
「カ、カロリーナさん……、やっぱり危険でもポケットの中に入れておいてください……」
ソフィアがため息をついた。今までずっと一番小さいサイズだったから、誰かに守られることに慣れてしまっていたけれど、相対的に大きな体で誰かを守ることはとっても大変みたいだ。アリシアお嬢様もエミリアもソフィアもとても器用にわたしのことを守ってくれていたことがよくわかった。もっとも大きな体と言っても、わたしも元の大きさの400分の1のサイズだけれど……。




