初仕事! 4
この2人は他の子たちと違っていろいろと話してくれる(時々言っている意味がわからないときがあるのも否めないけど)。つまり、普段聞けないこと、聞きづらいことを聞く大チャンスである。
「ねえ、この屋敷の外ってどうなってるの?」
「お外はアリシアおじょーさまが住んでるよ!」
「とってもおっきいよ!」
メイド用のお屋敷を作れるくらいの広大な土地があるのだから、当然母家は比にならないくらい大きいのだろう。
「広かったら掃除も大変そうね」
「大変だよ!」
「気を付けてお掃除しないと、エミリアに意地悪されちゃう!」
「キャンもメロディも、エミリアに踏み潰されかけた!」
「エミリア怖い!」
リオナ同様、エミリアに対して2人も怖いイメージを抱いていることは理解した。だけど、わたしが気になったのはそこではない。
「……踏み潰されかけた?」
わたしの疑問を聞いて、キャンディとメロディがハッとして、2人で顔を見合わせた。
「メロ、それ言っちゃダメ!」
「キャン、どうしよ!」
「違うの、カロリーナ、メロは踏み潰されかけたんじゃないよ!」
「そう、カロリーナ、メロディ怪我してないでしょ? エミリアのおっきなお靴で踏まれたら、ぺったんこになっちゃうもん!」
「そうだよ! エミリアのお靴にぶつかっただけでとっても痛いのに。メロは元気だから、踏み潰されかけてなんかないよ!」
「そ、そう……」
取り乱しているせいで、いろいろなことを教えてくれてしまっている。わたしの中での嫌な仮説がより実態を持っていく。想像していたよりもたくさんの不穏な言葉の羅列に、わたしは困惑を隠せなかった。
2人の言葉をそのまま受け取ると、これまで何回か話題に出てきた、性格に難のあるエミリアというメイドはもし上から乗られたらぺったんこになっちゃうような巨大な靴を履いている巨人ということになる。つまり、わたしがお世話することになるアリシアお嬢様というのは……。
「ねえ、ちなみにアリシアお嬢様とエミリアっていう人は同じくらいの身長なの?」
ここのメイドたちがわたしに屋敷の外について伝えることを躊躇していたように思えた。だから、聞き方は気をつけた。そして、案の定2人の小さなメイドは答えてくれる。
「同じくらい!おっきいよ」
「でも、エミリアの方がちょっとおっきい!」
「メロディとキャンのしんちょう合わせたぶんくらい、エミリアの方がおっきいよ!」
わたしはふらりとその場に倒れ込みそうになった。アリシアお嬢様の爪磨きのことを重労働と言っていたリオナの言葉を思い出す。もし、わたしの仮説が正しいとすれば、リオナはきっと一つ一つが机の天板みたいに大きな爪を磨いていたということ。
エミリアがわたしたちの屋敷の周りを掃除するのに家が大きく揺れたのは、エミリアがこの屋敷を動かせるくらい大きいからということ……。辻褄が合っていく。わたしの呼吸は荒くなっていき、ゆらりと地面に座り込んだ。
「カロリーナ、大丈夫?」
「カロリーナ、お腹すいちゃった?」
突然倒れ込んだわたしのことを心配そうに覗き込む2人のことを、わたしは無意識のうちに睨みつけてしまっていたらしい。
「カロリーナ、怒ってるの?」
「カロリーナ、怖いよ……」
わたしに怯える2人の間を割っていくみたいに立ち上がって、スカートの裾を持って、2階の廊下を走って、階段を降りる。
「カロリーナ、待って!」
「カロリーナ、どうしたの?」
不安そうな双子たちのことを置いていくのは可哀想だったけれど、どうしても確かめずにはいられなかった。階段を降りて、ダイニングの方へと走る。そして、ダイニングの真正面の玄関口を見て、思いっきりドアを開けようとした時に、鋭い声がわたしを止めた。
「お待ちなさい!」
わたしの身体を刺すような鋭い声は、足止めをするのには充分だった。