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400倍の想い人 1

〜登場人物〜

カロリーナ……さらに小さくされた元令嬢メイド

ソフィア……真面目な眼鏡メイド

アリシア……優しいお嬢様

翌朝起きたわたしは、またソフィアの部屋で朝食を済ませる。あまりダイニングを使わせたくなさそうなのは、ただ単に小さな体でみんなと食事を取っているとキャンディやメロディあたりに間違えて食べられてしまわないかの心配でもされているからなのだろうか。それとも、何か他に事情があるのだろうか。疑問に思いながら食事を進めていると、ソフィアが優しく尋ねてくる。


「ねえ、カロリーナさん。もしよかったら、アリシアお嬢様のところに行きませんか?」

「え!?」


思わぬ誘いにわたしは久しぶりに明るい声色を出した。アリシアお嬢様に会わせてもらえるなんて、胸が昂まってしまう。


ただ、その一方で怖くもあった。小さくなった時にほんの少しだけ会った400倍サイズのベイリー。わたしにとってはお屋敷すら踏み潰せてしまえそうに見えた巨大な靴を軽々履きこなす、規格外の大きさの姿を思い出す。彼女の一挙手一投足がわたしにとっては脅威だった。いくら大切なアリシアお嬢様といっても400倍サイズだと怖いのでは無いだろうかという不安はあった。わたしが悩んでいるのを見て、ソフィアが優しい声を出す。


「もちろん、無理にとは言いませんし、むしろ行かないほうが安全だと思いますので、そこまで乗り気じゃなかったらやめておきましょうか」

「い、いえ。わたしアリシアお嬢様に会いたいです! 会わせてください!」

少し怖い気持ちもあるけれど、それでもアリシアお嬢様とは会いたかった。わたしの弾ませた声を聞いて、ソフィアは微笑む。


「じゃあ、行きましょうか」

ソフィアが優しくわたしを手の中に包んで、連れて行こうとする。

「ポケットの中に入れておきますので、指示のない時には絶対そこから出ないようにして下さい。今のカロリーナさんにとっては、アリシアお嬢様の呼吸だって吹かれ方によっては暴風になってしまいますから」


当然、うかつにポケットから出る気にはなれない。背丈が400分の1になったわたしの今の体重がいくらかを考えたら、とてもじゃないけれど、リスクを負える気にはなれなかった。


ポケットに入れられて歩いていると、ソフィアさん……、とソフィアを呼び止める声がした。どうやら、エミリアに呼び止められたらしい。初めはあまりにも元気がなさすぎて、エミリア本人かどうかわからなかった。


ハキハキとした喋り方のエミリアの声とはかけ離れていた。けれど、この小さなメイド屋敷内でソフィアのことを『ソフィアさん』と呼ぶのはわたしとエミリアだけだったし、覇気がないだけで声もエミリアのものだと言われたら納得できる。


「どうしましたか?」

「あの……、カロリーナは元気にしてますか……?」

「やっぱり少し落ち込んでますね」

ソフィアが元気なさげに答えると、エミリアがワッと泣き出す声がした。


「エミリアさん、どうしました?」

「わたしのせいで、カロリーナがさらに小さくなっちゃんですもの……。わたし、ちゃんとカロリーナに謝らないといけないけれど、会わす顔が無いんです……。散々意地悪した上に、わたしの恋愛に巻き込んだ挙句、小さくされてしまうなんて……」


エミリアは相当気にしてくれていたみたいだった。自分も突然小さくなって困っているはずだけれど、それよりもわたしに対する罪悪感がかなり重たくのしかかっているらしい。


わたしは慌ててポケットから顔を出した。顔を覆って泣いているエミリアは普段のピシッと整えた髪の毛はぐしゃぐしゃになっているし、顔も蒼く見えた。そして、リオナに殴られたところも内出血をしてしまっていた。見ていて不憫に思えてしまう。


「エミリアさんが気にすることじゃないですよ」

できるだけ明るい声を出した。わたしが小さくなってしまったことはエミリアにはどうすることもできなかったのだから、気にさせてしまうのは申し訳ない。

「カロリーナ……、わたし……、本当にごめんなさい……」


エミリアは、ソフィアのメイド服にしがみついて、ポケットのすぐ横に顔を擦り付けて、謝っている。シクシク泣いているエミリアの髪を、ポケットの中から手を伸ばしてソッと撫でた。


「大丈夫ですよ、エミリアさん。また元の大きさに戻ったら、アリシアお嬢様にきちんとお仕えできるように、メイドのお仕事いっぱい教えて下さいね」

「……ありがとう、カロリーナ」


エミリアは涙を拭いながら、ゆっくりとソフィアのメイド服から顔を離す。まだ完全には元気は取り戻せてはいないみたいだけれど、とりあえず少し落ち着いてくれたみたいだった。

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