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パトリシアⅢ 4

簡単には開けることができなくなってしまったドールハウスを見て、ベイリーはため息をついた。

「どうしたらいいのかしら……」

「かなり怒っていましたね……」

ソフィアもため息をつく。


「まあ、とりあえずわたしたちはお互いにメイドとしての仕事を全うして、パトリシアお嬢様に許してもらうしかないのではないでしょうか」

「そうね……」


ソフィアとベイリーはお互いに感情的には納得できないところはあったけれど、パトリシアお嬢様に会いたい気持ちは同じように強かった。パトリシアお嬢様に機嫌を直してもらうために真面目にメイドとしての仕事をこなしていくしかないと思い、仕事を続ける。


パトリシアお嬢様は一人で生活はできないから、食事を家の前に用意したり、ベイリーの魔法で屋敷の中のトイレとお風呂を実際に使えるようにしてみたり、それぞれパトリシアお嬢様のために淡々と黙々と作業を進めていく。お互いにパトリシアお嬢様のために尽くしたいという感情は一致しているのだから、その点に関しては協力して頑張れた。


少なくとも、表面上は仲良くして、パトリシアお嬢様をがっかりさせないように気をつけたのだった。そうして、1ヶ月ほどしたある日、ようやくパトリシアお嬢様は食事以外の理由でドールハウスの中から出てきてくれたのだった。


「パトリシアお嬢様!」

外に出てきたパトリシアお嬢様を見て、ソフィアが興奮した声を出した。前に見た時よりも、心なしか痩せ細って見えた。ドール人形みたいなサイズでも痩せ細って見えるということは、実際にはもっと痩せ細っている可能性もある。ソフィアの声を聞いて、部屋の掃除をしていたベイリーも慌てて駆けつけてくる。


「パトリシアお嬢様! お久しぶりです!」

嬉しそうにパトリシアお嬢様を迎え入れた2人だったけれど、当のパトリシアお嬢様は少し不安そうにソフィアたちのことを見上げていた。


「もう仲直りしたの? わたしがいても大丈夫?」

パトリシアお嬢様が胡乱な目で見つめてくるから、ソフィアもベイリーも作り笑いをしながら、お互いに手を取って向かい合った。


「ねえ、ソフィア、わたしたちもうすっかり仲良しよね?」

「もちろんですよ、ベイリー。わたしたち、もうすっかり元通り、仲良くなりましたからね」


打ち合わせも何もしていなかったのに、こうやって息ぴったりで演技ができるあたり、ベイリーとは根っから気が合わないわけではないのはソフィアはわかってはいた。ただ、お互いにパトリシアお嬢様が絡んだら油断ならない存在になってしまうだけ。


とはいえ、小さな体になってもパトリシアお嬢様の洞察力は健在なのだろう。かなり上手くいったと思ったけれど、急造の演技でパトリシアお嬢様の目を欺くのは難しそう。パトリシアお嬢様はかなり疑わしそうな目で2人の様子を見て、何か言いたそうにしていた。けれど、その言葉は飲み込んでくれたみたいだ。ただし一言、確認をされる。


「信じていいんだよね?」

ソフィアもベイリーも大きく頷いた。もはや、相手のことはもちろん、自分自身のこともろくに信用できないのに、何も考えずに頷いてもいいのだろうかとは思ったけれど、パトリシアお嬢様にまた引きこもられるわけにはいかなかった。頷かないと、パトリシアお嬢様は再び小さな屋敷に逃げ込んでしまうから。だから、頷くしかなかったのだ。


そして、きっとベイリーも同じことようなことを考えて頷いたのだろう。演技でもなんでもいい。ソフィアはベイリーと表向きはお互いに仲良くしようとした。けれど、水面下で起きている激しい戦いは、もはや隠しきれはしないのだ。パトリシアお嬢様が屋敷から出てきてたったの2日後に早くも事件は起きてしまったのだった。

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