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手乗りメイドはお嬢様に愛されたい!  作者: 穂鈴 えい


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メイド研修 1

〜登場人物〜

カロリーナ……小さくされた元令嬢

エミリア……真面目なメイド。少し意地悪

アリシア……優しいお嬢様

「では、只今より早速研修ということにしましょうか」

「早速って言っても、もう夕方ですけど……」

「そうですわ! カロリーナは小さな体で大変ですの。もう休ませてあげたほうがいいですわ!」

エミリアが背筋を正して宣言をしたのを聞いて、アリシアお嬢様が反論してくれた。


「メイドの仕事はこれからが本番ですよ。晩御飯の用意をしなければならないのですから」

エミリアがわたしのことを鷲掴みしてしまい、逃げられなくなってしまった。


「では、こちらのメイドは研修に連れて行きますので」

エミリアがアリシアお嬢様に声をかけてから歩き出した。

「あ、ちょっと。カロリーナにもし意地悪したら、わたくし許しませんわ!」


エミリアがスッスッとほとんど音を立てずに扉の前に行くと、廊下に出た。そしてしゃがみ、わたしのことを床に置く。わたしの尺度だと、お城よりも大きそうなエミリアのことを見上げた。地面から見上げると、机の上にいたときよりもその大きさははっきりとわかる。


「キッチンまで移動するわよ」

「移動って……」

困惑するわたしのことは気にせず、エミリアが歩き出した。


「えっ、ちょっと……!」

多分エミリアの中ではのんびりと歩いているつもりなのだろうけれど、それでもかなり歩行ペースは早い。


「ま、待ってくださいってば……!」

「もっと早く歩いてください。わたしの元から離れたら他のメイドに踏み潰されてしまうかもしれませんよ」

「こ、これ以上は無理ですよぉ!」


歩くというよりも全力疾走をしているのだけれど、それでものんびり歩くエミリアには全然追いつけないどころか、距離は離れていく。なんせ、エミリアの一歩はわたしにとっては20歩分もあるのだから(等倍でもエミリアの方が背が高そうだから、もしかしたら20歩分以上あるかも……)。そんな風にわたしが必死に走っていると、エミリアがわたしに対してのものとは違う、しっかりとした真面目な声を出した。


「お疲れ様です」

お疲れ様です、とエミリアのさらに向こうの方から返答があり、地響きがしているから、他のメイドとすれ違ったらしい。静かに歩くエミリアとは違い、容赦なく地面を揺らしながら歩いているから、わたしは立っているだけでも大変だ。


当然走るなんてもっと難しい。おまけにメイド用のストラップシューズが、気づけば一瞬のうちにわたしのすぐ真横に来ていた。先ほどエミリアと挨拶を交わしていたメイドはわたしに気付かないまま、すぐ近くまで歩いてきているようだ。


「た、助けて……」

怖くて頭を庇いながらしゃがむ。わたしのことにまったく気づいていない足が、すぐ近くに振り下ろされる。風圧で、わたしの感覚で2、3メートル分ほど飛ばされてしまった。


「いたた……」

そんなわたしのことを、エミリアが少し離れた場所から呆れたように見下ろしていた。

「まだまだキッチンまで距離があるんだから、転がっている場合じゃないわよ。さっさと起きなさい」


わたしがよろめきながら、立ち上がると、エミリアが大股2歩でわたしのところへやってくる。あれほど離れて見えたのに、実は3メートルも離れていなかったらしい。


「移動するだけでこんなにも時間がかかるんじゃ先が思いやられるわ」

「なら、運んでくださいよ……」

「専属メイドになるんでしょ? そのくらい自力でやりなさい。わたしは手を貸さないわ。アリシアお嬢様の面倒を見るのに、大きさはできない理由にならないもの。自分の力でなんとかしなさい」


エミリアがわたしのすぐ目の前にストラップシューズをつきだしてくる。今にも蹴るんじゃないかと内心ビクビクしていた。それでも、先ほどのわたしに気づいていなかったメイドよりもは安全なのだろうけれど。


「打開策すら考えられないんじゃ、この家のメイドなんて絶対にできないし、わたしがさせたくないわ」

「打開策……」

「わたしはあなたに手をかさないけれど、あなたにチャンスはあると思うけど?」

わたしは目の前のストラップシューズを見て、エミリアが言いたいことに気がついた。


「手は貸さないか……」

なるほどなぁ、と納得したわたしは慌ててストラップシューズによじ登った。そんなわたしの様子を見てから、エミリアは先ほどまでのゆっくりとした足取りではなく、早歩き気味で廊下を歩き出した。歩くたびに、体が振り落とされそうになるから、汚れ一つ無い真っ白なハイソックスに必死にしがみついていた。


「も、もっとゆっくり歩いてくださいよ〜!」

エミリアが歩くたびにわたしは内臓が宙に浮いてしまうような気分にされてしまう。当然エミリアはわたしの言うことに耳を傾けるわけもなく、一瞬にしてキッチンへと着いてしまった。きっとわたしが歩いたら1時間くらいかかってしまいそうな道のりを、エミリアは数分で歩き切ってしまった。

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