専属メイド 2
わたしは机上からアリシアお嬢様の凛々しい瞳を見つめていた。いつもの幼い雰囲気とは違うカッコいいアリシアお嬢様は、なおもエミリアに説得を続けていた。
「専属メイドと主人は一心同体の関係。逆に隠し事なんて許されませんの。エミリアとレジーナお姉様は秘密たっぷりの関係ですの? 違いますわよね?」
「そ、それはそうですけれど……」
「なら、わたくしはカロリーナと大事な話を続けますの。カロリーナが秘密ごとなんてしたら、窒息するまでキスをするという罰を与えますわ」
アリシアお嬢様が、罰なのかご褒美なのかわからないようなことを平然と言い切る。まあ、実際にこのサイズ差だと窒素するくらいの時間キスをされ続けたら、大好きなアリシアお嬢様相手でも確かに罰かも知れなけれど……。
アリシアお嬢様がエミリアの方を睨んだ後に、わたしの方に微笑みかけた。
「ごめんですの、カロリーナ。本当はもっときちんと思いを伝えてから、カロリーナのことを専属メイドにしたかったのに、意地悪なメイドに邪魔されてしまったから、随分突然の話になってしまいましたの」
アリシアお嬢様が笑ってから、真面目にわたしの方に向き合った。
「ねえ、カロリーナ。わたくしの専属メイドになって欲しいですの」
アリシアお嬢様は座ったまま、わたしに向かって深々と頭を下げてきた。お嬢様のふんわりとした癖っ毛のブロンドヘアが机の上に垂れ下がる。甘い香りが漂ってきて、ふわふわとした気分になってきた。
「ア、アリシアお嬢様、そんなにも畏まらないでください。わたしはメイドでアリシアお嬢様は主人なのですから!」
「わたしが出会ったカロリーナは、メイドではなく、ご令嬢でしたの。もしあなたがあの日会ったカロリーナお嬢様だったら、わたくしとてもじゃないけれど無礼な態度は取れませんわ」
「そのカロリーナで間違いないですけれど、それでも今はわたしはアリシアお嬢様のメイドですので、もっと普段通りにしていてください! 逆に畏まられたらなんだか冷たく感じちゃいますし……」
「カロリーナがそれで良いなら、そうしますわ」
アリシアお嬢様がようやく頭を上げてくれた。
「で、カロリーナは受けてくれますの? 専属メイドのお話は?」
「断る理由がないですよ」とわたしは微笑んだ。
「なら、今からカロリーナはわたくしの専属メイドですの! 決定ですわ!」
アリシアお嬢様が弾むような声で言った。
「これなら、わたくしとカロリーナがどんな話をしても文句はありませんわね? レジーナお姉様も、専属メイドを早く決めて恥をかかせないようにって言っていたらしいですわ。つい先ほど聞きましたの」
伝聞調なのは、多分レジーナお嬢様がアリシアお嬢様と親しげにしているところを見られたくないから、エミリア以外のあまりアリシアお嬢様と関わりのないメイド経由で伝えたのだろう。
けれど、これはきっとレジーナお嬢様の助け舟なのだと思う。わたしがアリシアお嬢様の専属メイドとして近くに居やすいようにするための助け舟。アリシアお嬢様の言葉を聞いて、エミリアは言葉に詰まっていた。
「で、ですが、そんな小さな体のメイドに、いったいどんなお仕事をさせるというのですか……?」
エミリアが奥歯をグッと噛み締めながら、わたしのことを睨んでいた。殺気が出ているようでとても怖い。
「別にわたくしは自分のことは自分でするから良いですの」
プイッとアリシアお嬢様が横を向いた。
「そう言うわけにはいきません。専属メイドはきちんと身の回りのことをしなければなりませんから」
「そんなの知りませんわ。わたくしの専属メイドをどう使ってもわたくしの勝手ですの」
アリシアお嬢様は先ほどまでとても大人びてカッコよかったのに、今度は駄々っ子みたいになってしまっていた。そんなアリシアお嬢様の言葉を聞いて、エミリアは不敵に笑った。なんだか嫌な予感がする。




