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WEB小説からデビューを目指す僕の心が折れそうなわけ  作者: 大隅スミヲ
第3話:吾輩はWEB小説家である
8/11

妄想小説家

 書き始めは順調だった。

 頭の中で描いていた物語を文字化していく楽しさに、ソウタは酔いしれた。

 どんどんと空白が文字で埋まっていく、この快感。

 自ら考えた言葉が、テキストエディターの上で踊っているかのように思える。

 おれは創造主だ。すべてをこの文字で創り出すのだ。

 ソウタは勢いよく、キーボードを打ち続ける。


 その作業は、深夜まで及んだ。

 湧き出てくるアイデアは枯れることなく、どんどんと溢れ出てくる。

 これは絶対に面白いぞ。面白すぎて、みんながこぞって読みに来るに違いない。

 そして、その読みに来た人の中に編集者がいて、この物語を是非とも書籍化したいと言い出すんだ。

 それがスタートラインで、そこからおれの大ヒット爆進街道は続く。

 書籍化から、コミカライズ化、アニメ化と続き、ついには実写ドラマ化まで。原作者のおれは色々なテレビ番組なんかに引っ張りだこになって、新刊を出せばサイン会を開いて、そのサイン会には長蛇の列が……。ああ、夢の印税生活。

 ソウタさん、素敵。ソウタさん、大好き。ソウタさん、抱いて。ソウタさん、ソウタさん、ソウタさん……。


 いつの間にか、ソウタは物語を書くのではなく、自分の妄想に酔いしれてしまったため、その日の執筆作業は、ほとんど進むことはなかった。


 現在、ソウタが小説投稿サイトで公開している作品は全部で3作品だった。

 代表作として長編異世界ファンタジー小説の『寝取られゴブリンの一生』があるが、完結して一か月以上経っているというのにまったくPVが増えることはなかった。

 その他にも短編で『令嬢転生、転生したらゴブリン狩りにあった件』、『どうやらオレの幼なじみ(ボクっ属性)は、異世界ではゴブリンだったらしい』という作品があるがどちらもPV数は一桁だった。

 ゴブリン3部作。ソウタは自分の中でその3作品をそう位置づけていたが、揃いも揃ってPV数は低い状態を維持していた。


 今回の物語はタイトルを何としようか。

 まだ、合計文字数2000文字も書いていないというのに、ソウタは腕組みをして悩んでいた。

 ゴブリンシリーズは、すでに3部作で終了した。ここは新しいものにしよう。

 最近はどんなものが流行っているのだろうか。

 まずは、その調査からはじめることにした。


 気づくと、ソウタは流行りのWEB小説の荒波に飲み込まれていた。

 面白い。やっぱり、多くのPVを獲得している小説は面白いのだ。思わず、ソウタも応援のハートマークをクリックしてしまう。

 やばい。なんだよ、この面白さ。こんなのアニメで見たくなる展開じゃないか。

 くっ、続きが気になる。はやく、次の話を投稿してくれ。

 エロっ! こんな展開ありかよ。

 おいおい、いいのか。こんな話でいいのか。


 どっぷりと小説を読みふけったソウタが、かなり時間を消費していることに気付いたのは、その2時間後のことだった。

 パソコンの画面には、動画投稿サイトのVtuberが映し出されている。

 集中がとっくの昔に切れてしまっていたソウタは、WEB小説を読むこともやめてお気に入りのVtuberの動画を見ていたのだ。


 ああ、おれはなにをやっているんだ。

 そう思った時はすでに遅し。時刻は深夜2時になろうとしていた。


 目覚ましアラームは、毎朝6時に鳴る設定となっている。

 まあ、それで起きた試しは無いのだが、6時30分には強制的に母に文字通り叩き起こされるため、睡眠時間は4時間半程度だ。

 執筆のために睡眠時間を削っている。そう言うと聞こえは良いのだが、実際にはそのほとんどの時間をネットサーフィンという魔物に食いつぶされているというのが現実だった。


 もう寝なきゃ。

 そう思って、ブラウザを閉じようとしたソウタの視界の隅に、ちょっとエッチな広告が映った。

 なんだよ、まったく。

 そういいながらも、その広告をクリックする。


 深夜という時間には、魔物が住んでいる。

 眠らなければならないというのに、ソウタは余計な動画を30分も視聴していた。


 睡眠時間、あと4時間弱。

 やばい、今度こそ寝るぞ。意を決してパソコンをシャットダウンさせたソウタは、ベッドに潜り込んだ。

 明日こそは絶対に、良い物語を書いて見せる。

 そう誓って、ソウタは眠りに落ちるのであった。

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