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4.寝取られゴブリンの一生

 その日の夜、新しく投稿した話に1PVあった。

 正確に言えば最新話の1PVだけではなく、1話目から43話目まで1PVずつあった。

 今回獲得できたPV数は43PVだ。

『寝取られゴブリンの一生』は合計51PVとなったのだ。

 奇特な読者もいるものだ。

 ソウタは初の2ケタPVに歓喜し、部屋の中でひとりジタバタと意味不明な動きを繰り返した。


「うるせえぞっ!」


 隣の部屋からミズキに壁を叩かれたが、それでもソウタは奇妙な踊りを舞い続けた。


 コツコツ書いていけば、きっと読者はわかってくれる。そう信じていた。

 ランキングに入ることなど、夢のまた夢。

 オススメの小説として紹介されることなど、ありえない。

 そう思っていた『寝取られゴブリンの一生』を一気読みしてくれた人がいる。

 このまま突っ走って書き続けよう。ソウタは胸に誓った。


 と、思う一方で、冷静なソウタもいた。

 今回あったのはPVだけだった。「いいね」、「ポイント」のボタンも押されていなければ、感想コメントなども書かれてはいない。

 構想の段階を含めると、最新話の執筆に丸一日かかった。しかし、たった1人にしか読まれていないという現実を突きつけられたと言っていいだろう。

 そんなソウタのような底辺WEB小説家とは違い、人気WEB小説家たちは【祝1000万PV突破】などと小説の紹介文に書いていたりする。

 1000万PVって何だよ。そんなにWEB小説を読んでいるやつがいるのかよ。

 こっちは合計51PVで歓喜の舞をしているっていうのによ。

 くそ。なぜだ、なぜなんだ。

 異世界ファンタジーは、読まれやすいからオススメといったやつは、誰だ。

 PV数なんて、すぐに伸びるよっていったやつは、誰だ。

 くそ、くそ、くそ、くそ。

 やっぱり、おれって才能ないのかな。

 

 先ほどまで歓喜の舞を踊っていたソウタは、急に現実を突きつけられて沈み込んでしまった。

 ソウタは布団の中に潜り込むと、スマートフォンの画面を切って枕に顔を押し付けた。


「ダメだ」


 ひと言だけつぶやき、枕を涙で濡らしながらソウタはそのまま眠ってしまった。


 その日の夜、ソウタは夢を見た。

 小説のPV数が100万を超えて『寝取られゴブリンの一生』がコミカライズ化されるというものだった。来年にはアニメ化、実写映画化も予定されているらしい。

 出版記念イベントには、あの柊カナタちゃんも来てくれた。

 出版社の人の話では、実写映画化でのキャストとして柊カナタちゃんが決定しているとのことだった。カナタちゃんが演じるのは女ゴブリンということを聞き、ソウタは驚きを隠せなかった。


 どこかから甲高い電子音が聞こえてきたことで、ソウタは夢の世界から現実へと引き戻された。今朝は夢の内容をしっかりと覚えていた。


 洗面所で顔を洗い、用意されている朝食を取る。

 いつもと同じ朝。


 テレビの情報番組では、きょうも柊カナタちゃんの話題が報じられていた。


『熱愛発覚! お相手は若手俳優か?』


 その画面を見た時、ソウタは口に含んでいた味噌汁を盛大に吹き出していた。

 今日発売の週刊誌によれば、アイドルで作家の柊カナタに熱愛が発覚したと朝の情報番組が報じている。


「おいおい、嘘だろ……」


 ソウタが凹んでいると、ミズキが顔を出す。


「おい小僧、遅刻するぞ」

「うるせえ」


 完全に八つ当たりだった。しかし、ソウタは自分の感情が抑えきれなくなっていた。


「なんだと?」

「うるせえって言ったんだよ。双子のくせに姉貴ヅラするんじゃねえよ」

「なんだと、この愚弟ぐていがぁ!」


 ツカツカと早足で歩み寄ってきたミズキがソウタの胸ぐらを掴み上げる。

 ひぃ、やめてください。暴力反対。

 ソウタは声にならない声をあげて胸ぐらを掴むミズキに抵抗する。


「もっと現実見ろよ。クソつまんない小説書いてないでさ」


 急に冷静になったミズキはそう言うと、ソウタの胸ぐらから手をはなした。


 助かった。でも、なんで。

 ミズキの顔を見ると、ミズキもどこか悲しそうな顔をしていた。


「わたしだって辛いんだよ」


 そういうとミズキはプイッと顔をそむけて出ていってしまった。


『お相手は、若手俳優の飯田いいだマサキさんで、ふたりの事務所は――――』


 飯田マサキ。そういえば、この前ミズキが真剣に見ていたドラマに出ていた俳優だったっけ。

 そうか……。ソウタはミズキの気持ちを察した。


 家を出るとミズキの後ろ姿が見えていた。ソウタは走って追いつく。


「なあ、ミズキ。どうして、俺が小説書いているって知っているんだ」


 ソウタは先ほど覚えた疑問をミズキにぶつけた。

 ミズキはちらりとソウタの方を見てから、口を開く。


「毎晩、毎晩、あんたが叫んでいればわかるでしょ。キーボードの音もうるさいし」

「でも、どこのサイトに投稿しているとかは……」

「たまにあんたのパソコン使っているから」

「え?」

「パスワードが生年月日とか、ありえないでしょ。わたしだって一緒だっつーの」

「え……」

「アンタのペンネーム覚えていたから、昨日読んだ」

「え!?」

昨夜ゆうべ、1話目から最新話までスマホで一気読みした」

「あ……」

「誰が、寝取られるゴブリンの小説なんて読みたいって思うんだよ。変態かよ。もう少し考えろよな」

「ええっ!?」


 昨晩PV数が一気に跳ね上がった理由が明らかになった瞬間であった。

 その真実を知ったソウタは膝から力が抜けて崩れ落ちそうになる。


『寝取られゴブリンの一生』。

 現在の最新話、第43話。

 合計PV数、51。

 そのうち、43PVがミズキ……。

 実質、8PV。

 それが現実だ。


「そんな変態な話ばかり書いていないで、アイドル兼小説家との恋バナとか書けばいいだろ。なんだったら、イケメン俳優からアイドル兼小説家を寝取る話を書いてみろよな」


 走りながらミズキがソウタにいう。

 お姉さま、あなたは私よりも小説家向きなのでは?

 ソウタはミズキの才能に気づいてしまった。



 きょうもソウタは書き続ける。

 いつか、誰かが、自分の小説を拾ってくれることを信じて。


 吾輩はネット小説家である。

 受賞歴は、まだ無い。




第1話「WEB小説家」おしまい

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