表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

葬式の帰り道、猫を轢いた

作者: S9Z9

その事に気がついたのは、次の日の正午過ぎ頃の事だった。

昨日と同じ道を運転中、道路の中央でたむろするカラスがいた。

車が近づいたのを感じ取ると、飛び立ち、跡には原形を留めていない毛むくじゃらの何かが横たわっているのが見えた。

田舎で人通りの少ないこの道は、頻繁にタヌキが死んでいる。コレもソレだろうと思い、避けるためにサイドミラーを一瞥すると、歩道に子猫が見えた。

そう言えば、昨日もこの辺りにあの子猫がいたよな。そんな事を思い出しながら目的地に到着した。


この日、葬式終わりの直後ではあるが、加害者側遺族と、慰謝料についての話し合いが行われた。


父とは小学生の時に母が死んで以来、会っていない。だから事故の知らせが来るまで、父が生きているのか、死んでいるのか、それすら分かっていなかった。

大した思い出もなく、悲しみも湧かない。ほとんど他人のくせに、遺族という理由だけで警察の元から連絡が入った。


「ではここに名前を記入してください」

弁護士に言われるがまま手続きを済ませ、書類の控えを受け取り、帰りの車に乗ろうとした。


ふと、視界の端にタイヤが映った。


その瞬間、ようやくその事に気がついた。

乾いた黒いシミと塊がホイールにこびり付き、まとまった毛が風に揺らいでいる。


昨日の夕方、ヘッドライトを点けた時、ハイビームに反射した子猫の目が光った。

「猫だ」と思った時、何かがぶつかったような音がした気がする。

それが今、車のホイールとバンパーの汚れになっている。


帰り道、撤去されたのだろう。そこに塊はもう無く、ホイールのと同じシミだけが残っていた。


路肩に車を停めた。


車内に残っていた、ほとんど無くなりかけの1リットいろはすをホイールにかけた。

乾いてこびりついた塊はそれでは落ちず、落ちていた木の枝でガシガシと削ぎ落とすように擦っていた。

すると、子猫がこちらをじっと伺っているのに気付いた。


気づかないふりをしながら、道端に空いたペットボトルと木の枝を放り投げ、汚れの落ちきっていない車に乗り込み、エンジンをかけた。


子猫がさっきより近づいている気がして、そちらを見ないようにしながらアクセルを踏み込んだ。


暗くなり始めた、家の近くの交差点。

いつもより長い赤信号を待っていると、ふと、助手席の足元に目がいった。


いろはすを取った時に落ちたのか、慰謝料に関する書類の控えが、足元に落ちて散らばっていた。金額が目につく。


信号が青に変わる。


ハンドルを大きく切り、転回すると、強めにアクセルを踏み込んだ。


着いた時、そこにはもう子猫の姿はなかった。


歩道に落ちていたペットボトルを拾い上げ、道端に木の枝を突き立てた。

道路のシミが、何だかさっきよりも濃く見えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 何か気になる終わりかたですね その後どうなったか明確な描写が無い分、怖い想像を膨らましてしまいます。 面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ