分かれ道
「すべての計画が順調に進んでいるときは一度振り返ってみた方がいい。重大なミスに気がついていないだけだからだ」
十六体の《火葬死骨兵》に取り囲まれながらも、アインは言った。
アリゴテは平然と彼を見返している。
「それはよかった」
彼は言った。
「これで俺は重大なミスに気がつくわけだ」
アリゴテが《魔炎殲滅火閃砲》の魔法陣を描く。
十六体の《火葬死骨兵》が骨の杖を使い、灼熱の炎弾をそこに出現させる。
《灼熱魔炎砲》だ。
魔法砲撃の一斉射撃。
その瞬間、漆黒の影がその地面一帯を覆いつくした。
「《影王埋葬墓標》」
アリゴテと《火葬死骨兵》の背後に墓標が出現する。
(……!? これは……体が沈む……?)
彼は足元に魔眼を向ける。
墓標の影の中に、アリゴテと一六体の《火葬死骨兵》が沈んでいくのだ。
《火葬死骨兵》たちは這い上がろうともがいているが、影の外には出られない。
アリゴテは振り向いた。
その視線の先にいたのは、バッカスである。
「お前が裏切者か、バッカス」
アリゴテが《魔炎殲滅火閃砲》を放つ。
「《闇月》」
闇の結界が球体状になり、バッカスを覆う。
凝縮された火閃がそこに直撃するも、結界を突破することはできず、拡散した。
そのまま、アリゴテは《影王埋葬墓標》に沈み切った。
(魔力暴走が……?)
アインが魔導馬車に魔眼を向け、
(止まった……)
ギーチェもそこを見た。
アリゴテとの魔法線が切れたからか、魔力暴走は完全に収まった。
バッカスの体に纏わりついていた影が晴れて、その姿があらわになった。
「アイン君、すぐに馬車を出しなさい」
そう彼は言った。
§ § §
魔導馬車は全速力で道を走っていた
「はやいーっ!」
と、シャノンが窓の外を見て両手を上げている。
「どういうことなんだ? この男は《白樹》の魔導師だろう?」
馬車の中でギーチェが怪訝そうに言った。
「アンデルデズン研究塔の元所長ジェラールだ」
「……貴様にシャノンを養子にするように言い出した……?」
ギーチェがそう確認しようとすると、
「所長は仮の身分だがね。僕は《蟻蜘蛛》だ」
その言葉に、ギーチェがはっとする。
「貴族院の諜報機関か」
「《白樹》へ潜入していてね。あのアリゴテという男がシャノンに関心があるようだから、先手を打って、アイン君に養子にしてもらった」
人を食ったような笑みを浮かべ、ジェラールは言った。
「我ながら冴えていたね」
ぽけーとした顔でシャノンは聞いている。
意味がよくわからないのだろう。
「で? シャノンになにがある? あの魔力暴走は、アデムの血が関係しているのか?」
「彼はガードが堅くてね。実のところ、まだなにもわからない」
「なに?」
ドゴォォンッと爆音が鳴り響き、魔導馬車が激しく揺れる。
魔法砲撃だ。
「おっと。《影王埋葬墓標》はそう簡単に出られないはずなのだが」
馬車の後方をジェラールが振り向く。
アリゴテが空を飛びながら追ってきていた。
「《爆砕魔炎砲》」
魔法陣を描き、アリゴテは十数発の炎弾を魔導馬車に向かって撃ちだした。
水の結界がみるみる削られ、地面が何度も爆発する。
「実はこの近くに《白樹》の拠点がある」
魔導馬車内部。
ジェラールが手をかざせば、魔力の粒子が溢れだし、そこに地図が現れた。
この地域周辺のものだ。
「ここだ」
と、ジェラールが指さした一点が光った。
「アリゴテの魔導工房がある。シャノンのこともなにかわかるだろう。彼が外に出てきた今が絶好の機会だ」
「忍び込むにも、奴をまかないことには無理だろう」
そうギーチェが言った。
アインは考え、そして地図を指す。
「この先で二手に分かれる。奴は片方しか追えない。追われた方は足止めをして、追われなかった方が拠点へ行く」
ジェラールは顎に手をやる。
「ふむ。よいプランだ。それでいこう」
そう口にすると、ジェラールは魔法陣を描く。
「《黒魔複製陰影》」
魔導馬車シェルケーの影がズズズと動き始め、立体化していく。
あっという間に、影の馬車が作られた。
目の前にやってきた分かれ道を、魔導馬車は右へ、影の馬車は左へ進んだ。
アリゴテは迷わず、魔導馬車シェルケーを追った。
「《爆砕魔炎砲》」
無数の炎弾が降り注ぎ、魔導馬車シェルケーの結界が蒸発していく。
「《加速歯車魔導連結二輪》」
加速歯車が回転して、魔導馬車シェルケーがぐんと加速する。
だが、アリゴテの飛行速度は速く、完全には引き離せない。
追撃とばかりに《爆砕魔炎砲》の雨が降り注ぐ。
それをかろうじてやりすごすが、地面を燃やした炎弾が魔法陣を構築していた。
「《導火縛鎖》」
魔法陣から鎖が伸びて、魔導馬車に巻きつき拘束する。
「《剛力歯車魔導連結二輪》」
剛力歯車が回転し、馬力を増幅していく。ぎちぎち鎖は軋み、それが勢いよく引きちぎられた。
魔導馬車シェルケーが再び加速していく。
空を飛ぶ勢いで地を疾走する馬車は徐々にアリゴテを引き離していく。彼はそれに対して、指先を向けた。
「《魔炎殲滅火閃砲》」
凝縮された火閃が直進して、疾走する魔導馬車を容赦なく撃ち抜いた。
地面は爆発し、横転した馬車は強く地面に叩きつけられる。
火閃によって火がつき、燃え始めていた。
そこへ、アリゴテがゆっくりと降下してきた。
「出てくるといい、アイン・シュベルト。貴様もシャノンを巻き込みたくはないだろう?」
「残念だが、シャノンはこっちにはいなくてね」
声が聞こえた瞬間、アリゴテが表情をしかめる。
馬車の影が伸びて、それが人影に変わる。
現れたのはジェラールだった。
「激しく追えば、アイン君が歯車大系を使うと思ったのだろう。暗影大系の魔法で対処したなら、引き返して別の馬車を追う予定だった」
ジェラールは言う。
「いやぁ、宴会芸用に歯車大系を習得していてよかった。芸は身を助けるとはこのことだ」
「知らなかったな、バッカス」
眼帯の奥から、アリゴテはジェラールを見据えた。
瞬間、眼帯が燃え上がり、赤く燃える火塵眼があらわになった。
「君は思ったよりも、愉快な人間だったようだ」
「怖い怖い。是非、お手柔らかに頼むよ」
影の魔法陣を描きながら、ジェラールは臨戦態勢に移行する――
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