最期の言葉
シャノンの体から魔力が溢れだし、激しく荒れ狂う。
馬車内部もズタズタに引き裂かれていき、シャノンははっと気がついた。
「まりょくぼーそー……?」
シャノンは拳をぐっと握りしめ、全身に魔力を巡らせる。
アインと一緒に検証したように、そうすることで、彼女が引き起こす魔力暴走は停止する。
だが――止まらない。
「ぱぱぁっ……!」
助けを求めるようにシャノンが叫んだ。
「ぱぱっ、たいへん! ぼーそーとまらないっ……!」
魔導馬車を中心に広がり続ける魔力暴走。
ギーチェとバッカスがそれを避けるように、距離を取っている。
そこへ、猛スピードでアインが飛んできた。
「心配いらん」
アインの周囲に浮かぶ無数の連鎖歯車が、魔力暴走を包囲するようその配置を形成していく。
前面には大型の歯車を、後方に下がるにつれて、より小型の歯車が配置された布陣である。
「《減界魔導連結》」
アインの連鎖歯車が結界を構築した。
荒れ狂う魔力暴走は《減界魔導連結》に触れることでその威力を減衰させ、外に漏れ出ることはない。
第十位階以上の魔力暴走、それをたった一人で完全に抑え込んでいた。
「護石輪、結界術式起動」
アインが魔法陣を描けば、シャノンの腕につけられた護石輪が彼女を包み込む結界を構築した。
要人を護るために開発された魔導具だ。これで余程のことがない限り、シャノンが傷つく心配はない。
(あとは馬車を――)
アインがそう思考した瞬間だった。
「《魔炎殲滅火閃砲》」
地上から凝縮された火閃が疾走した。
アインは連鎖歯車二枚を盾にしたが、そのすべてを撃ち抜き、アインが張った魔法障壁すら貫いて、彼の脇腹を貫通した。
「ぐっ……!!」
被弾したアインは体勢を立て直し、地面に手をついて着地する。
眼前に、アリゴテの姿が映った。
「歯車の大小は位階の大きさと見た。魔法砲撃の弾道を変えられるのは、それと同位階以上の歯車を使わなければならない」
彼はそう見解を述べる。
《魔炎殲滅火閃砲》は第十三位階。そのため小型の歯車では弾道を変えることができなかったのだ。
アインの口からは血が滲んでいる。
痛みをこらえ、彼はゆっくりと立ち上がった。
「通常より傷が浅い。恐らく、低い位階の歯車を通ることにより魔法の位階が下がる。今の《魔炎殲滅火閃砲》は十一位階程度まで下がったのだろう」
問題を解くようにアリゴテは続けた。
その仮説は正しく、だからこそ、アインの魔法障壁でも致命傷を避けることができたのだ。
「シャノンになにをした?」
アインが問う。
「魔導師なら、己の目と耳と手で解明することだ」
アリゴテはそう答えた。
「詳しい奴がいるなら聞いた方が早い」
言いながら、アインは魔法陣を描く。
「《伝送魔弾》」
数枚の歯車から、魔弾が撃ち放たれる。
アリゴテはそれを走りながら避ける。
なおも降り注ぐ魔弾を魔法障壁で防いだ。
「歯車の数はそれで限界か? それとも、魔力暴走を抑えながらでは操り切れないのか?」
「仮説はそれだけか?」
アインは《飛空》の魔法で低空を飛び、連鎖歯車とともにアリゴテに突撃していく。
「《加速歯車魔導連結二輪》」
「《導火縛鎖》」
ぐんと加速したアインに向かって、アリゴテが魔法陣から十本の鎖を出現させた。
その鎖は複雑に絡み合うかのような軌道を描き、アインの行く手を完全に阻む。
アリゴテは手のひらに火閃を凝縮する。《魔炎殲滅火閃砲》だ。
そのすべてを視界に収め、アインは思考を回転させていく。
(《導火縛鎖》のパズルだ。《魔炎殲滅火閃砲》はつなげられた複数の鎖を伝う。独立した鎖ならば、壊せる)
そのパズルを解いたアインは、どの鎖とも接していない一本のみの《導火縛鎖》を《伝送魔弾》にて撃ち抜いた。
空いた穴へアインは飛び込もうとして、しかし寸前で急停止した。
《導火縛鎖》を通らず、《魔炎殲滅火閃砲》がまっすぐ飛んできたのだ。
ぎりぎりのところで、それはアインの髪をかすめていく。
(《導火縛鎖》を囮に……いや……)
アインの右手に一本の《導火縛鎖》が巻きついている。
《魔炎殲滅火閃砲》を囮にして、アインの足が止まった一瞬の隙を狙ったのだ。
アリゴテがその鎖に手をかざす。
「《魔炎殲滅火閃砲》」
「《加速歯車魔導連結――」
アインは連鎖歯車を振りかぶり、投擲した。
「――四輪!!」
アインに巻きついた《導火縛鎖》を伝い、反対側から向かってくる《魔炎殲滅火閃砲》。
それよりも早く、そして速く、加速した連鎖歯車が寸前のところで《導火縛鎖》を切断した。
《魔炎殲滅火閃砲》は切断された鎖の先端から抜け、明後日の方向に飛んでいく。
そして、鎖を切った連鎖歯車は鋸刃を高速で回転させながら、そのままアリゴテに襲いかかった。
彼は跳躍して、それをかわす。
「答えはわかっただろ」
それを読んでいたアインが、すでに背後に回っていた。
「オマエ一人なら、この枚数で十分だ」
「一人とは限らない」
アインの目の端に火の粉がちらついた。
唸りを上げて飛んできた《灼熱魔炎砲》が派手に爆発した。
魔法障壁を張っていたアインは、後退し、噴煙の中から脱出する。
着地したアインが魔眼を光らせれば、木々の隙間に炎を纏った骸骨兵の姿が見えた。
一体……四体――十六体だ。
気がつけば、アリゴテと十六体の《火葬死骨兵》がアインを取り囲んでいた。
「君は偉人だ。最期の言葉を聞いておこう、アイン・シュベルト」
アリゴテがそう口にする。
「すべての計画が順調に進んでいるときは一度振り返ってみた方がいい」
不敵に笑い、思わせぶりにアインは言った。
「重大なミスに気がついていないだけだからだ」
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