誤算
アインの《伝送魔弾》が《白樹》の二人を捉える。
サルタナが咄嗟に張った魔法障壁は、魔弾の物量に押し切られ、あっという間にすりつぶされていく。
「「う、お、あああああぁぁぁぁっ……!!」」
魔弾の雨に全身を撃ち抜かれ、サルタナとツヴァイゲルトは吹っ飛んだ。
彼らはアリゴテが立つ丘に体を叩きつけられ、ぐったりとその身を伏す。
最早、意識はない。
「まだ助かるぜ」
アリゴテに向かって、アインが言う。
「連れて帰って、治療するんだな」
「残念だが、もう助からない」
アリゴテは両手をかざし、倒れた二人に魔法陣を描く。
アインがはっとする。
倒れた二人が一気に燃え上がったのだ。
「《火葬死骨兵》」
ギ、ギギィ、と軋んだ音を響かせながら、ゆっくりとその二人は立ち上がる。
骨だけになった体に炎を纏い、魔眼をぎらりと光らせた。
アインを敵と認識したようだ。
(……遺体を操る魔法……生前の魔力が強化されている)
アインは《火葬死骨兵》をそう分析する。
「悪趣味な禁呪だ」
「悪趣味? 魔導師とは名より実を取るものだ」
平然とした調子でアリゴテは言い、指先で命令を発する。
二体の《火葬死骨兵》の手から炎が上がったかと思えば、そこに骨の杖が現れた。
§ § §
馬車の中。
シャノンは窓にピタリと張り付いていた。
(ばけものでてきた……!?)
《火葬死骨兵》を見ながら、シャノンはぶるぶると体を震わせている。
(3たい1で、ぱぱ、だいピンチ! シャノン、てだすけしないと!)
外に出ようとしたシャノンだったが、すぐに『絶対に外に出るな』と言われたことを思い出す。
彼女はうーんと頭を悩ませ、そしてはっと閃いた。
(まどうばしゃで、おみずのたいほううって、ほねのばけものの、ひをけす!)
シャノンの頭には完璧な作戦が構築されていた。
無論、彼女なりに、の話である。
シャノンはぐっと拳を握って、魔力を発する。
§ § §
「《灼熱魔炎砲》」
二体の《火葬死骨兵》が骨の杖から、巨大な灼熱の炎弾を放った。
(操られた遺体が魔法を……? それも第十位階……!!)
そう思考しつつも、アインは素早く魔法陣を描く。
「《第十位歯車》」
巨大な連鎖歯車が生成され、その中心を《灼熱魔炎砲》が通過する。
《鋼呪縛刺弾槍》や魔弾と同じく、《灼熱魔炎砲》は歯車の向きに合わせて軌道を捻じ曲げられ、狙いを外した。
そして、《灼熱魔炎砲》が通過した連鎖歯車は力を得たかの如く、勢いよく回転を始めた。
「《伝送魔弾》」
小さな連鎖歯車から魔弾が次々と撃ち放たれる。
二体の《火葬死骨兵》は飛び退いてそれをかわしていく。
(動きが速い。だが――)
アインが指先を伸ばし、魔法陣を描いた。
「《伝送魔弾》」
《第十位歯車》で作った巨大な連鎖歯車から、閃光の如く魔弾が発射された。
それは回避行動をとっていた《火葬死骨兵》の逃げ場を塞ぐように直進し、容赦なくその死兵をぶち抜いた。
二体の《火葬死骨兵》は上半身を丸ごと消失している。
「観察はもう十分だろう。それとも」
アインが言った。
「まだ《砲閃連鎖歯車魔導伝送》の魔法効果がわからないか?」
「一つわかった」
アリゴテは言った。
「その魔法では《火葬死骨兵》を倒せない」
瞬間、下半身だけになった《火葬死骨兵》から炎の柱が立ち上る。
中に見えたのは黒い影。
炎がふっと消えれば、そこには完全に体が再生した二体の《火葬死骨兵》が立っていた。
チッ、とアインが舌打ちしながら、複数の連鎖歯車から《伝送魔弾》を放つ。
再び《火葬死骨兵》の骨を削っていくが、やはり瞬く間に再生する。
(遺体のマナを再生に使っているのか。死体に戻す条件があるはずだが……)
その瞬間――巨大な水の塊が明後日の方向から飛んできて、《火葬死骨兵》に直撃した。
纏っていた炎が消火され、一体の《火葬死骨兵》はガラガラと骨だけになり、地面に崩れ落ちた。
それこそが、《火葬死骨兵》を死体に戻す条件だったのだろう。
(…………!? これは――)
アインが横目で、魔導馬車に視線を向けた。
(シャノン、か……?)
「めいちゅーっ! おみずのたいほう、はっしゃ!」
シャノンの青い瞳に魔法陣が描かれている。
彼女が魔力を発すれば、それに呼応するように魔導馬車の結界が一部、弾丸の如く撃ちだされた。
(どういうことだ? あの魔導馬車には砲塔の類はついていないはず……!?)
付近でバッカスと戦闘中だったギーチェが、眉をひそめる。
撃ち出された水の塊は、残り一体の《火葬死骨兵》めがけて飛んでいく。
だが、狙いが甘い。
即座にアインが魔法陣を描き、連鎖歯車を操作する。
一枚の連鎖歯車が飛んできた水の塊の角度を変え、避けようとした《火葬死骨兵》の足を、他二枚の連鎖歯車が切断した。
水の塊はそのまま《火葬死骨兵》に直撃し、再生の炎を消火する。
バラバラと骨だけが地面に積み重なった。
「残念だったな」
そう口にしてアインは連鎖歯車の照準をすべてアリゴテに向ける。
まだ彼は完全に《砲閃連鎖歯車魔導伝送》の魔法効果を解明していない。
今ならば、アインに有利がある。
「いいや」
だが、アリゴテはそう答えた。
強がりでもなんでもない。彼は嗤っていた。
心の底から、嬉しくてたまらないといったように。
「とても嬉しい誤算だ。ここまで進んでいたのだから」
アリゴテが魔法陣を描く。
糸を編んだようなその形状に、アインは鋭い魔眼を向けた。
(……魔法大系がまるでわからん。あれも禁呪か――)
全神経を目の前に集中する。
だが、異変が起きたのは後方から――魔導馬車を中心に激しく魔力が溢れ出したのだ。
自ら水の結界を破壊し、木々を薙ぎ倒していく濃密な魔力の渦に、アインは見覚えがあった。
(……魔力暴走……!?)
チッと舌打ちをして、アインは無数の連鎖歯車からアリゴテに《伝送魔弾》を放つ。
即座に身を翻し、アインは魔導馬車へ向かって飛んだ。
「シャノンッ……!!」
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