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授けられし一族


 総魔大臣ゴルベルド・アデムの述懐――



 アデムとは、授けられし一族だ。


 祖は十二賢聖偉人、紅血大系を開発したウォールズ・アデム。彼は自らの血に魔法をかけ、その魔力を増強させた。


 それはウォールズの血を引く子孫にも受け継がれ、アデムの一族は皆、魔力持ちである。


 だが、人為的に授けられた力は時折、彼ら自身に牙を剥いた。


「ご当主様。お世継ぎが無事にお生まれになりました」


「すぐに行こう。男か? 女か?」


「元気な男の子……ではあるのですが……」


 腹心の知らせを聞き、当時のアデム家当主レイザルドは邸宅の医務室に駆けつけた。


 そして、目を見開く。


 生まれた我が子は一人ではなかったのだ。


「双子……! なんということだ……!」


 嘆くようにレイザルドは声を上げる。


「……どちらが……忌み子なのだ?」


 すると、魔法医が片方の赤子を抱きかかえた。


「ご覧ください」


 魔法医は赤子の顔をレイザルドに向ける。


 瞳から、魔力が溢れだしている。

 それは黒く燃えるような魔眼だった。


 レイザルドが息を呑んだのは、その禍々しさを目の当たりにしたからだけではない。

 アデムの一族に伝えられている通りのものだったからだ。


「……火塵眼……まさか私の代で発現する子が現れようとは……」


 しばらくその魔眼を見つめた後、レイザルドは言った。


「枷をつけ、幽閉しろ」


「し、しかし……奥方様がなんというか……」


「火塵眼は禁呪だ。制御できたのは始祖ウォールズ様のみ。この化け物を外に出せば、アデム家の権威は失墜する」


 冷徹にレイザルドは言った。


「妻には火塵眼が暴走して燃え尽きたと伝えろ」


「……仰せのままに」


 そう魔法医は答えた。


 かくして、忌み子とされたガルヴェーザは屋敷の地下牢に幽閉されることとなった。

 彼は一歩もそこから出ることは許されず、一部の人間を除いては存在すら知らされることはなかった。



   § § §



 それから、七年が経った――


 アデム家邸宅。地下牢。


 窓一つないその牢獄に、一人の少年が座っている。


 ガルヴェーザだ。


 両目を大きな眼帯で覆われ、足には鎖がついていた。


 なにをするでもなく、彼はただ座り続けている。


「ガルヴェーザ」


 幼い声が響く。

 

 ガルヴェーザはそちらに顔を向けた。


 同じ顔の少年が立っていた。彼は地下牢の鍵を手にしている。


 ガルヴェーザの弟、ゴルベルドである。


 彼はいつものように地下牢を開け、ガルヴェーザの隣に座った。


「この間ゴルベルドが言っていた新魔法の作り方がわかったよ」


 ガルヴェーザは空中に魔法陣を描く。


「魔炎は光を放つ。この光で熱をくるみ、凝縮すれば閃光と化す。これで《魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》の完成だ」


 ガルヴェーザは指先から、極小の火閃を放つ。


 それは鉄格子の向こう側の壁を貫通し、小さな穴を穿った。


「素晴らしい」


 ゴルベルドは言った。


「ガルヴェーザ。やはり君は天才だよ。第十三位階魔法は大人の魔導師でも簡単に開発できるものではない。それをこんな牢獄でやり遂げるのだから」


「ゴルベルドが調べてくれた知識があってこそだ」


「僕たちは大人になったら、凄まじい魔導師になるよ。《本を書く魔導師》に」


 すると、ガルヴェーザは真顔で言った。


「……ゴルベルドはそうなるだろう。俺はここから出られない」


「大丈夫だよ。僕が当主になれば、出してあげられるからね」


「現当主が認めないだろう」


 達観したようにガルヴェーザが言う。


「どんな手を使ってでも認めさせるよ。才能のある人間が魔導師になれないなんて、おかしいからね」


「俺は禁呪そのものだ。この世界にあってはならない」


 ゴルベルドは不服そうな顔で見返して、手にした鍵をガルヴェーザの眼帯に差し込んだ。


 魔法陣が描かれたかと思うと、パズルが解けるように眼帯が外れる。


 ゴルベルドの目に映ったのは黒く輝く炎の魔眼。


 息を呑むほどに美しい火塵眼だった。


「ほら、火塵眼はこんなにも美しい。これがあってはならないなんて、世界の方が間違っている」


 すると、ガルヴェーザは寂しそうに微笑んだ。


「一緒に世界を変えよう。僕はガルヴェーザを裏切らない。約束だ」


「……そうだな」


 ガルヴェーザが言った。


「俺もゴルベルドを裏切らない。それだけは約束しよう」


 ゴルベルドは満面の笑みを浮かべたのだった。

 


   § § §



 一〇年後――


 アデム家の邸宅が燃えていた。


「なぜだ、ガルヴェーザ。父上を放せ。今なら、まだ後戻りができる」


 炎上する広間にゴルベルドとガルヴェーザが対峙していた。


 ガルヴェーザの手には父レイザルドの姿があった。炎に包まれている。

 ガルヴェーザの眼帯は外れ、火塵眼があらわになっていた。


「手遅れだ」


 ガルヴェーザは諦観したように言った。


「一七年間、俺は存在してはならない者として幽閉され続けてきた。ゴルベルド、お前だけが唯一、俺の味方だった」


 ガルヴェーザは火塵眼を光らせる。


 父親の体が更に炎に包まれ、そして跡形もなく燃え尽くした。


「これでお前が当主だ。解放してくれ」

 

 一瞬の沈黙の後、ゴルベルドは言った。


「理解できない。なぜこんな愚かなことをしでかした? 私の言うとおりにしていれば、それで穏便に済んだはずだ」


「……双子といっても、俺とお前は違いすぎた」


 ガルヴェーザが手の平をかざせば、魔力の粒子が溢れ出し、そこに剣が現れた。


 ゴルベルドははっとして、叫んだ。


「愚かな真似をっ!」


「さらばだ、ゴルベルドッ!!」


 ガルヴェーザは勢いよく剣を振り上げた――



   § § §



 天空城アルデステムアルズ。第一魔導工房。


「――私は火塵眼を剣で斬り裂き、ガルヴェーザの心臓を確かに貫いた。遺体は魔法省に引き渡したよ。検分後、彼は火葬された」


 ゴルベルドが過去の顛末を語る。


「確認したけれど、禁呪案件のため、当時の総魔大臣が立ち会ったようだ。両目と心臓に深い傷があり、治癒は不可能だったと記録にある」


 アウグストがそう補足した。


「数年後、私に第一子ディオンが生まれた。だが、ディオンは何者かにさらわれた。ゆりかごに残されていた羊皮紙には『約束を果たしてもらう』と書かれていたよ」


 ゴルベルドにとっても心当たりは一つしかなかった。


「生きているはずがない。だが、ガルヴェーザだと確信したよ。恨んでいるんだろうね。才能を持ちながらすべてを奪われた彼は、すべてを与えられた私を許せなかったのかもしれない」


 彼は言った。


「だから、娘のリリアが産まれたとき、死産したことにしたよ。名を変え、僻地でしばらく乳母に育てさせた。その後、身元を隠すため孤児院に入れた」


 アインがなにかに気がついたように視線を鋭くした。


「孤児院?」


 ゴルベルドはシャノンを見ながら、言った。


「――彼女の本当の名はリリア・アデム」


 視線を移し、彼は続けた。


「アイン・シュベルト。君に本来の学位を返そう。その代わり、私の娘を返してくれないか?」



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― 新着の感想 ―
[一言] おおーまさかのあなたの子だったんかー...本当なのかな? どうなるんだろう...シャノンは行きたくないって言いそう
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