魔導師の敵
空中にて、アインの膝がアリゴテのみぞおちに突き刺さっている。
魔力の粒子が迸り、歯車の魔法陣が回転した。
「剛力歯車魔導連結四輪》」
アインの膂力が剛力歯車によって増幅され、彼はそのままアリゴテを蹴り飛ばす。
ボールのように弾け飛んだ彼は、床に叩きつけられ、そのまま体で石畳を削った。
「《第十一位階歯車魔導連結》」
たたみ掛けるように、十一枚の歯車魔法陣がアリゴテに照準を向ける。
アインの掌から魔力が放たれ、それが魔導連結する歯車魔法陣にて増幅される。魔力の光線が疾走した。
その必殺の一撃がアリゴテを撃ち抜く――寸前で、赤い火閃が瞬いた。
《魔炎殲滅火閃砲》。
光線と火線が激突し、火花を散らしながら鬩ぎ合う。
第十三位階魔法である火閃は、第十一位階魔法の《第十一位階歯車魔導連結》を難なく押し返し、反対にアインに迫った。
ゲズワーズがアインの目の前に飛び込んできて、《闇月》にてそれを防ぐ。
(今のを凌ぐか。生半可な攻撃では倒せん)
そうアインは思考する。
彼は指先を伸ばし、歯車魔法陣を描く。
(加速魔法か……)
魔眼を光らせ、アリゴテがそれを《加速歯車魔導連結四輪》だと見抜く。
そして、《魔炎殲滅火閃砲》の魔法陣を描き始めた。
「先ほどの速度が限界なら、次は撃ち抜く」
アインの加速魔法に対して、アリゴテは真っ向から《魔炎殲滅火閃砲》でねじ伏せる宣言をした。
「次は少し遅くする」
アインは言った。
「その代わり頑丈だ」
瞬間、その魔法が発動した。
《加速歯車魔導連結四輪》でゲズワーズを加速させ、アリゴテに向かって撃ち出したのだ。
巨大なダークオリハルコンの塊が突っ込んでいく。
《魔炎殲滅火閃砲》を当てることこそ難しくないが、《闇月》があるため貫くことはできない。
ドゴオォォッとゲズワーズの頭が壁にめり込む。
アリゴテは間一髪、避けていた。
その回避方向を先読みし、アインが飛んでくる。
「《加速歯車魔導連結四輪》」
まっすぐ突っ込んできたアインに対して、アリゴテは冷静にその指先を向けた。
魔法陣が描かれ、《魔炎殲滅火閃砲》が発射された。
「《闇月》」
闇の結界が球状に展開されていた。
内側にいたアリゴテの《魔炎殲滅火閃砲》は、《闇月》によって封殺――つまりは消滅した。
そこへアインが飛び込んできた。
右手を伸ばし、アリゴテの顔面をぐっとわしづかみにする。
「悪いが、どつきあいにつきあってもらうぜ」
アインは言い、歯車魔法陣を回転させる。
勢いよく回る剛力歯車が、彼の膂力を増幅させ、その体が躍動した。
「剛力歯車魔導連結四輪》」
そのまま、アリゴテの体を激しく真下に叩きつける。
ベギィッと床にヒビが入り、アリゴテは吐血した。
「なるほど。《闇月》の内側に引きずり込んで炎熱大系の砲撃魔法を無力化するわけだ」
アリゴテは平然と言い、黒炎の魔眼を光らせた。
瞬間、アインの右手が燃え上がる。
(結界無視の火塵眼。魔導工域がなくても……!?)
咄嗟の思考、それを見透かしたようにアリゴテは言った。
「使えないとは言っていない」
力が弱まったその隙にアリゴテはその右手をつかみ、顔面から引き剥がす。間髪入れず、両足がアインの顔面を捉える。
「《剛炎強火》」
炎が噴射され、アリゴテはアインを勢いよく蹴り飛ばす。
アリゴテはそのまま走り、《闇月》の結界から出た。
アインはゲズワーズを後退させつつ、両腕の付け根からダークオリハルコンの器工魔法陣をバラまいていく。
それらは宙に浮遊し、アリゴテに魔法の照準を定めている。
(火塵眼は使えても威力が弱い。ゲズワーズは燃やせないだろう)
火塵眼で燃やされた右腕が動くのを確認し、アインはそう思考する。アウグストに使った際は、魔導工域がその力を底上げしていたのだろう。
火塵眼単体では、ゲズワーズが致命傷になるほどの火力ではない。
(上手い位置取りだ。あそこなら、ゲズワーズを攻めにも守りにも使える)
アリゴテはアインの動きを分析していた。
ゲズワーズを警戒しながらも、彼は指先を伸ばす。
炎熱大系の魔法陣が描かれた。
「《魔炎殲滅火閃砲》」
凝縮された火閃が一直線にアインを襲う。
間にゲズワーズが割って入り、《闇月》にてそれを防いだ。
瞬間、アリゴテの魔眼が赤く燃えた。
火塵眼ならば、《闇月》をすり抜けて直接アインを燃やすことができる。
「《立体陰影》」
アインの魔法にて、室内の複数箇所に身を隠すための立体的な影が出現する。
それはアリゴテの視界を制限し、火塵眼の有利を潰す一手だ。
《闇月》と《立体陰影》がある限り、アリゴテは攻め手に欠ける。
しかし、彼は言った。
「ゲズワーズは破壊できないから術者を狙うはずだと考えた」
火塵眼が、空間六カ所に火をつける。
狙いはアインでもなければ、ゲズワーズでもなかった。
「思い込みこそ、魔導師の最大の敵だ」
アリゴテがそう言った瞬間、空間に点火した六カ所の火が、それぞれ魔法陣を描く。
それは《導火縛鎖》だ。
「《第十一位階魔導連結加工器物》」
アインが歯車魔法陣を描く。
しかし――
「一手間に合わない」
平然とアリゴテは言い放つ。
炎熱大系である火塵眼から、地鉱大系である《導火縛鎖》への魔導連鎖。
位階が上がった《導火縛鎖》が複数の鎖を伸ばし、それらが一つの巨大な魔法陣を描く。
すなわち、炎熱大系第十三位階魔法への魔導連鎖――
「《魔炎殲滅火閃砲》」
轟々と唸りを上げ、超高熱の火閃がゲズワーズへと照射された。
展開された《闇月》は一瞬それを食い止めたものの、圧倒的な魔法出力に押され、弾け飛ぶ。
膨大な火閃はゲズワーズの頭部を撃ち抜いた。
ゲズワーズを動かす重要な器工魔法陣は、その殆どが頭部にある。破壊されれば、その古代魔法兵器は沈黙する。
当然、魔導工域を封じている《水月に狂いし工域の闇》も止まった。
「開仭。魔導――」
アリゴテがとどめをさすため、魔導工域を開仭しようとしたその瞬間、彼の魔眼はゲズワーズの巨体の陰で密かに回転する、巨大な歯車を捉えた。
「《第十一位階歯車魔導連結》」
十一枚の歯車魔法陣にて増幅された魔力の砲弾がゲズワーズの胴体を貫き、怒濤の如くアリゴテに押し寄せた――
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