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聖空に咲く銀の水晶


 逃げ場がないほど広がった炎の塊が、閃光の如く放たれた。


(《魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》……炎熱大系第十三位階魔法……)


 襲いかかる膨大な炎を魔眼で捉え、ギーチェが息を呑んだ。


 すべてを焼き尽くす火閃かせんが、《白樹》本拠地の四階部分を薙ぎ払った。


 魔導工房の壁は炎に包まれ、四階の通路は半壊している。


 だが、ギーチェとアウグストは無事だった。


 寸前のところで《白晶結界レンテスト》を展開し、その火閃から身を守ったのだ。


「《白晶結界レンテスト》か。壊すのは億劫だ」


 アリゴテがそう口にした瞬間、ギーチェがはっとした。


(影が……!?)


 《白晶結界レンテスト》の内側に影が三つある。一つ目はギーチェのもの、二つ目のアウグストのもの、三つ目の影は存在するはずがない。


 だが、床に映るその人影が、実体化するように床から這いずり出てきて、影の爪を伸ばした。


 狙いはアウグストだ。

 間一髪、ギーチェは刀身が溶けた刀でその影爪を捌く。


「《錬鉄生成ディーパ》」


 アウグストが魔法陣を描き、鉄の剣を生成した。ギーチェがそれを握り、影の男――バッカスを切りつける。


 そいつは身を低くしてかわす。ギーチェが更に追撃すると、影の男は床に映る普通の影に戻り、回避した。


 次の瞬間、影の男は《白晶結界レンテスト》の外側に現れる。


「影になって結界をすり抜けられるようだね。闇影大系かな? 恐らく禁呪だろう」


 アウグストがそう解析する。


「あちらの魔導師の《魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》と連携されると厄介だ」


「影の攻撃は自分が捌きます」


 そう口にして、ギーチェはアウグストの背中を守るように剣を構えた。


「守っているだけでいいのか?」


 アリゴテが言う。


 扉を押さえていた《封石魔岩結界バディオウルズ》が破壊され、扉が完全に閉まった。


 シャノンを助けるには、まずあの扉を破壊しなければならない。


 ギーチェが鋭い視線を敵に向ける。

 

 焦って飛び出せば向こうの思うつぼだ。


 二人は慎重に敵の出方を窺う。


 真っ先に動いたのはバッカスだ。彼は影の爪を床に伸ばす。


 すると、それは普通の影となって床を伸びて《白晶結界レンテスト》の内側に入った。


 その途端、影の爪は実体化して、アウグストに襲いかかる。


 ギーチェは剣を振り下ろし、影の爪を切断した。


 アウグストが魔法陣を描く。


 それを見計らったかのように、全方位から影の爪が伸びてくる。アウグストの前方から来た爪には、彼の体が壁になり、ギーチェの剣が届かない。


 ギーチェは後方の影の爪を一瞬にして斬り捨てると、跳躍し、アウグストの鼻先に迫った影の爪を切断した。


「《黒石魔獄球結界ディモン・ディスゲイズ》」


 アリゴテを取り囲むように無数の黒球が出現した。アウグストの魔法だ。


 それらが次々と射出され、全方位から襲いかかる。


 アリゴテが魔法陣を描けば、彼を中心にして球体の炎が渦巻いた。次々と着弾する黒球はその炎にどろりと溶かされた。


(《魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》を球状に……!)


 精緻を極める魔法制御に、アウグストが目を見張った。


 瞬間、アリゴテが両手を前に突き出す。球をなしていた炎のすべてがその一点に集中する。


「《魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》」


 極限まで凝縮された火閃が発射される。


 先ほどよりは更に速く、光の尾を引きながら直進した《魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》が、アウグストの《白晶結界レンテスト》に衝突する。


 一瞬の鬩ぎ合い、魔力の火花を激しく散らし、火閃が結界を撃ち抜いた。


 アウグストの脇腹に血が滲んでいる。結界もろとも撃ち抜かれたのだ。


(《白晶結界レンテスト》を貫通した……)


 影の男に気を配りながらも、ギーチェが背中越しに険しい視線をアリゴテに向ける。


(《鉱聖》アウグストの十三位階魔法だぞ。あの男、何者だ?)


「炎熱大系を自在に操る魔法技術。君の風貌。その眼帯は正体を隠すためかな?」


 アウグストがアリゴテに話しかける。


「とてもよく似ているね。総魔大臣ゴルベルド・アデムに」


「一つ教えよう」


 アリゴテの周囲に炎が溢れ出し、それが凝縮されていく。


「俺の正体は脅しにはならない」


 極限まで凝縮された《魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》が、再び閃光の如く直進した。


 火の粉が舞い散り、火閃かせんが《白晶結界レンテスト》に直撃する。

 

 先ほどは容易く結界を貫いた《魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》だったが、今度は貫くことができない。


 アウグストもまた全方位を覆っていた《白晶結界レンテスト》を凝縮し、前方に集中したのだ。


 防御に穴はできるが、その分結界自体は厚くなる。

 貫通するのは、至難を極めるだろう。


 《白晶結界レンテスト》に衝突した火閃光が二つに分かれ、アウグストの後方の壁を焼く。


 その二つの焼き跡が魔法陣を形成していた。


「《導火縛鎖ファゼム》」


 焼き跡の魔法陣から二本の鎖が伸び、背後から襲う。二人を取り囲むように、鎖はぐるぐると渦巻き状になり、徐々にその範囲を狭めようとする。


 アウグストは《白晶結界レンテスト》を再び全方位に広げる。そこに《導火縛鎖ファゼム》が巻きついたが、結界を突破することはできない。


「《魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》」


 結界を広げたところを狙っていたか、凝縮された火閃が疾走する。


 だが――


「《白晶結界レンテスト》」


 アウグストは広げた《白晶結界レンテスト》の外側にもう一つ凝縮した《白晶結界レンテスト》を展開し、障壁とした。


 瞬間、アウグストが目を見張る。


魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》を防ぐ寸前、もう一本の《導火縛鎖ファゼム》が後ろから回り込んできたのだ。


 火閃はその鎖に直撃する。


 導火線に火がついたように、《魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》は鎖に沿い、曲がっていく。

 凝縮した《白晶結界レンテスト》を迂回したのだ。


導火縛鎖ファゼム》はもう一本の《導火縛鎖ファゼム》につながる。広げた《白晶結界レンテスト》に巻きついた鎖に沿い、《魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》が螺旋を描いた。


 ガラガラとガラスのように、《白晶結界レンテスト》は砕け散る。


 アリゴテが手を上げる。


 壁に燃え広がっていた炎が、いつのまにか魔法陣を描いていた。


 そこから放たれたのは無数の《爆砕魔炎砲ボルクス》と《導火縛鎖ファゼム》だ。


(《白晶結界レンテスト》は間に合わない……!)


 アウグストは通常の魔法障壁を展開した。次々と炎弾が直撃し、魔法障壁が割られていく。


 後退したアウグストは、背中の鎖に当たり、阻まれる。《導火縛鎖ファゼム》が蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。


「《魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》」


 アリゴテが凝縮した火閃を放つ。それは工房中に張り巡らせた《導火縛鎖ファゼム》を伝い、を一瞬にして駆け巡る。


(鎖に触れれば焼き切られる。これでは結界を広げることは難しい)


 魔眼を光らせ、ギーチェは静かに刀を構える。


(多彩な攻めと圧倒的な火力で押し込む炎熱大系の戦い方を熟知している。奴の狙いは……)


 アウグストが床を見つめる。


導火縛鎖ファゼム》が魔法陣を形成しつつあった。


(《導火縛鎖ファゼム》の魔導連鎖による足元からの《魔炎殲滅火閃砲ジア・ボルドヘイズ》)


 目を閉じて、静かにアウグストは言った。


開仭かいじん――」


 アウグストから莫大な魔力が放出され、周囲の鎖が弾け飛ぶ。


「魔導工域《聖空に咲く銀の水晶ゼ・ノーヴァレイン》」


 空間が塗り替えられるかのように、輝く聖なる空が具象化される。


 星のように無数に輝くのは、銀の輝きを放つ水晶。それは魔導師たちの論文にのみ姿を表す仮想的な魔法鉱物――


 第十三位階魔法をもってすら存在することの許されないその銀水晶が、聖空せいくうに冷たく光る。


 六智聖が一角、《鉱聖》アウグストの切り札が、今、解き放たれた――



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― 新着の感想 ―
[一言] 最後のアウグストの魔術はきっと固有結界だ。心象世界の具現化だ。魔法にもっとも近い魔術だ。
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