表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/68

水の魔剣

 

 二階。図書室。


 広い室内には、大きな本棚が並べられていた。


 中央付近にて、二人の男が対峙している。


 大剣を担ぎ上げているオルテガに対して、ギーチェは中段に刀を構えている。


 ギーチェはじっと相手の出方を窺っている。


「あんな馬鹿でかい剣では自分の剣速についてこられない。間合いに入れば一発だ……って思ってんだろ?」


 オルテガが言う。


 ギーチェは無言で、敵の動きを注視したままだ。


「入れねえよっ!」


 巨体とは思えぬ俊敏な動きでオルテガは間合いを詰め、大剣を降り下ろす。


 石畳の床が粉砕されたが、ギーチェはそれを見切り、身をかわしている。


 すかさず、彼が一歩を踏み込もうとした瞬間、オルテガの大剣が真横から切り上げられた。

 ギーチェは身を低くしてそれをかわす。


 即座に下段から斬り込めば、オルテガの大剣がそれを受け止める。


 ぐっとオルテガが力を入れ、ギーチェを後方に弾き飛ばした。


 タン、と着地した彼に、追い打ちをかけるようにオルテガが上段から剣を振るう。それをギーチェは刀で受け流す。


 重量のある大剣がまるで小枝のように扱っている。


 その男、オルテガは魔導師とは思えぬほどの膂力で、まるで竜巻のごとき連撃を繰り出す。

 それをかわし、あるいは受け流し、ギーチェは大剣を捌いていく。


 僅かな隙を突くように大上段から放たれた渾身の一撃を、しかしギーチェは大きく飛び退いてかわす。


 二人の距離が剣の間合いから離れた。


「知らねえ流派だ。今の聖軍は、こんな田舎剣士を隊長にしてんのか」


「そういう貴様の剣技には見覚えのある」


 オルテガの挑発には乗らず、ギーチェは冷静に言う。


「そうだろうよ。オレの師はお前のとこの総督だからな」


 それを聞き、ギーチェが僅かに眉を上げる。


 正直、考えがたいことであった。


「……元聖軍が、なぜ《白樹)にいる?」


「強くなるためさ」


 当然のように、オルテガは言った。


 それが万人の受け入れられる理屈だと思っているような顔が、男の傲慢さを表している。


「大陸最強の剣士アルバート・リオルから剣を習いたくて入隊した。だが、聖軍にいたんじゃアルバートの野郎は越えられねえ。だから、《白樹)に入った」


 ギーチェが視線を険しくする。


 アルバート・リオルはギーチェの直属の上官にして、総司令官である聖軍の総督だ。


 剣を習いたくて入隊したという話はわかる。


 だが、除隊後に《白樹》に入った理由がアルバートを超えるため、というのは正直、彼には理解し難い行動だった。


「罪人になっては意味がない」


「大ありだぜ。あの野郎に勝てる」


 そう言い放ち、オルテガは大きく踏み込む。


 間合いに入るや否や、その大剣を降り下ろす。


 ギーチェは先程よりも遥かに速く、前へ踏み込みつつ、その一撃をかわす。


 同時に、その刃がオルテガの右腕の付け根を斬り裂いた。


「…………!?」


 構わずオルテガが大剣を振るおうとする。


 だが、右腕がだらりと下がったまま動かすことができない。腱が断ち切られているのだ。


 オルテガの鼻先に、刀の切っ先が突きつけられた。


「貴様では勝てない。私にすら」


 フッととオルテガは笑った。


 瞬間、水の刃が床から噴き出た。


 ギーチェがそれをかわすと、オルテガの大剣が横なぎに振るわれた。


 腰が入っていない左手のみの一撃だ。それをギーチェが刀で受けにかかる。だが、大剣は水のようにギーチェの刀をすり抜けた。


 鮮血が散った。


 かろうじて後退したギーチェだったが、胸元がぱっくりと斬り裂かれていた。


「知ってるか?」


 オルテガの大剣が水のように流動化し、うねうねと彼の周囲に蠢いている。


「アルバートが所有する魔剣は古代魔導具の一種だ。現代の魔法協定でいえば、禁呪で生成されたことになる。だったら、どうする? こっちも禁呪で作ればいいじゃねえか」


 大剣に魔力が流し込まれれば、水の剣身が長く伸びた。


刃水剣じんすいけんリーレアスト!」


 その水の刃が鞭のようにしなり、ギーチェを斬りつける。


 刀で受けることは難しい。


 彼は後退しながらもそれをかわす。しかし、攻撃の鋭さは増していき、ギーチェは追い詰められた。


「あばよ!」


 僅かに体勢を崩したところへ、水の刃が襲いかかる。


「虚真一刀流、浮草うきくさ


 降り下ろされた水の刃を、刀で受ける。


 すり抜けるはずの水の刃に、しかし刀は押された。それはさながら、水に漂う浮き草の如く。


 押された力に逆らわず、ギーチェはその身をかわした。


(……なに……!?)


 オルテガが舌を巻く。


「もう一回やってみろっ!」


 更に水の刃は勢いを増し、ギーチェに連撃を繰り出した。逃げ場を塞ぎ、追い込んでいくようなその水の斬撃を、しかし彼は川の流れに身を任せる浮草のように、くるり、くるりと回転しながら捌いていく。


(受け止めてるんじゃねえ……水流の勢いを、体捌きの力に変えてやがる……!!)


 水の刃がギーチェの足元を狙う。彼はそれを受け流しながら、宙に舞った。


(これで……!!)


 着地するより早く、刃水剣リーレアストがギーチェを斬りつける。


 だが、空中にいながらも、ギーチェはやはり浮草の如く、くるりと回転して、水の斬撃をいなす。


「ちぃっ!!」


 激流のようなその突きを、ギーチェはゆらりと回避して、更に一歩を踏み込んだ。


 そこは彼の刀が届く距離だ。


「間合いだ」


 一閃。


 最短距離を刃が疾走し、オルテガの胴に迫る。


 ガギィィィッと鉄同士が衝突する轟音が響いた。刃水剣は固体に戻っており、ギーチェの刀を弾き返していた。


 オルテガはその大剣を上段に振りかぶっている。


「近づきゃどうにかなるとでも――!?」


 片足を軸にして、ギーチェの体がくるりと回っていた。


 刀を弾き返したオルテガの力をそのまま利用し、更にその一刀は加速する。

 

「虚真一刀流、風羽かぜばね


 疾風の如き刃が斬り上げられ、左手ごと刃水剣を切断する。


「がああああああああああぁぁぁっ!!!」


 カン、カラン、と地面に落ちた刃水剣は、剣身部分がどろりと水に変わった。器工魔法陣が破壊されたのだろう。


 そうなってしまっては最早、魔剣としての要はなさない。


「田舎剣士に勝てない貴様が、魔剣にこだわるのは十年早い」


 血振りをして、ギーチェは静かに納刀した。



【作者から読者の皆様へお願い】


月間ランキング9位まであと1138p……!


『面白い』『続きが気になる』『応援したい』と思っていただけましたら、ブックマーク登録をお願いいたします。


また広告↓にあります【☆☆☆☆☆】を押していただけると評価ポイントが入ります。

ご評価いただけましたら、とても嬉しく、執筆の励みになります。


またお昼ごろ更新しますので、よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ