魔導師の主義
洋館。エントランス。
「ほう」
目つきの鋭い男、グルナッシュがアインを睨む。
「一番下っ端が大きく出るものだ」
「事実だ。禁呪研究など馬鹿な魔導師の逃げ道にすぎん」
アインの挑発に、オルテガ、グルナッシュ、シャルドネが殺気立つ。
「なんだと?」
「ルールを破らなければ、目的の魔法一つ開発できない。そんな空っぽの頭で、オレには勝てん」
プライドに障ったか、グルナッシュがアインを更に強く睨めつける。
オルテガ、シャルドネも穏やかならぬ様子だ。
『挑発はまあまあ効いたようだ』
アインが二人に《魔音通話》を送る。
『先にシャノンたちを助けたい。攻撃すると見せかけて、ここを突破する』
『了解した』
ギーチェが答える。
『援護しよう』
アウグストが言った。
「《爆砕魔炎砲》」
アインが放った炎弾が、オルテガたちに襲いかかり、派手に爆発した。
シャルドネの張った魔法障壁により、三人は無傷。だが、構わず、アインはまっすぐ彼らに向かって走っていく。
「来な。ひねり潰してやる」
オルテガがその右手に魔力を集中し、アインを迎え撃つため、どっしりと構えた。
アインは《爆砕魔炎砲》でできた瓦礫を拾い、それを素早く投擲する。
魔眼を光らせたグルナッシュはそれを軽く手でつかんだ。
瞬間、《飛空》の魔法にて、アインは大きく飛翔した。三人の頭を越えて、そのまま天井を目指す。
「《岩石変形》」
アウグストの魔法により、天井が変形して穴ができた。
「逃がす――」
「《封石魔岩結界》」
オルテガが飛んだ瞬間、床から何本もの柱がせり出していき、彼らを閉じ込める牢獄に変形した。
アウグストは瞬く間に結界を構築したのだ。
「ちっ!」
「よいよい」
舌打ちにするオルテガに、シャルドネが言う。
「上はグルナッシュに任せれば大事ないわい」
アウグストが視線を鋭くする。《封石魔岩結界》に閉じ込められているのはオルテガとシャルドネの二人だけだった。
(……一人逃がしたか)
§ § §
アウグストの空けた穴を抜け、三階まで上昇したアインは着地する。
すぐさまその部屋を出て、魔眼を光らせながら、彼は廊下をまっすぐ走っていく。
(アナスタシアを閉じ込めるには結界内でなければ不可能だ。それらしき魔力があるのはこの先――)
そこまで思考すると、ギーチェから《魔音通話》が届いた。
『アイン。一人そっちを追った。気をつけろ』
アインははっとする。
瞬間、足下に雷が走った。
咄嗟に飛び退き、彼はそれを回避する。下階から床を突き破ってきたその雷は、かくんと角度を変え、アインの周囲を旋回し始める。
(迅雷大系か)
雷が向かってくるのに合わせ、アインは魔法陣を向けた。
「《嵐従風刃魔導竜巻》」
風の刃が吹きすさび、雷と衝突する。絶縁特性が強い風轟大系の魔法は、雷撃を切り刻む。
そのはずだったが、その雷撃は逆に《嵐従風刃魔導竜巻》を撃ち抜いた。
(絶縁特性が強い風轟大系と衝突して、雷撃の威力が衰えない?)
アインは魔法障壁を展開する。
だが、その雷は魔法障壁を避けた。寸前で身を捻るが、アインの肩が雷撃に撃ち抜かれる。
苦痛を解さず、彼はすぐに魔眼で索敵する。
(近くに術者の気配がない)
「なるほど。術者自らが雷化する魔法か」
「存外、早く気がつくものだな」
雷が動きを止め、人型をなしていく。
姿を現したのは鋭い目つきをした魔導師、グルナッシュである。彼はバチバチと全身に雷を纏っている。
「《魔変雷化》。表の魔導師には辿り着けない。これが禁呪というものだ」
グルナッシュは再び雷と化し、アインの周囲を飛び回る。
まさに雷のような速度で天井や床、壁を跳ね返る姿を、目で捉えることすら容易ではない。
その雷撃がアインを五体を何度もかすめ、じわじわと彼を追い詰めていく。
「禁呪研究が逃げ道だと? 矮小な魔法しか開発できぬ雑魚ほど、道徳を語り出す。魔導師に必要なものは」
突っ込んできたグルナッシュを、アインが全方位に展開した魔法障壁で抑えにかかる。
だが、その瞬間、大量の魔力が迸り、雷が増大した。
「真理だ!」
魔法障壁が粉々に砕け散り、アインの体を撃ち抜く。
グルナッシュの雷は再び人型に近い状態に戻った。
「なにを勘違いしているかしらんが、道徳を語った覚えはない」
グルナッシュが魔眼を光らせる。
アインは何事なかったかのように身を起こした。
(まだ動く……? あの距離でかわしたのか?)
ゆっくりと手を伸ばし、アインは不敵に笑う。
挑発するように彼は言った。
「禁呪に手を染めておきながら、この程度かという話だ」
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