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ピクニック

 

 湖の古城。玉座の間。


 シャノンがリュックサックにバナナを入れ、続いて魔眼鏡を入れる。


「かんせい!」


 パンパンに膨らんだ鞄を前にして、シャノンはご満悦だ。


「……オマエ、その鞄どうした?」


 不思議そうにアインが聞く。

 そんな鞄を買った覚えがなかったのだ。


「だでぃにもらた!」


 シャノンはリュックサックを背負い、ぴょんっと跳ねる。


「なに……?」


 と、アインはくつろいでいたギーチェを振り向く。


「友達とピクニックに行くなら、可愛らしい鞄も必要だろう」


「ピクニック? 聞いてないぞっ」


「だでぃにいった!」


 天真爛漫にシャノンが言う。


「研究ばかりにかまけて、娘の話を聞いてやらないからだな」


 ため息交じりに言い、ギーチェはこれ見よがしに首を左右に振った。


「ピクニックの話を教えてもらったぐらいで、なにを勝ち誇ってやがる?」


 すると、ギーチェはアインの肩に手を置き、諭すように言った。


「アイン。第一位階魔法も使えない魔導師が、第十位階魔法を使えるか?」


 アインがはっとする。


 ここぞとばかりにたたみ掛けるべく、ギーチェはこの世の真理を口にした。


「ピクニックの相談もされない父親が、なんの相談をされるというんだ?」


「う……!?」


 アインは途方もない衝撃を受ける。


 彼の脳裏をよぎったのは、将来の光景――


『シャノン、せいぐんにはいるから、ぐんたいのべんきょうしてる』


『聖軍? 聞いてないぞっ』


『だでぃにいった!』


 それは、父親である自分には一切相談されずに、娘が進む道を決めてしまう悲劇であった。


 アインは威風堂々、覇気のある表情に変わる。


 彼は世紀の大発明に挑む部下たちを鼓舞する大魔導師の如く大声を上げた。


「シャノン! 悩み事を言え!」


「ぱぱがへん!」


 アインは力一杯拳を握る。


「よし! 深刻な相談だ!」


「ほんとにな」


 ギーチェが冷静につっこみを入れる。


 そのとき、リーン、と呼び鈴が鳴る。


「今後はオレの知らないことはこのノートに書け。絶対に書き漏らすなよ」


「そんなものを読んでいる暇があったらもっと娘に構ってやれ」


 教育方針の違いにより対立するアインとギーチェ。そんな父親二人に、容赦なくシャノンは言った。


「ぱぱ。だでぃ。あそんでないで、シャノン、みおくって」


 楽しげに歩くシャノンの後ろを、すごすごとアインたちはついていく。


 エントランスに到着すると、


「ちょっと待て。友達とピクニックって言ったな? 子どもだけで行くつもりか?」


 アインがはたと気がつき、心配そうに言う。


「学院敷地の丘までだ。学区内は治安もいい。不審な魔力が感知されれば、すぐ都市防衛隊が駆けつける」


 ギーチェがそう言葉を返す。


「それはそうだが、子どもだけで万一があったらどうするつもりだ?」


「あら? でしたら、エスコートしてくださいますの?」


 シャノンが扉を開くと、アナスタシアがそこに立っていた。


「なるほど。夜盗の集団が来ても踏み潰せるな」


「過剰戦力だ」


 アインとギーチェがそんな会話を交わす。


「ちょっと、失礼じゃありませんことっ!?」


「アナシー、いこー」


 そう口にして、シャノンが勢いよく走って行く。


「あ、こら。待ちなさいよっ!」


 アナスタシアがそう声を上げるも、シャノンは脇目も振らずダッシュしている。はあ、とため息をつき、彼女はアインたちに向き直る。


「では、お父様方、お嬢様をお預かりいたしますわ」


 と、アナスタシアが優雅にお辞儀をする。


「オマエも知らない奴にはついていくなよ」


「馬鹿にしているんですのっ? ついていくわけがありませんわっ!」


「よし。学区外に行くなよ。なにかあったらすぐ《魔音通話テスラ》を送れ」


 驚いたような顔で彼女はアインを見返す。


 アナスタシアは齢五歳にして魔導学界の至宝とまで呼ばれるほどの魔導師だ。年相応の心配など殆どされたこともなかったのだろう。


 戸惑ったように彼女は視線をそらす。


「気をつけろよ」


「……え、ええ。行って参りますわ……」


 照れたようにアナスタシアは言い、シャノンを追いかけていった。



   § § §


 

 夕暮れ前――


 魔導工房から出てきたアインは、その足で玉座の間に向かった。


 ギーチェがシャノンが散らかしたおもちゃを片付けている。


「シャノンは?」


「1時間もすれば帰ってくるだろう」


「そうだな」


 そう答え、アインはなにをするでもなく、ウロウロと室内を歩き回る。


 ギーチェはため息をつく。


「心配なら、連絡することだ」


「馬鹿者。帰宅は17時予定だぜ。まだ日が高い内に連絡すれば、オレがあたかも心配性の親バカだ」


「事実だろう」


 冷静にギーチェが言った。


 変わらず、アインは落ち着かない様子でウロウロと歩き回っている。


「アイン」


 ギーチェはボロボロの残骸としか思えない謎の物体を手に取る。シャノンが《加工器物リレイス》の歯車で作ったものだ。


「これは捨てていいかわかるか?」


 そう助け船を出した。


「シャノンに聞く」


 そう口にしてアインは《魔音通話テスラ》を使った。


「シャノン、聞こえるか?」


 数秒が経過する。


「シャノン?」

 

 アインは表情を険しくする。


 ギーチェもそれに気がついたようだ。


「どうしたんだ?」


「《魔音通話テスラ》が通じない」


 そのとき、リーン、と呼び鈴が鳴る。


 エントランスまで移動し、玄関の扉を開ける。来訪者は六智聖の一人、アウグストだった。

 彼は深刻そうな表情で切り出した。


「アナスタシアと《魔音通話テスラ》が通じない。心当たりはないかい?」


 ギーチェとアインが視線を鋭くする。



   § § §



 湖の古城。エントランス。


 アインは机に地図を広げていた。


「以前にシャノンが狙われてな。そいつの仲間が狙ってくるかは定かじゃなかったが、ある器工魔法陣を持たせてある。定期的に小さな魔力を出すだけの歯車だが――」


 地図に魔法陣が描かれ、ドーム状の魔法球が構築される。


魔音探索ディムド》の魔法だ。耳には聞こえない魔音を干渉させることで、その範囲内にある特定の魔力を捉えることができる。


「反応した」


 アインが地図上の一点を指し示す。


「ディグセーヌ村落」


 アインがそう口にする。


 アウグストの表情がますます険しくなっていた。


「ここは確か、魔石病の病原地域だったはずだ。聖軍により封印区域に指定され、魔法結界が張り巡らされている。人は入れない」


「正確には入る理由がない、だろ? まともな魔導師ならな」


 アインが言った。


「禁呪魔導組織《白樹はくじゅ》。以前、シャノンを狙ったのは、そこに属する魔導師かもしれないのですが」


 そう前置きをして、ギーチェはアウグストに説明する。


「聖軍が探っても、拠点らしい拠点が見つかっていません。本来侵入が不可能なはずの封印区域にあるのではとの見方が有力です。断定はできませんが……」


「これだけ条件が揃えば、決まったようなもんだろ」


 アインがはっきりと結論を口にする。


「シャノンとアナスタシアが連れ去られたこの場所が、禁呪研究を行う《白樹》の魔導工房だ」



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― 新着の感想 ―
〉「シャノン! 悩み事を言え!」 〉「ぱぱがへん!」 〉 アインは力一杯拳を握る。 〉「よし! 深刻な相談だ!」 〉「ほんとにな」 このやり取り、最高。ほのぼのおバカペアレントしてるわぁ…。 それ…
[一言] だから気をつけろって言ったのにねぇ……
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