虚真一刀流
ホルン鉱山魔導工房。
魔法球には、ゴーレムを両断したギーチェの姿が映っていた。
「私は聖軍総督直属、実験部隊黒竜隊長ギーチェ・バルモンド。当鉱山の所有者には禁呪研究の嫌疑がかけられている。ただちに武装を解除し、鉱山を明け渡せ」
「ちょ、ちょっと、《逢魔》!」
アナスタシアが《魔音通話》にて話しかけている。
「聖軍ってどういうことですのっ? わたくしは怪しい研究に加担する気はないと申し上げたでしょうっ?」
『聖軍を騙っているだけだ。学界の至宝と謳われた《石姫》であれば、それぐらいはわかると思ったが?』
《逢魔》からはそう返事が返ってくる。
「……あ、あ、当たり前ですわっ。でしたら、この方、本気でやってしまってもいいんですのね?」
『罪に問われることはない』
「そう。それじゃ――」
アナスタシアは巨大な魔法陣を描く。
§ § §
「《魔磁石傀儡兵》!」
ギーチェの目の前に、再びゴーレムが構築される。胴体から頭と両腕は切り離され、宙に浮かんでいる。
『観念することね、盗人さん。今度のゴーレムは、ひと味違うわよっ!!』
《魔磁石傀儡兵》が右腕を突き出し、それを射出した。
唸りを上げて飛んできたそれを、ギーチェはかわす。
ドゴォォォッと右腕は岩壁にめり込んだ。
(シャノンを狙う素振りはないな。《白樹》にしては人が好い)
ギーチェは刀を振るう。
シャノンの周囲に円形の線が引かれた。
「この円の中にいれば安全だ」
「ここで、だでぃのおうえんする」
「任せたぞ」
ギーチェは地面を蹴り、一瞬にして《魔磁石傀儡兵》との間合いを詰める。
先ほど同様、勢いよく刀を振り下ろす。
だが、刃が《魔磁石傀儡兵》に届くことはなく、途中でピタリと止まった。
シャノンが驚き、ギーチェが視線を険しくする。
「残念。《魔磁石傀儡兵》に剣は通用しませんわ」
ゴーレムは左腕をなぎ払う。
身を低くしてそれをかわし、ギーチェは下から斬り上げる。
だが、またしても中空で刃は止まった。
まるでそこに見えない壁があるかのように。
「何度試しても同じですわよ」
《魔磁石傀儡兵》は全身からハリネズミのように針を出す。
大きく飛び退いてギーチェはかわす。
追撃とばかりに、今度はゴーレムの左腕が射出された。勢いよく押し迫るその拳を、ギーチェは横に跳ねて回避する。
瞬間、左腕がかくんと曲がり、ギーチェを追ってきた。
一閃。
彼は刀を振り払い、左腕を真っ二つに斬り裂いた。
「磁力を操るゴーレムか」
左腕が曲がったのは、最初に壁にめり込んだ右腕が磁力で引っ張ったからだ。
『そうですわ。普通の磁石でしたら鉄を引き寄せるだけですけど、魔磁石でできた《魔磁石傀儡兵》は反射することも自由自在。戦士では絶対、この子には勝てませんわ』
右腕と左腕が磁力に引き寄せられ、《魔磁石傀儡兵》の胴体に戻った。
両断した左腕も元通りにくっついている。
「だでぃっ、だいぴんちっ!? シャノン、ぱぱよんでくるっ」
シャノンが大慌てで走り出そうとすると、
「大丈夫だ」
シャノンを見ることもなく、ギーチェが言う。
上げた足をすっと下ろし、シャノンが、くるりと彼の方を向く。
彼は刀を下段に構え、《魔磁石傀儡兵》を睨んだ。
「シャノン。私の親は極東の小国出身なんだ」
「きょくとうのくに?」
「剣士の国だ。私は古くから続く、古式剣術の家系なんだ。その腕を買われて、聖軍総督直属の部隊に抜擢された」
敵を見据えたまま、ギーチェは言う。
「虚真一刀流は、大陸の魔術士と戦うための剣だ。その技を特別にシャノンに見せてやろう」
「すごいわざ……!?」
シャノンが目をキラキラさせながら、ギーチェに聞く。
「さほどでもないが、あれを倒すぐらいは問題ないだろう」
『黙って聞いてたら、好き勝手言いますのね』
アナスタシアの声が響く。
「やれるものならやってみたらいかが? どんな技か知りませんけれども、剣が届かないのですから無駄に決まってますわ!!」
《魔磁石傀儡兵》の背中についた四本の角棒が浮かび上がり、天井へ発射された。
整然と構えを崩さないギーチェ。
四本の角棒は天井付近で四つに分かれ、ギーチェを取り囲むように、その四方にそれぞれ突き刺さった。
ぐぅん、と角棒が伸び、それは天井と大地をつなぐ柱と化す。
「これでおしまいですわねっ!」
《魔磁石傀儡兵》の両腕が射出される。
ギーチェは右腕をかわし、左腕を斬り裂く。
だが、すぐさま左腕は元通りにくっつく。そして、縦横無尽にギーチェの周囲を旋回していく。
『この磁力柱の内側なら、反発も吸引も自由自在。逃げ道はありませんわ!』
唸りを上げて飛ぶ両腕が地面を砕き、天井を粉砕し、幾度となくギーチェに襲いかかる。
だが、彼は冷静にそれらをかわし、飛んできたゴーレムの右腕に剣を突き刺して上に乗った。
『なっ……!? このっ!! 挟んであげますわっ!』
ゴーレムの左腕を飛ばし、ギーチェを挟み撃ちにしようとするも、ぎりぎりでギーチェは右腕を蹴って下りた。
ゴーレムの左腕と右腕が衝突して、明後日の方向へすっ飛んでいく。
『あっ……!』
アナスタシアがはっとした頃には、ギーチェはすでに《魔磁石傀儡兵》の本体に迫っていた。
刃が煌めく。
恐るべき速さのなぎ払いは、しかし魔の磁力によって阻まれた。
『ほら、ご覧なさいな。《魔磁石傀儡兵》は戦士じゃ絶対に……』
瞬間、ギーチェは磁力の反動を利用して、逆回転にくるりと回った。
「虚真一刀流、風羽」
一撃目よりも加速したギーチェの一刀が磁石の反発力を凌駕し、《魔磁石傀儡兵》の胴体を両断した。
更に勢いは止まらず、ギーチェはその胴体を八つに斬り裂く。
すると、バラバラになった胴体から魔法球がこぼれ落ちた。
すかさず、ギーチェはそれを突き刺す。
ゴーレムが完全に沈黙し、サラサラと砂鉄になった。
『嘘……』
遠視の魔法球越しに、アナスタシアがその光景を驚愕の表情で見つめる。
『……一刀目で斬り込んだことで磁石の反発力が働いた。その勢いを生かし、自分の力を上乗せして磁力の結界を押し切る。理屈はわかりますけど、魔法でもないのにそんなこと……』
ギーチェは刀を静かに構え、術者に向かって言い放つ。
「次のゴーレムを出すといい。マナが尽きるまで叩き斬ってやろう」
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