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シャノンの謎


 魔術士の腕が宙を舞う。


 ギーチェはそれを横目で冷静に見つめる。切断された腕と、体に残った腕、その両方に魔法陣が展開され、木の枝に変形する。それがぐんと伸びた。


 シャノンに迫った魔法は《樹腕木手レドウム》。樹の腕が伸び、シャノンを捕縛しようと襲いかかる。


 だが、ギーチェは動じず、刀を閃かせる。


 枝分かれし、無数に伸びた樹指の悉くを一瞬の内に斬り捨てると、幹だけになった腕が残された。


 一方、アインに迫った魔術士は、彼の魔法により炎に包まれていた。


「力の差はわかっただろう」


 アインが言う。


「……確かに、な!」


 魔術士は炎を魔法で吹き飛ばすと、地面を蹴った。


 飛び込んだ先はアインではなく、ギーチェでもなく、またしてもシャノンだ。


 しかし、そいつは背中からなにかに引っ張られるように空中で止まる。アインが黒い鎖の魔法を使い、そいつをつなぎとめていたのだ。


「《呪縛黒鎖ジェイル》」


 ギーチェと戦っていた魔術士もまとめて、アインは二人にぐるぐると黒い鎖を巻きつけていく。


 奴らは抵抗を試みるも、あえなく完全に拘束された。


「で」


 アインが鎖に巻かれた二人に近づいていく。


「また魔法省の差し金か?」


 と、そのとき、二人の体に禍々しい印が浮かぶ。


 ギーチェは咄嗟にシャノンの目を手で覆った。


「ぐがっ……!」


 魔術士二人は血を吐いて、その場に倒れた。

 

 アインはしゃがみ込み、魔眼を光らせる。


「息はない。呪毒魔法の類いだろうな」


 倒れた魔術士の胸元に光るものが見え、アインは手を伸ばした。


「…………」


 それはペンダントだ。

 先ほど、ギーチェがアインに調べてもらうために持ってきたものと同じ造りだった。



   § § §



 ぎい、と魔導工房の扉が開く。


 中からアインが出てきた。


 シャノンの相手をしながら廊下で待っていたギーチェが振り向く。


「どうだ?」


「まずオマエが持ってきた魔導具だが、魔力探知から逃れるためのものだ。かなり広範囲の妨害魔力を出すことができる」


 アインは壊れたペンダントを見せる。


「そこまでは聖軍でも調べられた」


「それと市販品じゃない」


「理由は?」


「主な材質はブラックミスリルとホワイトラピス。僅かに付着したこの粉は翠蝶すいちょうの鱗粉だ。使い捨ての魔導具だろう。翠蝶が燃え尽きるまで効果を発揮し、一度使えば壊れる」


 理路整然とアインが説明する。


「無事な部分の器工魔法陣から逆算すると、残りがどういう構造であっても魔力暴走が起きやすい。腕の良い魔術士ならば問題ないが――」


「魔法協定に違反する」


 ギーチェが口にすると、アインはこくりとうなずいた。


「そういうことだ」


「これで強制捜査の言い分も立つ」


「もう一つ。さっき襲ってきた連中のものだ」


 アインがもう一個のペンダントを取り出す。


「オマエが持ってきた魔導具と同じ代物だ」


 ギーチェは視線を険しくする。


「貴様の客だと思ったが? シャノンを狙っていたはずだ」


 自分の名前が出たからか、シャノンが不思議そうに振り向いた。


「オレもそう思ったが、違法魔導具だ。同じ組織の連中だと考えた方が妥当だろう」


「《白樹》は禁呪研究の魔導組織だぞ。ただの子どもを狙う理由があるか?」


「ただの子どもではないのかもな」


「なに?」


「シャノンを引き取るように言ったのは、研究塔の前所長ジェラールだ。あいつはかなり変人でな」


 そもそも、無学位のアインを魔法省に就職させ、第一魔導工房室の室長に抜擢したのがジェラールだ。


 学位にこだわらず、アインの才能を見抜いたとも言える。


 アインにとってはある意味恩人だが、同時に数々の無理難題を要求してきた人物でもある。


 やれ伝説の魔石を探せだの、やれ浮遊大陸についての論文を書けだの無茶ぶりをしてくるのだ。その上、自分はよくよく隠れ家に引きこもり、普通の室長がやるべきではない業務を大量にふられた。


 とはいえ、ジョージのように新魔法を盗めと言ってくるわけではない。他に魔導師としての働き口があるわけでもなく、アインは渋々ながらも付き合っていたのだ。


「シャノンを養子にすることは無茶ぶりの一つだと思っていたが」


「なにか理由があった?」


 ギーチェの言葉に、アインがうなずく。


「連絡は?」


「つかん。どこにいるかもわからん。いつものことといえば、いつものことだが……」


 シャノンの件で、なにかトラブルに巻き込まれたということも考えられる。


「シャノンのはなし?」


 にょこっとシャノンがアインの後ろから顔を出す。


「オマエが狙われているかもしれん」


「おい……」


 アインの率直な物言いに、ギーチェが慌てて声を発した。


「子どもにそんなことを……」


「話さなければ自衛もできん。ただでさえ、こいつは知らない大人についていきそうだからな」


「シャノン、いく!」


 偉そうにシャノンが胸を張り、得意満面に笑う。「いくな……」とギーチェがぼやいていた。


「悪い大人がオマエを狙ってるかもしれん。オレかギーチェ以外にはついていくな」


「あい!」


 わかっているのかいないのか、脳天気にシャノンが返事をした。


「で、鉱山のいい話があるんだったな?」


 アインがそう話を振ると、ギーチェは一枚の写真を渡した。


「シャノンもみるっ!」


 シャノンが背伸びをして首を伸ばすので、アインはしゃがんでそれを見せてやる。


 ある鉱山が映された写真である。


「ペンダントを持っていた魔術士が出入りしていた鉱山だ」


 ギーチェが言う。


「ここで《白樹》が禁呪研究を行っている可能性が濃厚というわけだ」


 アインの言葉に、ギーチェはうなずく。


「鉱山に出入りしている人間は少なく、《白樹》である確証も乏しい。聖軍の正規部隊は動かせない」


「オレに協力しろってことだろ」


「協定違反があれば、鉱山は没収される。協力者には鉱山を優先的に売却をしてもいいという許可をもらった」


「いつまで人手不足なんだ? オマエのところの総督は民間人を使うのが上手いな」


 皮肉っぽくアインが褒める。


「まあ、やるか。鉱山は必要だ。シャノンを狙ってる理由も突き止めておきたい」


 アインは立ち上がる。


「お出かけ? シャノンもいくっ!」


「ああ」


「待て。安全なところに預けた方がいい」


 ギーチェが言う。


「聖軍は無理なんだろ?」


「狙われている証拠がない」


「だったら、オレたちのそばが一番安全だ」


 どこに預けたとしても、相手がもし《白樹》の魔導師なら、並の人間では相手にならない。

 アインとギーチェが鉱山へ行っている間に、連れ去られる恐れもある。


「だが……」


 ギーチェが食い下がろうとすると、「だいじょうぶ」とシャノンが両手を腰にやった。


「だでぃ、つおい! ぱぱ、つおい!」


 ビシッ、ビシッとシャノンは二人の父を交互に指さす。


「シャノン、むてき」


 彼女は堂々と腕を組み、不敵に笑う。


 ギーチェは諦めたように目を閉じた。


「……わかった。子どもがいるんだ。無茶な真似はするなよ」


「オレが無茶したことがあったか?」


 得意げにアインが言う。


「いつもだ、馬鹿」


 そうギーチェが一蹴した。



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