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魔石とミスリル


 一週間後。湖の古城。


 ぎ、ぎぃ、と城の扉が僅かに開き、その隙間からシャノンが外へ出てきた。


 彼女はとことこと歩いていき、ポストを開ける。そこから、手紙を一枚取り出すと、また城の中へ戻っていった。


 湖の水面がパシャッと揺れる。


 頭を出した得体の知れぬ人影が、古城に視線を注いでいた。


「ぱぱ、てがみきた!」


 書斎に飛び込み、シャノンは手紙を大きく掲げた。


 アインは羽ペンを置き、彼女を振り向く。


「どこからだ?」


「あんたがたどこさ まっする がくいん!」


 自信満々、元気いっぱいにシャノンが言う。


「どこからだよ……」


 アインはシャノンから手紙を受け取り、目を通した。


「アンデルデズン魔導学院だ」


「がくいんあってた!」


 嬉しそうにシャノンが言う。


「読み書きの練習の成果だな」


「シャノン、がんばってる。かんたんなのはよめる」


 そうシャノンは意気込みを見せる。


 アインは封筒を開けると、中から羊皮紙を取り出し、目を通す。


「シャノンのしけんのおてがみ?」


 恐る恐るといったようにシャノンが聞く。


「合格だ」


 アインがそう言うと、シャノンはぱっと表情を輝かせた。


「いっぱつごうかく! ろうにんなし!」


「幼等部に浪人はないぞ」


 得意げなシャノンに、アインがつっこむ。どこで浪人などという言葉を覚えてきたのか、彼は疑問だった。


「まあ、よくがんばった」


「シャノン、いいこでめんせつした」


(多少危うい受け答えもあったが……)


 と、アインの脳裏に面接時のシャノンの様子がよぎった。


「ぱぱもえらい!」


 シャノンが両手を上げて、ひらひらと動かしている。

 どうやら、アインを褒めたたえているようだ。


「そうか?」


「しょーめいした。みんな、びっくり」


「面接官が歯車大系に好印象だからよかったけどな」


「わるいときあるかな?」


 シャノンが不思議そうに首をかしげる。


「無学位だからな。気に食わないという魔導師も多いだろう。しきたりと伝統ってのは面倒なもんだ」


 だからこそ、当初は歯車大系の開発者であることをアピールするつもりはなかったのだ。

 面接官がしきたりや伝統を重んじる魔導師だった場合、それだけで落とされることも考えられた。


 とはいえ、あの状況ではどう考えても不合格だったため、アインは賭けに出るしかなかったのだ。


 ジェロニモやアウグストが歯車大系に好意的だったのが幸いした。


「ぱぱ、なにしてたの?」


 シャノンが机の上に広がっている羊皮紙を見る。


「ああ、魔石とミスリルの必要量を……」


 言いかけて、アインはふと気がついた。


「ちょうどいい。二次試験の勉強を教えてやる」


「やった!」


 両手をあげて、シャノンは喜んだ。


「魔法研究には魔石とミスリルがよく使われる」

 

 アインが机の引き出しを開ける。

 そこから鉱石と原石を手に取り、机の上に置いた。


「こっちがシルバーミスリル」


 銀色の金属の鉱石をアインが指さす。


「こっちが魔石、レッドラピスだ」


 赤い宝石の原石をアインが指さす。


「この二つは、この城にいくつもある。探してみろ」


「シャノンみたことある!」


 すると、シャノンは部屋を飛び出した。


 やってきたのは厨房である。

 彼女はかまどに近づいていき、しゃがみ込んだ。


「レッドラピス! シルバーミスリル!」


 シャノンはかまどについている赤い魔石と銀の金属を指さす。


「正解だ」


「ほかにもしってる!」


 また楽しそうにシャノンが走って行く。


 今度はアインの魔導工房へやってくる。その扉についている赤い魔石と銀の金属を彼女は指さす。


「レッドラピス! シルバーミスリル!」


「正解だ」


「もういっこあるよ!」


 シャノンが城の外に出て、湖のほとりまで走ってくる。

 そこに置かれている石版には、やはり同様のものがあった。


「正解だ」


「しゅせきごうかく、まちがいなし!」


 嬉しそうに彼女は胸を張る。


「じゃ、今の三つの共通点……同じところはなんだ?」


 すると、シャノンは頭にはてなを浮かべた。


「かまどとドアとせきばん、おんなじあるか?」


「ヒントは、この石版は湖に関係がある」


 すると、シャノンは閃いたように、湖に頭から飛び込んだ。石版が輝き、シャノンは水面を滑っていく。


「シャノン、うく!」


「正解だ。じゃ、ドアとかまどは?」


 シャノンは考える。


「かまど、ぱぱピッてやると、ほのおでる」


「そうだ」


「ドアはひとりでひらく! えらいドア!」


「そうだな。つまり、それはなんだ?」


「まほう!」


 魔法を使うジェスチャーをしながら、シャノンが言った。


「普通の魔法か?」


 シャノンは考え、そして《加工器物リレイス》の歯車をポケットから取り出した。


「ぱぱからもらったはぐるまとおんなじ! きこうまほうじん!」


「正解だ」


 シャノンは嬉しそうに笑みをたたえる。


「この歯車自体がミスリルで、ここについているのが魔石だ」


 アインは《加工器物リレイス》の歯車を手にして、上部をシャノンに見せる。そこには赤い魔石、レッドラピスがあった。


「なぜこれで魔法が使える仕組みになっているかと言うと」


 更にアインは魔力を込めて、歯車を両手で持つ。瓶のフタを開けるように回すと、カチと音がして歯車が二つに分かれた。


 アインは歯車の断面をシャノンに見せる。


「魔石にはマナが蓄えられており、ミスリルは魔力伝導率高い。だから、魔石から流れるマナは魔力に変換されてミスリルを流れる」


 アインが魔石からマナを流すと。魔力が《加工器物リレイス》の歯車を伝って流れていく。


「ミスリルには魔法陣が刻まれている。魔力はそこを通るように加工されているから」


 魔力の光が魔法陣を描き出した。


「魔力が魔法陣を形成し、魔法現象が起こる。これが器工魔法陣の仕組みだ」


 ほえー、とシャノンは感心したように歯車の断面を見つめている。


「魔法には大きく三つの工程がある。マナ使用量の制御、魔力の制御、魔法陣の制御だ」


「シャノン、《ぶれあ》でごーすとやっつけたとき、せいぎょできた?」


「ああ。ただ《浄化ブレア》は特殊で、魔力制御だけでいい。魔力を放出するだけだからな」


 魔力は魔力にしか干渉せず、放っただけではなんの現象も起こらない。


 だが、低級ゴーストは魔力の残滓によって生じる魔力思念体だ。


 そのため、魔力をぶつければ消滅する。それが《浄化ブレア》の原理だ。


「殆どの魔法は三つの制御が必要だ。ただ魔法陣一つとっても、狙った形を描くには練習が必要だ」


 アインが魔法陣を何度か描いてみせる。


「だが、新魔法を研究する場合、練習して魔法陣を描けるようになったとしても、理論と設計が間違っていればまたやり直しだ」


「むだなどりょく!」


 がびーん、とシャノンが大口を開けた。


「じゃ、どうするか?」


「まちがえない!」


「それが一番だが、魔法研究に失敗はつきものだ。だから、器工魔法陣を使う」


 アインは机の上に置いたミスリルを手にする。


「器工魔法陣なら、魔法陣の形成は簡単だし、一部分だけを残して、他を別の形にすることもできる」


 アインが魔法でミスリルを加工し、器工魔法陣を変化させてみせる。


「魔石やミスリルの種類や加工方法で、マナの供給量も魔力も制御できる」


「かんたんなった!」


 シャノンが元気よく声を上げる。


「というわけで、次の新魔法開発に必要な魔石とミスリルの量を計算してたんだ」


「どれぐらいかな?」


「ざっと鉱山一つ分だな」


 シャノンが目を見開く。


「おやまひとつ。おみせにはいるっ!?」


 店で山が売っているのを想像したか、シャノンが驚いたような顔をした。


「鉱山は店の外だ」


「なら、へいき」


「問題は個人では買えないことだ」


 シャノンが首をかしげる。


「おかねない?」


「大規模な魔法研究をやるのは魔法省や聖軍のような組織だ。鉱山が売りに出されても、大抵はそっちに情報が行き、個人の魔導師には回ってこない」


 どう少なく見積もっても、鉱山一つ分という結果は変わらない。


 アインはどうしたものかと頭を悩ませていたのだ。


「鉱山が欲しいなら、いい話がある」


 アインとシャノンが振り向くと、ドアの前にギーチェが立っていた。


「だでぃ!」


 嬉しそうにシャノンが駆け寄っていく。


「いい話って?」


 アインが問う。


 ギーチェが壊れたペンダントを取り出し、アインに見せた。


「魔道具だ。これを調べてほしい」


 すると、途端にアインは嫌そうな表情を浮かべた。


「どうせ聖軍絡みのやばい案件だろ?」


「禁呪研究を行う違法魔導組織《白樹はくじゅ》。その関係者と思しき人間の持ち物だ」


 やっぱりな、といったようにアインは表情を険しくする。


 彼が魔道具を受け取ろうとした瞬間、窓ガラスが割れ、火炎球が飛び込んできた。


 アインがそれを魔法障壁で防ぐ。

 魔道具を握り、窓を睨む。魔術士が飛び込んできた。


 アインが身構えた瞬間、天井が砕かれ、もう一人の魔術士が落ちてきた。


「ちっ」


 前後からの挟み撃ちの格好だ。アインは両方を警戒する。


 だが、天井から落ちてきた魔術士はアインではなく、まっすぐシャノンに手を伸ばした。


(魔導具が狙いではない……!? シャノン……!)


 一閃。


 伸ばされたその腕が宙を舞う。


 刀を抜いたギーチェが、切り落としたのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シャノンちゃんがめちゃくちゃ可愛い! [一言] 是非アニメ化希望します。 他にも応援できる方法あればドンドンアップして下さい。 宜しくお願いします。
[気になる点] 湖に囲まれてるのに簡単に侵入されすぎでは…? 泳げば手紙も出せる訳でしょ…? 結界とか張った方が安全なのでは…。
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