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魔力暴走


 昼下がり。

 

 湖の古城前。


「わぁー」


 シャノンの目の前に馬車が止まっていた。


「ばしゃー、のっていいっ?」


 期待を瞳いっぱいに浮かべ、馬のポーズをとりながら、シャノンが聞いた。


「ああ。約束したろ。これからこいつでマミーに会いにいく」


「まみー! シャノン、いまいくー!」


 ぱかぱか、と馬の走る真似をしながら、シャノンは馬車に乗り込んでいく。


 その背中をアインは少し寂しそうに見つめていた。


 

   § § §



 アンデルデズン研究塔。所長室。


 話し声が聞こえる。


「――はい。今回の件は、デイヴィットの単独犯のようで。投獄されましたが、根回しはすでに……魔法省に嫌疑がかかる心配はないかと……」


 ジョージは目の前の魔法キューブにて、遠隔地と魔法通信を行っている。


 口振りからして、相手は彼よりも上役だろう。


『ゲズワーズがあった保管庫の鍵は、君の管理だったはずだ』


 鋭い指摘に、ジョージは狼狽した表情を浮かべる。


「そ、それは……」


『事件当日に紛失した。そうだね?』


 脂汗を垂らしながらも、唯々諾々とジョージは従うしかなかった。


「……はい」


『これからは身の振り方に注意しなさい。紛失したはずの鍵が思わぬところから出てくるかもしれないからね』


 青ざめた表情で、ごくりとジョージは唾を飲み込む。


 ゲズワーズの違法運用の責任をいつでもジョージに取らせることができる。そういう意味であった。


『アイン・シュベルトを解雇した君の責任は重い。基幹魔法とそれを開発するほどの人材を失った。途方もない損失だよ』


 反論できず、ジョージは苦渋の表情を浮かべる。


『だが、一つチャンスをあげよう。彼を再雇用し、歯車体系の権利ライセンスを譲渡させなさい』


「それはしかし、今更奴にはなんのメリットも……どのようにすれば……?」


『それを考えるのが君の仕事だ』


 あまりに無茶な要求に、ジョージは言葉を返すことができなかった。ゲズワーズの件がある限り、どんなに不当なことをいっても逆らえないとの判断だろう。


 それはジョージがこれまで、部下にやってきたことでもあった。


『ところで、シャノン……彼の娘をゲズワーズに乗せたとき、魔力暴走は起きなかったかい?』


「は……魔力暴走……ですか?」


 ジョージは一瞬、言葉に詰まった。


 彼の頭によぎるのは、デイヴィッドが彼女を業者台に乗せたときの光景だ。


 シャノンの体から魔力がこぼれた。


 まるで魔力暴走のようにみるみる膨れ上がっていくように思え、デイヴィッドにすぐさま御者台を閉めさせたのだ。


 それ以降は特に変調はなかった。


(確かに不自然な魔力暴走の予兆はあったが――)


 そう考えると同時に、ジョージは回答した。


「……いえ、その点は問題ありません……」


 いったいなぜゴルベルドが、孤児の娘に言及したのか。


 どうして魔力暴走が起きる可能性を察することができたのか。


 知っていてはならないことのように感じ、咄嗟にジョージはそう口にしたのだ。


『そうか。では、朗報を期待しているよ』


「はい。ゴルベルド総魔大臣」


 ジョージは深く頭を下げながら、思考する。


(若造め。なにを企んでいる? あの孤児の娘になにがあるというのだ?)



   § § §


 

 王都アンデルデズンの郊外へ向かい、アインたちを乗せた馬車が走っていた。


「はしったー」


 と、シャノンは窓から顔を出し、両手を挙げて風を感じていた。


「ギーチェ」


 シャノンに聞こえないように小声で、アインは聞いた。


「親権の譲渡手続きは問題ないだろうな?」


「譲渡先は両親ともそろっている。落ちる方が難しい」

 

 そうギーチェは答えた。


「よし。先方が気に入れば決まりだな」


 そう口にしたアインを、ギーチェは物言いたげな目で見ていたのだった。


「ばしゃーっ」


 往来を走る馬車の中、シャノンは窓から顔を出し、大声を上げている。


「基幹魔法の権利ライセンスがあれば、子ども一人養うのはわけもないだろう」


 何気なくといった素振りで、ギーチェが切り出す。


 シャノンが聞いていないのを横目で見た後、アインは興味なさげに答えた。


「研究がある」


「懐いてるだろうに」


「シャノンは魔力持ちだ。無学位の親じゃ、才能があっても悲惨なもんだぜ」


「貴様のようにか?」


 答えず、アインはただ無言で見返した。


「誰だって、立派な親がいい。そうすれば、昨日のような目にあうこともない」



   § § §



 庭園のある邸宅に馬車はたどり着いた。


「おはなたくさんー」


 花畑に目を輝かせているシャノンに、アインは視線を向けた。


「シャノン」


 アインはしゃがみ込み、シャノンと目線を合わせて真剣な顔つきで言った。


「ここがマミーの家だ。今日からオマエの家になる」


 シャノンはその空気を読み取ったか、首をかしげ、聞いた。


「ぱぱもくらす?」


「新しいパパがいる。オレと違って立派なパパだ」


「……」


 僅かに唇を噛み、シャノンは口を開く。


「……たまにあそぶかな……?」


「次の研究は何百年かかるかわからない。オマエは馬鹿じゃない。理解できるな?」


 そうアインは彼女に言い聞かせた。


「シャノンかしこい。できる」


 と、シャノンは父親の期待に応えるように拳を握った。


「マミーはギーチェの親戚だ。オマエの条件とは少し違うが、立派な人だ。これから会わせるが、挨拶はしっかりしろ。それと、いい子にするんだ。約束できるな?」


「あい!」


 元気よくシャノンは返事をした。


「よし」


 と、アインは彼女の頭を撫でる。


 今日は聞きわけがいいな、と彼は思った。



   § § §



 邸宅の中に入った三人を出迎えたのは、品の良い老婦人だった。


「いらっしゃい。あなたがシャノンちゃんね。可愛いわ」


 シャノンは手を突き出し、指を五本たてた。


「シャノン、5さいっ。きょうからおせわします。よろしくですっ」


 アインの言いつけ通り、シャノンは元気よく挨拶する。


 言っていることは多少おかしかったが、老婦人はにっこりと笑った。


「元気がいいのね。わたしはメリルよ。よろしくね。中に入ってちょうだい。おいしいお菓子があるの。いろいろお話ししましょう」


「あい!」


 メリルはシャノンを邸宅へ招き入れる。


 アインがほっと胸を撫で下ろしていると、メリルが振り向く。品良く笑い、彼女は会釈をした。



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