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騎士物語  作者: 田中
ダントス村の一件
7/7

6話 結末

上手くまとめるのは難しいです

「リース、どっちだ。」

「こっち!!かなり近いわ!」


ファラン達が森の奥へ進んでから間を置かず、リースが魔術の発動を感知していた。

魔術が発動されたとなると戦闘が行われている可能性が高いと判断し、現在リースの案内をもとに進んでいた。


「お出ましだぞ!!」

「ちっ、こんな時に…いや阻んでいるのか!!」


走る彼らの目の前に、小鬼や森狼、森猿などと呼ばれる様々な魔獣が立ちふさがる。


「一瞬で片づけるぞ!!」


ファランの号令と共に‘‘赤豹の爪痕’’は魔獣の群れへと攻め入った。


「切り裂く烈風!!」


リースの声と共に小鬼達が刻まれる。


「ふんっ!!!」


アイクが大剣を薙ぎ払う度、まとめて森狼が吹き飛ばされる。


「どいてもらおう!!」


そしてファランが、その‘‘爪剣’’を振るってすべての魔獣は沈黙した。

数十もの魔獣がいたにも関わらず、ほんの数秒でその場を制圧したのであった。


「よし、急ぐぞ。」


そうファランが言った直後、大きな音が森に響いた。


ズドオオオオン


「木が…!」

「こっちか!!」


彼らはすぐさま駆けだしていく。辿り着いた場所でファラン達は驚愕した。


「こ、これは…。」


そこで目にしたのは激しい戦闘跡だった。

なぎ倒された木、窪んだ大地。

そして血まみれで横たわる少年と、両断された灰色の狼型の魔獣の死体。


「リースすぐに治療を!!」


ファラン達は少年に駆け寄った。腹に大穴が空いている。


「これは…、生きているのか…?」

「なんてひどい怪我…こんなの、助かるの…?」

「まだ息はある!いいから早くしろ!!!」


リースはすぐさま魔術による治療を始める。


「アイク!いるぞ!!」


続けざまにファランが叫んだ。アイクは反射的に剣を構えた。

ファランの視線の先には巨大な深紅の豹がいた。


「あいつが‘‘統率者’’か。」


ファランは一目見たときに次元が違う、と思ってしまった。

見るものを押し潰すような圧倒的な気配。その新緑の瞳でファラン達を値踏みする様な視線。

間違いなく彼らよりも強者であった。


「ファラン…これはまずいぞ。多分俺たち全員がいても…。」

「アイク、そんなこと分かっている。だが今引いたらそこの少年に笑われるぞ。」

「…。フッ、確かにそうだな!」


アイクもファランも気づいていた。少年が自らよりも強者に対して立ち向かったことを。

それを知ってしまったからには自分たちが引く訳にはいかないと。

その思いが彼らの折れそうな心を支えたのであった。


「それに、‘‘赤豹’’だぞ、私たちの得物に一番ふさわしいじゃないか!」

「いや、俺らの名前からしたらやられる方がふさわしくないか?」


お互いを鼓舞するように声をかけあう二人。

その間もずっと睨み合いは続いていた。


(どう動くか…)


ファランから汗がしたたり落ちる。軽口をたたいているが、状況を打開する方法は何も浮かんでいない。

こちらの体力だけが消耗し、時間が過ぎていく。


(先に仕掛けるしかない!)


そうファランが思ったとき、事態は動いた。


「ゴオオオォォ!!!」


赤豹が叫んだ。それによって大気が震える。

ファラン達は咄嗟に身構え攻撃に備えた。だが何もすることなく赤豹は森の奥へと戻っていった。

それと同時に周りの草木から魔獣たちが姿を見せ、赤豹に追随するように立ち去って行った。


「囲まれていたのか…」

「ハハ…まったく気が付かなかった。」


それほどまでに赤豹の気配に呑みこまれていたのだった。

今更ながらに彼らは気づく、自分たちが思っていたより更に数段上だったということに。





「何とか峠は越えたわ…。」


リースが疲れ切った声でそう宣言した。


「そうか、良かった…。リースもお疲れ様。」


そう言ってファランはカイトの顔を覗き込む。今は落ち着いた表情で眠っていた。


「もう駄目。あとはよろしく。」


そう言ってリースは倒れこむと静かに寝息を立て始める。彼女もかなり無理をしたようだった。


「さて、状況の整理をしよう。」

「こいつが、あの子たちが言っていた魔獣か…。」

「これは…おそらく変異種だな。まだ若い。」


魔獣の死体を眺め、分析するファラン達。


「にしても、これは本当にこの少年がやったのか…信じられん。」

「ああ、いくら若く戦闘経験の少ない個体だからと言って変異種というのはそう簡単に倒せるものじゃない。」

「確か6歳くらいだろ…冒険者でも石級は当然、鉄級だって苦戦する。しかも複数人で挑んでもだ。本当に信じられん。」


ファランも同じような気持ちであった。

と、そんな複雑な気持ちを抱きながら確認を行っている彼らに声がかけられた。


「お前ら、こんな所で油売ってやがったのか。」


呆れたような顔をしたレックスであった。

しかし、この場の状態を見て真剣な顔つきになる。


「これは…何があったんだよ、一体。」

「レックス、遅かったな。取り敢えず村に戻ろう。説明は移動しながらする。」





「やっぱり‘‘統率者’’が出てきたのか…、それも赤い豹か。んで、この狼をこいつが殺したと。」

「ん?やっぱりとはどういう意味だ?」


まるで知っていたかのような反応をするレックスに疑問を覚えるファラン。


「ああ、お前らがあまりにも遅いからよ、昨日仕掛けた罠を確認しに行ったんだが全部壊されていたんだよ。確実に意図的な行動だったからな、出て来てるだろうなと思ったわけだ。」

「成程な、確かに他の魔獣ではそんな行動をする意味はないだろうな。」


罠を壊したのは赤豹による警告でもあるのだろう。彼らの行動は赤豹にとっては掌の上だったということだ。

その意味合いを感じ取り、彼らは短い溜息を吐いた。


「それよりも、本当なんだろうな?この坊主が魔獣を殺したことは。」

「実際には見ていないからな断定はできない。だが状況からしてほぼ間違いないだろう。」

「そうか…クク、面白れぇガキだな。今のうちに唾でもつけとくか?」


笑いながらレックスは言った。それを聞いたアイクも笑みを浮かべ同調する。


「確かにそれもいいかもしれんな。この少年は将来一角の人物になるだろう。」


そんな二人を見ながらファランも笑っていた。


「何にせよ彼の行動で助かった命がある。ということはだ、それ相応報酬が必要になるだろう。」

「そうだな、じゃあこういうのはどうだ?俺らの初討伐の時はその魔獣の———」


多少の悪乗り感はあったが、取り敢えず彼らの今後の行動が一つ決まったのであった。





(…俺は、どうなった?)


気づくとカイトは薄暗く、広い草原に居た。漆黒の空から絶え間なく雷が降り注ぎ続けている。


(確か、腹に穴を…あの灰狼はどうなった?というか、ここはどこだ?)


次々に疑問が浮かんでくるが、それを解決できる情報は其処では得られそうになかった。

周囲を見渡しても暗い草原が広がり続けるばかり。

カイトは立ち上がり周囲を探索しようとした。が、


ズガアアアアン


「うわっ!!」


目の前に雷が落ちた。


(びっくりしたな…。ん?何だ…)


カイトはその周囲の状況に強烈な違和感を覚えた。


(雷が直撃したはずの場所に痕がない)


そう、雷によって破壊された痕が全くないのである。


(俺自身が影響を受けないのはわかるが…いやまてよ、何か前にもこんなことあったような…)


『久しぶりだな。カイト』

「え?」


頭の中に深く響く、その声がしたと同時にカイトの目の前に大きな影が差しこんだ。


(黄金の…鳥?)


そこに居たのは雷を纏う巨大な鳳。

黄金に輝くその壮麗な姿に見惚れていたカイトだったが、同時に記憶の底から湧き上がるものがあった。


「お前は…あの時の。」

『私に向かって‘‘お前’’か…。ふふ、相変わらずだな。』


怪訝な顔をするカイトとは対照的に、鳳は楽しそうに笑う。


「お前が出てきたってことは、俺は気を失ってるのか。」

『ああ、理解が早くて助かる。だが久しぶりに会ったのだ、もう少し会話を楽しもうではないか。』


鳳はそんなことを言った。カイトは溜息を付きながら周囲を見渡す。


「どうせ付き合わないと解放されないんだろ?この空間からは。」

『さすがはカイト。またしても正解だ。』

「しょうがないか…まあ、聞きたいこともいくつかあるし付き合うよ。」


カイトは自分に言い聞かせるように言って会話に応じることにした。


「じゃあまず、なんで俺と話しできてるの?というかなんで俺を呼べたんだ?契約もしてないし、現実でも今接触しているわけではないだろ?」

『私を精霊と一緒にするな。お互いを縛り合わねばならぬような、そういった低い次元の話ではない。あの時に私とお前は交わった。そしてお前に資格があったのだ。この縁は切り離せんよ。』


理由なんてそれだけだ、と鳳は答えた。カイトはあまり納得できていなかったが、もう答える様子もなかったので次の質問へ移る。


「今回はお前がここに呼んだんだろ?これは一方通行なのか?」

『なんだ、本当は私と話がしたかったのか!可愛いやつだな!』


カイトの言葉に鳳が興奮し翼を広げる。辺りに風が吹き荒れる。

影響を受けることはないとは言え、カイトが遂、身構えるほどの迫力で会った。


「で、どうなんだよ。」

『ああすまんすまん、興奮してしまった。』


身構えながらもカイトが再度問いかけると、鳳は声を弾ませながら謝罪した後、その疑問に答える。


『お前の力が至った時、それは自然とできるようになる。』


鳳は、今までとは打って変わった厳かな声でそう言った。そして続けて言う。


『私はその時を待っているぞ、カイト。』





それからカイトがいくつか質問した後、促すように言った。


「で、そろそろいいだろ。本題に入ってくれ。なんか聞きたいことでもあるんだろ?」

『察しがいいな。そのような所も気に入っている。』

「はいはい、ありがとう。で、なんだよ?」


そう聞くと、鳳がカイトを真っ直ぐ見つめてから口を開く。


『何故、使わなかった。魔術師と修練はしていたのだろう?』


カイトは少し黙った後、にやりと笑って答える。


「切札だからな。切札っていうのは誰にも知られちゃいけないと俺は思っている。」

『フ、フフフ…アハハハハハ!!成程、そういうことか。』

「そういうことだ。」

『フフッ、確かに切札だな!!それくらいの力はある!だが、お前があの獣に気づいていたとは。』

「あんなもん、気づかない方が無理だろ。」


満足そうに笑った鳳は、ようやくカイトを解放する気になったようだった。


『良い答えが聴けた。お前の信念と在り方は私にとって、とても好ましい。』


カイトの周囲の景色が曖昧になっていく。聞こえていた音も遠ざかる。

そんな中、最後まで鳳の声だけが鮮明に響く。


『また近いうちに会おう。』





「う…。」


カイトの意識が覚醒した。しかし声がうまく出せないようだった。

いや、それどころか体もかなり動きづらい。


(ここは…村の治療場の部屋か…)


無理矢理体を起こし、目に入って来た光景からそう結論するカイト。

自らの体を見ると幾重にも包帯が巻かれておりひどい有様であった。


(まあ、穴空いてたしな…)


むしろ良くこれだけで済んだな。とカイトは思っていた。

しみじみと自分の体の無事を実感していると、外から声がして部屋の扉が開かれた。


「私の見立てだと後一週間くらいかね。それまで様子見さ。」

「ふーむ、そんな軽い傷ではありませんでしたが…。一か月くらいかかりますよ。普通は。」

「まあ、普通はね。だけどさっき言ったようにアイツは———」


ウィジ―と神父が入って来た。どちらも目を見開いて固まった。


「どうも。」


カイトは取り敢えず挨拶した。もう声は出せるようだった。それによって動き出す二人。


「どっちも外れたね。」

「なんでしょう…。言葉が出てきません。」


ウィジーは呆れたように言い、神父は驚きを通り越したようだった。





カイトが倒れてから三日は立っていたようだった。


「異常は無い様だね。」

「驚きですね…。」

「言っただろ、こいつはちょっと異常なんだよ。」

「どうなっているのでしょう?」


ウィジーと神父は好き勝手カイトのことを言いながら治療を続ける。


「二人とも…聞こえてるんですけど。」

「ふん!分かってて言っているんだよ。どれだけ皆に迷惑をかけたか。」

「そうですよ。まあ、ご両親や皆さんがお話しされると思いますから、私達はこれくらいで許してあげようということです。」


反論できないカイト。


「返す言葉もございません。…ウィジーさん、神父様、本当にありがとうございます。」





「さて、治療も一段落しましたので私はご家族に連絡してそのまま帰らせていただきますね。」


そう言った神父は治療場を後にした。

二人になったのでカイトは先ほどの出来事をウィジーに話した。


「そうかい。」

「え、それだけですか?」


カイトが思ったよりも反応が薄いようだった。


「あの方と交わった時点でそういうことが起きてもおかしくはないからね。」

「どういうこと?それにあの方って…」

「もうお前とあの方は一つになったのさ。契約なんて紛い物じゃない。切っても切れないそんな縁を結んだ。生き死にさえも共有した。」


(生き死にも…だからあんなこと聞いてきたのか…)


「でも、なんでそんなことに。」

「お前があの方に選ばれた存在だということだよ。と言いたいが、これくらい深く交わるものはね、一方的にはできないものなんだよ。お前にも心当たりはあるはずだろう?」

「…。」

「まあ、とにかくそう悪いものじゃないってことさ。すぐにわからなくても順にあの方が教えてくれるよ。」


ウィジーがそう言った直後、部屋の扉が勢いよく空いた。


「「にーちゃ!!!!」」


エルトとサーニャがそろってカイトに飛びつく。

続けてリサとエルウィンが入って来た。


「この子はもう、心配かけて…。」


リサは目に涙を浮かべていた。そしてカイトを抱きしめる。


「カイト、無事でよかった。」


言葉ではそう言いつつも、表情は硬いままのエルウィン。


「さてと、積もる話もあるようだから私はここで帰らせてもらおうかね。」


そして気を利かせたウィジーが立ち上がった。


「あ、あんたはしばらく安静にしてなよ。」


思い出したようにそう言い残すとウィジーは帰っていった。

残されたのは家族だけとなり、カイトはしばらく母と弟妹にされるがままになっていた。





「カイト、どうして約束を守れなかった。」


三人が落ち着いた様子を見てエルウィンがカイトに問いかけて来た。


「色々な人に迷惑や心配をかけたのは分かっているか?お前を助けるために夜通し治療してくれたり、毎日見舞いに来てくれたりな。」


カイトはエルウィンの言葉を深く噛み締めるように黙って聞いていた。

エルウィンは、こんなことお前に言うようなことじゃないけどな。と前置きして続ける。


「カイト俺はな、正直なところ他の家の子よりもお前の方が大事なんだ。人としてはもしかしたら失格かもしれない、けど、それでもな、お前が助かるならそっちの方がいい。そう思っている。」


エルウィンは困ったような、泣きそうなような、そんな顔をしながらカイトに語り掛ける。


「だからな。俺たちが親としてのわがままを言うとだな、その、お前を失いたくない、そう思っている人の気持ちも考えてほしい。」


そう言うとエルウィンはカイトを抱きしめた。

カイトにその温かさが伝わる。だからカイトも自らの気持ちを偽りなく伝えた。


「父さん、約束を破ったこと本当にごめん。でも、その行動は反省しないし、悪いとも思ってない。何度言われてもやり続けると思う。俺は自分を裏切ることだけは絶対にできない。」


カイトはエルウィンの目を見て答える。

それを聞き驚き、呆れと表情が変わっていくエルウィンとリサ。そして諦めたようにつぶやいた。


「…はぁ、全くお前は。」

「ふふ、なんでこんな子になっちゃったのかしら。」


カイトは満面の笑みで言う


「ごめん!」

「「アハハ」」


その笑顔につられ弟妹が笑う。


「分かった分かった、好きにしなさい。ただし、死なないことこれが許す条件だ。飲めるな?」

「もちろん!!絶対に守るよ!」


その後、エルウィンたちは帰っていった。弟妹はしばらくごねていたが。

カイトは既に動けるようになっていたが、何かあった時の為、明日まで治療場で過ごすことになった。





翌日にはラニアとアーニャ、そしてレイがお見舞いに訪れていた。三人は必死に、そして競うようにカイトの世話をしようとしていたが、騒がしくしすぎてウィジーさんに追い出されていた。


その後にダントス、そしてユーリ達の両親が来た。

ダントスは、何やら冒険者時代の仲間が来るかもしれないと頭を抱えていた。

お見舞いとは全く関係のない愚痴を言いに来たようだったが、

それが彼なりの気の使い方だったのかもしれない。


ユーリ達の両親はカイトに謝罪と感謝を伝えるため来たようだった。

本人たちも連れてこようとしたようだが逃げられたとのことで、

今日には絶対に連れてくると息巻いていたが、カイトは疲れているとそれを断った。


シュベールもその後で来たようだった。ニヤニヤとしながら、


「面白いのと戦ったようじゃのう。」


とカイトを煽るような言動をした後に帰っていった。帰り際に


「一つ壁を越えたようじゃな。体が回復したときを楽しみにしておけよ。」


と、意味深なことを言っていた。


そして、最後に冒険者‘‘赤豹の爪痕’’がそろって顔を出した。


「元気になったと聞いてな。どんな様子か見に来た。」

「うそ、本当にもう動けるようになってる!どんな体してるの…君。」

「さすがガキの癖に変異種を倒しただけあるぜ。」

「はっはっは!将来性があっていいじゃないか。」


ファラン達は口々にカイトを囃し立てる。

そんな会話の後にカイトが切り出した。


「今回は本当にありがとうございました。あなた方がいなければ僕は死んでいました。」


頭を下げカイトは礼を言った。それを受けファラン達は、


「私達は私達の仕事をしただけだよ。その分の料金は貰っている。」

「むしろ半端な仕事をしたというのが我々の総意だ。」

「かなり油断してたからね。時間も掛けすぎたわ。」


と、何でもないことのように言う。


(叶わないな)


エルウィンにも同じような気持ちを抱いていたことをカイトは苦笑しながら思っていた。

そうそう、と今度はファランが切り出した。


「今回の本題、君が倒した魔獣の素材。」


そう言うと一本の角をカイトに手渡した。


「俺らも掛け合ったんだけどな、ギルドと領主に他はとられちまった。」

「すまないね。まあ、変異種は珍しい、研究に使用されるらしいからしょうがない面もある。」

「いえいえ!!むしろ貰ってもいいんですか?」


カイトは報酬が出るものだと思っていなかったので申し訳なさそうに質問する。


「何言ってんだ、当たり前だろ。お前が倒したんだ。本当は全部お前のもんなんだぜ。」

「俺が…。」


それを見たファランが面白そうにカイトに問いかけた。


「どうした。今更実感したか?」

「そ、そうですね…これを見ていたら、急に。」


皆が微笑ましそうに笑う。


「それでここからは提案なんだが、その角、武器にしてみないか?」

「これを、ですか?」

「ええ、変異種の素材だしいいモノができると思うわ。」


カイトは少し考えた後に言った。


「それは、そうなんでしょうけど。僕にはお金がありませんし。鍛冶屋にも心当たりがありません。」

「そのことに関しては心配しなくてもいい。私達がうまく取り計らおう。」


意外な提案にカイトは驚いた。そして疑問が浮かんだ。


「どうしてそこまでしてくれるんですか…?」

「功労者には報酬を。それは当然のことだからな。それに…。」


ファランはウィンクをしながら言った

「君には恩を売っておいた方がいいと思ったからだ。」





それから数日後にカイトは治療場から出ることを許された。

体が慣れるまでは時間がかかったが、更に日が経った今では違和感はあまりなくなっていた。

それどころか前より体が動かせる、そんな感覚を覚えていた。

カイトが体の調子を確かめるため、畑に行こうとした際声をかけられた。


「おい!」


カイトが振り向いた先にはユーリが居た。


「あ、あ…。」

「なんか用か?」


そう言うと黙って下を向くユーリ。


「用がないならもう行くぞ。」


背を向けてカイトが歩き出そうとすると、


「ごめん!!ありがとう!!」


大声でユーリが言った。カイトが手を挙げて答えそのまま歩き出すと、更に続けて言われた。


「だけどお前には絶対負けん!!ラニアを振り向かせる!!!」


思わぬ言葉にカイトは振り向いたが、遠ざかっていくユーリの背中しか見えなかった。


「なんだ、アイツ?」


ユーリが勇気を出した言葉であったがカイトには届いていなかったのであった。


余談だが後日シュウとケニーも同じように謝りに来たのであった。





更にその数日後、ファラン達がカイトを訪ねてきた。


「この前の約束のものだ。受け取ってくれ。」

「これは…すごい。」

「私たちが世話になっている鍛冶師だ。見ての通り腕は一級品だ。」


ファランに渡されたのはナイフだった。白い刀身が光を浴び輝く。


「大事にしてやってくれ。」

「分かりました。本当にありがとうございます。」


満足そうにファランは頷いた。そして付け足すように言った。


「私達は今日でこの村を出る予定だ。だから一応挨拶も兼ねている。」

「え、そうなんですか。ではあの赤豹は?まさか倒したのですか!?」


ファランが驚いたように目を見開く。


「君は…本当に期待を上回ってくる子だね、気づいていたのかい。」

「いや、そんなことより!」

「あれは今の私達では倒せないよ。」

「ではなぜ…?」

「奴はこの周辺から完全に姿を消した。隠れていることもないだろう。どうしてかは私達にもよくわからん。」





その日の夕方、村の入り口に人が集まっていた。ファラン達を送るためだ。

皆が思い思い挨拶をしている中、カイトは少し離れたところから見ていた。

するとそれに気づいたファラン達が寄ってくる。


「おお、元気になったようだな!!」

「傷は…残っちゃったみたいね。ごめんね、私の力不足だったわ。」

「いえいえ!とんでもない!!本当に感謝しています。色々お世話になりました。」


カイトが頭を下げる。


「頭をあげてくれカイト君。言っただろ君には恩を売ったんだよ。」

「それは聞きましたが…正直徳なんてありませんよ?」

「ははは!今はそうだな。」

「でもね、カイト君。私達は君が将来大きく名を揚げると思っているわ。」

「そうだぜ、だから大きくなった時に回収させてもらおうってことだ。」





そのやり取りの後彼らは村を出発していった。


『カイト君!また会おう!!』


村を出る際にそう言ったファランの声がカイトに印象深く残った。




ファラン達が去った後、カイトは思っていた。


(俺はまだまだ未熟だ)


死にかけたこと、心配をかけたこと。迷惑をかけたこと。それらがカイトの心に飛来している。


(心配とは無縁の強さを身に着ける)


カイトはこの一件を通してまた一つ決意したのであった。

次話は別視点やってみます。

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