5話 初陣
少し続きます
「会ったって言っても僕はすぐ分かれたから知りませんよ。」
「うーん、やはりそうか…。ユーリ達は何か言ってたりしなかったか?」
「いや、特に思い当たりませんね。」
その言葉に一緒に来ていた男女、ユーリ達の両親は肩を落とした。
「そんな、一体どこに行ったんだ…。」
「どうすればいいんだ…今は例の件もあるし…。」
動揺する親達、それを見ていたエルウィンが提案した。
「冒険者の方を頼ってみましょう。こういったことは彼らが本職ですから。」
「なるほど、良い意見だ。すぐに向かおう。」
ダントスがすぐさま冒険者たちの住居に向かった。
「父さん、僕も探してみるよ、放っておくことはできない。」
「駄目だ、お前は家にいなさい。」
「最後に会ったのは僕でしょ?探させてください。お願いします。」
「…。」
エルウィンは一瞬だがカイトに気圧された。その目が真っ直ぐとこちらを捉える様が、彼が昔、強大な魔獣を相手にしたときと同様であったからだ。
「フ―…、探すだけだぞ、何か気が付いたらすぐに連絡しろ。」
「わかった、ありがとう父さん。」
エルウィンは頷くと、自らも捜索に加わるためこの場から離れていった。この時彼は例えカイトが多少優れていたとしても子供のやることだ、と考えていた。
しかし、カイトには先天的に備わっていた。目がいいという能力が。そしてそれを生かせる思考力が。それらが合わさり少しの変化さえも見逃すことはない。
(これは…、入った形跡があるな。)
カイトが見つけたのは村の外れの小屋だった。それはユーリ達が話をしていた場所。
やはりというべきか、カイトは父エルウィンの考えを超え真っ先に手がかりを発見したのであった。
(村の中は父さんたちが探しているはず、となると…。)
カイトが森に目を向けた。と同時に ウオオォォォン と遠吠えが聞こえた。
(これは魔獣か!!だとしたら一刻を争う!父さん、ごめん。)
カイトは一瞬も躊躇わず走り出した。闇夜に包まれた森の方向へと。
「村の中はすべて探しましたが…見つかっていません。」
「そうか…。となると状況は最悪だと考えてよさそうだな。」
エルウィンが捜索の報告を受けているとそこにダントスと冒険者が到着した。
「すみません、夜遅くに申し訳ないです。」
「いえ、緊急事態ですから。村の中にはいなかったようですね。」
‘‘赤豹の爪痕’’のファランがこの場を見渡して状況を把握する。
「となると…森、ですか。」
「ええ、ファランさんのおっしゃる通りだと思われます。」
「まずいな…今森には‘‘統率者’’がいるんだろうが。」
ファランが目を閉じる。そして仲間たちに向かって言った。
「前倒しにする。今から開始だ。」
その言葉に3人は頷いた。
「大丈夫なのですか?」
「依頼の件の目星が立ったので準備はしてあります。何より今すぐ動かないと子供たちが危険だ。」
あと——とファランは言葉を続ける。
「それが我々の仕事ですので。」
ファラン達が動き出したとき、森の方向から耳障りな鳴き声が聞こえてきた。
「まずいな、多分小鬼どもが得物を発見した。急ぐぞ!!」
ユーリ達は走っていた。息が苦しい、足がちぎれそうだ、そんな思いはとうに通り過ぎていた。
ただひたすらに逃げていた。
「うわああああああ!!」
「たすけてよおお!父さん!!母さん!!」
「なんで、なんでだよ!!」
後悔しか彼らの中にはなかった。あの後、彼らは森に入った。強さを見せつけるために小鬼を倒してそれを証拠にするつもりだったのだ。
「小鬼ならすぐ倒せるって言ってたのに!!」
「いいから走れ!!」
「ユーリが言ったんじゃないか!!」
「だって父さんが言ってたんだ!!!」
確かに小鬼は魔獣の中では最弱の部類に存在する。しかしそれは子供でも勝てるといった意味にはならない。
彼らはまだ小さな少年だ。大人が言った言葉を同列として受け止めてはならないことをも分かっていなかったのだ。今現在逃げられているのはただ小鬼達に遊ばれているだけなのである。
「誰か助けて!!」
グギャギャ というような小鬼達の鳴き声が後ろから近づいてきた、差は確実に縮まってきている。
焦りと不安、そして疲労から遂にユーリが転倒した。先頭を走るユーリが転倒したことにより後ろの二人が折り重なるように転倒する。
「何やってんだよ!!ユーリ!!」
「はやく、はやく逃げよう!!」
ユーリが走り出そうと顔をあげたとき周囲は既に小鬼に囲まれていた。
絶望が少年たちを支配する。
「わあああああああ!!」
「うええええええええん!!」
泣き叫ぶ二人とは対照的にユーリは諦めた。そして後悔した。
小鬼の振り下ろす棍棒が迫る。ユーリの目からは涙がこぼれ、自然と胸の内に言葉が生まれた。
(ごめんなさい)
バキィ と大きな音がした。ユーリがいつまで待っても衝撃が来ない。少しづつ目を開けるとそこには
ゴブリンの死体が転がっているのと、一人の少年の背中が見えた。
森に入って程ない場所でカイトはユーリ達を見つけた。三匹の小鬼に囲まれているようだった。
(間に合う)
そう思った瞬間体を動かす。
バキィ 小鬼を殴りつけ、ユーリに振り下ろされる棍棒を間一髪のところで阻止する。そして地面に倒れた小鬼の頭を間髪入れずに踏み砕いた。
(残り二匹)
仲間を殺された小鬼が激昂する。左右から二匹同時に襲い掛かってきた。しかしカイトには全て見えている。
(右が少し速いか)
タイミングの把握、そして左側の小鬼をまず対処するとカイトは決めた。右の棍棒をよけながら左の小鬼の腹を殴った。左の棍棒がカイトに届く前に小鬼が飛ぶ。そして殴った勢いを殺さず回転し残った小鬼に蹴りを放った。
横にくの字になった小鬼が周囲の木に激突した。どちらの小鬼も気絶したようだ。
(確実に仕留めておく)
小鬼が持っていた棍棒を拾い上げ頭をつぶす。そして周囲を見渡すカイト。小鬼の死体以外に目を引くものは、木の根元に刺さる材質も判断つかないような錆び付いた剣。
(この出来損ないの棍棒だけでは危険だな。一応持って行こう)
カイトはその剣を周辺に生えた植物の蔦を使い体に括り付けた。そしてユーリ達に声をかける。
「立てるか?早く出るぞ。」
ユーリ達は頷くことしかできなかった。一方のカイトは森を歩きながら考えていた。
(さっきのは明らかに小鬼ではなかった)
カイトが森へ入る際に聞こえたのは遠吠え、それは小鬼が発するものではない。
(奴らは下っ端か!となると…。)
そう思ったとき道の先に灰色の狼魔獣がいた。
(こいつか…)
明らかに先ほどの小鬼の数段上の気配。カイトは覚悟した。
「お前ら、俺が合図をしたらこのまま真っ直ぐ走れ。そうしたら森を抜けられる。」
「で、でもあの狼がいるよ!」
「俺が何とかする。信じて止まらず走り抜けてくれ。」
静寂が流れる、彼らはカイトに何かを感じたようだった。そして言った。
「わかった。」
じりじりと睨み合うカイトと灰狼。ユーリ達も息を止めたような苦しさを感じていた。空気が張り詰め緊張が最大に高まった瞬間、風が吹いた。微風とも呼べる弱い風。それにより木の葉が落ちる。葉は少し灰狼の方によりながら落ちていった。そしてその刹那。灰狼が意識を木の葉に散らす。
「走れえええええ!」
カイトは叫んだ瞬間飛び出していた。ユーリ達もカイトから少し遅れて飛び出す。そして魔獣も伊庭を向いて飛び出した。魔獣が狙うのは弱い個体。すぐに得物にありつきたかったのだろう、面倒なことは後回しにするようだった。しかしカイトはそれを分かっていた。すでに魔獣とユーリ達がつながる線を切るように動いていた。
「ハァッ!!」
小鬼が持っていた棍棒で灰狼の牙を防ぐ、棍棒は貫かれるが、牙は食い込んだままとなり動きを制限した。
そして灰狼の顎を思い切り殴りつけ吹っ飛ばす。衝撃で棍棒が噛み砕かれ、制限が解除される。しかし、灰狼の意識は飛びそうになっているのが分かる。
その隙にユーリ達は完全に灰狼の射程外に逃げられたようだった。
(ひとまず作戦成功か)
そう考えている間に灰狼の意識がはっきりとしたらしい。ギラリと闇夜に輝く赤い目は、カイトを得物ではなく敵と認識したようだった。
「夜の森は何回来てもおっかねえな。」
「軽口を叩くなレックス、敵地だぞ。」
現在ファラン達は森にいた。子供たちの痕跡を探しながらここまで来たが中々見つけることができない。
「少し時間が経ちすぎたかしらね…。」
「小鬼共は得物を前にして遊ぶ。少しは猶予があるだろう。」
「だが‘‘統率者’’がいるとなるとその可能性はかなり低くなる。」
沈黙が流れる。その時、彼らの前方から何か音が近づいてきた。音からして複数。
戦闘態勢に入る四人。空気が張り詰め緊張が高まる。そして木々の隙間からそれらは飛び出した。
「「「うわあああああああ!!」」」
ファランは抜いた刃を目の前で停止させた。
「君たち、無事だったのか!!」
それはユーリ達であった。
「魔獣…じゃない…冒険者の姉ちゃんたち!!」
「た、助かったのか…助かったのか!!」
「よかったあああ、うわああああん!!」
ファラン達もひとまず安堵した。
「本当に良かった。レックス、この子たちを村まで頼む。」
「分かった。くれぐれも先走んじゃねえぞファラン。」
「ああ、分かっている。私だって死にたくはない。例の地点で落ち合おう。」
「おい、ガキどもついてこい。」
レックスが先導しようと歩き出すが、ユーリ達は動かない。
「どうかしたの?動けない?」
リースは恐慌状態にあるのでは、と思い優しく問いかける。
しかし帰ってきた言葉は彼らが予想していないものであった。
「カイトが、カイトが襲われているんです!!僕たちを助けて…それで…。」
震える声でユーリ達は森の中での出来事を話した。
「では、カイト君が囮になって君たちを逃がしたということか。」
「おいおい、子供三人だけじゃなかったのかよ!」
「時間が惜しい、行くぞ。レックスは予定通り頼む。」
その言葉を残すとファランは森の奥へと走り去った。
「おいファラン!!ったく、リース行くぞ。」
「わかってる。レックス、子供たちをよろしくね。」
二人も続けて走り去った。
「お前ら、急ぐぞ。」
今度こそレックスに先導されユーリ達は森を抜けるため動き出した。
カイトと灰狼の睨み合いは続いていた。お互い気を抜けば狩られる、それを分かっているからだ。
膠着状態が続く中、カイトは灰狼を観察し始めた。
(大きな特徴は三つ。灰色の体毛、血のような赤い目、それに額中心からこちらから見て右寄りに一本の角。)
カイトが知る中には当てはまる特徴を持つ狼型の魔獣はいない。しかし引っかかる点があるようだった。
(三つの特徴と大きさを除けば森狼に相当近い)
森狼とはその名の通り森に生息している狼魔獣のことだ。体長は人の成人くらいの大きさで、紺色の体毛に覆われている。一般的には、一匹だとそこまで強くはないが群れで行動することが多く集団になると厄介な魔獣、という認識だ。
(森狼より一回り大きいが…)
そこまで考えたとき、灰狼の体内の魔力が明滅しだしたのをカイトは見た。そして次の瞬間目の前に牙があった。
カイトは即座に前へ飛んだ。周囲に人がいれば自ら喰われに行ったように見えただろうその動きは、灰狼にも予想外であったようだ。
(よし!見える。)
一瞬の動揺によって生じた隙を見逃さず、カイトは牙の隙間を縫って喰らいつきを回避、
そしてその鼻っ柱に裏拳を叩きこんだ。
「ギャオウンッ」
少し後ろに退けはしたが、先程よりも効いていないようであった。灰狼が即座に立ち直る。
(身体強化魔術…!変異種だったか)
変異種とは魔獣の成長や進化した姿と言われている。
上位種と位置付けられることもあり、この個体が統率者になっていくことも多い。
変異種の特徴としては普通種からの肉体の変化、そして魔力の強化がある。
肉体に関しては頑強さ、身体能力の向上。また大きさ、爪、牙などの変化がある。
魔力に関しては魔術の威力が強化されたり、使用できなかった魔術を使用してきたりすることがある。
こういった特徴から普通の魔獣とは段違いに強く、出来るだけ戦わないほうが良いというのが共通の認識となっている。
(次はこっちから行く!)
カイトは腰の剣を引き抜きながら灰狼に向かい走った。
対する灰狼もカイトに向かい真っ直ぐ駆ける。
剣と爪、互いの武器の衝突。
ゴキィィィン
鈍い音が辺りに響いた。衝撃で草葉が舞い上がる。互いに反発し少しの距離が生まれる。
続けざまに灰狼がその牙でカイトの腕を喰い千切ろうと迫る。
カイトは後方に飛びながら、灰狼の顎に向かって真上に蹴りを放った。
灰狼は学習したようで、顎への攻撃を警戒していたようだった。寸前で立ち止まる。
蹴りが鼻先掠めた。
カイトは勢いが残った蹴りを利用しそのまま一回転しまた距離をとる。
そこからまたお互いに走り出し、ぶつかり合う。
(埒が明かない。一手仕掛けるか)
繰り返される中、灰狼はカイトの速度に対応し始めた。
そして、何度目かの激突、になるかと思われたそれはカイトの攻撃が空ぶることで終わりを迎える。
灰狼が攻撃を完璧に避けたのだ。そしてそのままカイトを嚙み砕こうと大牙を剥き出しに飛び掛かる。
カイトの速度を把握した灰狼は勝利を確信していた。
「今っ!!」
その瞬間、カイトの速度が上がった。灰狼の咢は空を嚙み、牙同士が音を鳴らす。
カイトは灰狼の腹の真下に潜り込んでいた。
「ハァッ!!!」
そしてそのまま剣を思い切り突き上げた。思い描くは父の突き技。
ズドン、と重い音がして灰狼が再び吹き飛んだ。
「グゥオンッ」
「くそっ、通らないっ!!」
身体強化を頭打ちだと思いこませ、油断させる。そして不意打ちで強化段階を上げて相手を倒す、これが今回の策であった。今回カイトの仕掛けは完璧に決まっていた。だが失敗した。
相手も無傷ではないが想定通りなら剣が体を貫通していたはずだった。
(あの体毛か、厄介だな。まあ父さんだったら貫通できたろうな…)
カイトは原因を考えながら自らの剣を一瞥する。
(まずいな、剣が…)
身体強化を段階を上げて使用し、尚且つ刃を通さない体毛に覆われた腹を思い切り突き上げた結果、剣が限界を迎える手前まで来てしまった。
(むしろ良く壊れなかったな…。だが次打ち合えばもう駄目だろう。どうするか)
武器でなければ決定打にならない。カイトにもそれは分かっていた。
(最大の一撃で決めるしかない。その為には時間を稼ぐ必要がある)
手立てを探るため敵の現状を確認する。
灰狼視線は剣に集中していた。
先程の攻撃で、軽くはない傷を与えていたようだった。
(骨でも砕けたか?ともかく剣を警戒しているようだな。これは使えるかもしれない)
睨み合いの中カイトが飛び出した。見せつけるように剣を大降りに振りかぶった。
灰狼は一瞬動揺したようだが、すぐさまその動きに対応し回避する。
(戦いの中で成長しているのか…明らかに強くなっている。だがやはり回避に徹したな)
今回カイトはわざと隙の大きい動きで攻撃した。先程までなら灰狼はその隙を突いて反撃してきたはずだが、
余裕をもって回避することを選択したのであった。
(これなら強化の魔力を‘‘溜め’’にまわしてもギリギリ行けそうだな)
だがそれはカイトにとっての賭けであった。身体強化を弱体させることは先ほどの動きに戻るということ。
つまり灰狼にその動きが把握されているということだ。
灰狼が守りに比重を寄せたからと言って、生存確率が跳ね上がるわけでもないのだ。
(戦い方を変える必要がある)
カイトが、だらりと剣を下ろした。構えもない状態だ。だが視線は真っ直ぐ灰狼を見据えている。
それを見た灰狼は警戒しながらもじりじりと間合いを詰める。
「シッ!」
短い吐息と共にカイトが剣による突きを放つ。
それを最小限の動きで回避し、灰狼はそのまま突進してきた。
カイトの踏み込んだ姿勢は普通であれば避けることのできない状態であった。
だがカイトは即座に反転し後ろに下がった。突きに体重を預けていなかったのだ。
灰狼は普段であれば一目見て気づいていただろう。だが剣を警戒するあまりその仕掛けに気が付かなかった。
そしてカイトは向かってくる灰狼の顔面に蹴りを放った。
バキィッ
灰狼の突進の力を上乗せされ大きな衝突音が鳴った。カイトの足に痛みが走る。対して灰狼はダメージが少なかったのだろう、すぐに攻撃を再開した。そこから激しい応酬が始まる。
カイトは灰狼の警戒を最大限に利用し、虚実を織り交ぜた攻撃を繰り出す。型のない獣、先ほどまでとは別人のような動きで戦っていた。
(足がやられたか…。剣を使えない、強化も制限されている。手数を多くしないと圧し負ける)
カイトは父と対峙したあの悪魔の姿を脳裏に浮かべ戦っていた。
それは彼の夢である騎士になって行えば後ろ指をさされるようなそんな戦い方だ。
カイトはそれすらも自らの武器となる、そう考えて修練していたのだ。
だが、灰狼はその動きにも適応しようとしていた。
(駄目だ、修練が足りないか…。やっぱりまだただの猿真似でしかない。もう少しなんだが!)
このままでは準備が整う前に死ぬ、それが分かったカイトは覚悟を決めた。
(勝っても死ぬかもな)
全ての魔力を充填にまわした。当然、身体強化も消失する。
灰狼はその行動に警戒心を高め、間合いを離した。狙いを見るためか牽制の一撃を放つ。
彼にとっては回避される予定の攻撃であった、しかしそれをカイトは避けきれない。
突き出した爪がカイトの右頬を削った。
(だめか…避けきれなくなっている)
好機と見た灰狼は牙を剥き出しカイトに向かって弾けるように飛び出した。
迫りくる咢に対してカイトは動くことができなかった。
(見えているが、体が反応できない!!)
そして牙がカイトの腹を貫いた。
「グハッ。」
腹と口から血が流れる。気を失いそうな痛みの中カイトは灰狼を掴んだ。
「ぐうううう!!」
言葉にならないような唸りをあげ、灰狼の片眼球を潰す。
「グギャオオオオン」
灰狼が頭を振ってカイトを吹き飛ばす。痛みもあるようだったが怒りの感情が彼を支配しているようだった。
そのままカイトを叩き潰そうと一歩踏み出そうとした。
その時、灰狼の体がガクッとふらつきそのまま膝をついた。彼もまたダメージの蓄積があったようだ。
だが、すぐさま立ち上がり一歩ずつカイトへ向かっていく。
一方のカイトは最早立ち上がることすらできない状態に見える。
かなりの量の血が流れ、意識も朦朧としているようだった。
誰が見ても決着かと思う状況でカイトの体に変化が起きた。
「間に合ったか。」
魔力が戻ったのだ。カイトがゆっくりと立ち上がった。
灰狼も歩みを止めその様子を静観していた。
そしてカイトが叫ぶ。
「行くぞ!!!!」
「グオオオオン!!!」
答えるように吠える灰狼。
カイトは痛みを無視して剣を振り上げ疾走する。
灰狼も正面から迎え撃つようだ。唸りを上げて突進する。
交差する瞬間、カイトはすべての魔力を解放した。
思い描くのは彼の大騎士の一閃。
「ぐがあああああああ!!!!」
全霊の一撃を灰狼に叩き込んだ。
ズドオオオオン
剣を振りぬいてから少し遅れて音が鳴る。木が倒れたようだった。
カイトが血を吐き倒れこむ。
そして灰狼は両断された。