4話 歴史と魔術
説明回になっちゃいました。
「えー、こうして魔王が討伐され勇者ファルナは魔の進行から人を救ったのです。そしてファルナは初代ファルナ帝国皇帝となり、現在のファルナ神国の基礎になったと伝わっています。ただ魔獣が活発な領域、所謂‘‘魔領域’’は各地に現存していまして———」
今日は歴史の講義であった。内容は勇者ファルナについて。いつもなら騒がしい子供たちも勇者の話とあっては聞き入っているようだった。と思ったのも束の間、一人の少年が手を挙げた。
「はい、はーい!!爺先生!!!そこに聖騎士が行って魔獣をやっつけているんだよね!!」
「はい。よく勉強していますねシュウくん。その通りです。」
ファルナ神国‘‘七聖騎士’’。かつて勇者と共に戦った七人の戦士は王となったファルナを傍らで支えた。いつからか彼らは聖騎士と呼ばれ始め、それが現代まで受け継がれている。由緒正しいその称号に冠する数はいつしか他国でも、使われ始め権威付けに使用されることも多い。帝国もそういった国のひとつであり、‘‘七剣’’という称号の礎にもなっている。
「先生、帝国の‘‘七剣’’とどっちの方がつよいの?」
「ふーむ、それは難しい話ですね。」
「ケニー、そんなもん‘‘七剣’’の方が強いに決まってる!」
「でも聖騎士だぜ、いっぱい魔物倒してるじゃん。」
結局子供たちが騒ぎ始める。この手の話題はどちらかというと男子の方が盛り上がっているようだった。
カイトも心情的には七剣派に回って話したかったが、普段の様子から察して無理だと考え黙っていた。
話がどんどん脱線していき、しまいには誰が一番強いかの話になった。
「バルトーク王国にだって‘‘伍彩将’’がいる。黄金の槍姫とか。」
「さすがユーリ、女好きだなー。」
「ち、違う!!そういうことじゃない!!!」
騒がしさが増していく中、ラニアがカイトに問いかけた。
「カイト君は誰が一番強いと思うの?」
「強い…か、うーん、ヤマト皇国の‘‘大将軍’’とかじゃないか?シュベールさんが言ってたし。」
「ヤマト皇国?ふーん、そんな国あるんだ。私はねー、金等級冒険者のコル———」
ラニアが話し出そうとした時、ゴホン、と老神父が咳払いし少し静かになる。そしてそれを合図に話し始めた。
「誰が一番強いかはわかりませんが、私が今まであった中で一番強い、と思った方でいいならお話しできますよ。聞きたいですか?聞きたい人はお静かに。」
皆が一斉に黙った。カイトはうまいな、と思いながらも自分も興味があったので口を閉じた。
「私は神父としての修行の中様々な国の将軍様、騎士様、冒険者様にお会いさせていただきました。その中で最もすごかったと思ったのが冒険者‘‘ジオレス・ハイド’’殿です。」
ジオレス・ハイドとは現在いる6人の金等級冒険者の内の1人であり、武力で金等級になったと噂される冒険者だ。‘‘不敗のジオレス’’の名は子供から老人まで知らぬ者はいないと言われている。
(神父様が冒険者の名前を出すなんて意外だな。)
とカイトが思っている間にも話は続く。
「あれはまだ私が若き日、他宗教の教えを学ぶことで見聞を広げよう、とレニア教国に向かっておりました。しかし教国に向かうためにはヨーグ共和国に連なるガステト山を越えなければいけなかったのです。ガステト山は吹雪が止むことのない危険な山。地元の人たちには反対されました。まあ、今考えれば当然のことです。ですが私は若かった。念入りに準備をした後、忠告を無視して山越えを行ったのです。」
皆が神父の意外な過去に驚きながらも、話に耳を傾けている。
「吹雪の中、山を歩いていた私は道に迷ってしまいました。当然ですね。いくら準備しても万端になることが無いような天候ですから。このままだと凍死してしまう、と思ったとき運よく洞窟が見つけたのです。あぁ…違いますね、運悪く、でした。」
大半が疑問符を浮かべる。凍死を防げるのだから運よくであっているだろう、と。
それに対する答えが神父の口から語られる。
「なぜならばその洞窟は竜種の住処だったのですよ。」
竜種は生物の中で最強と定義されている生き物だ。出会ったら命はない太古の昔より、そう言い伝えられている。
「純白の、大きな、それはもう大きな竜でした。私が見つけたときは眠っていたのですが、逃げようとしたとき音を立ててしまったのですよ。そうしたらすぐに気づかれて…。」
いつの間にか誰一人としておしゃべりをする者はいなくなった。
「あの時の光景は今でも鮮明に覚えています。竜の咢から放たれる白銀の光線、もう死んだ、と思いましたね。ですが、裏腹に最後の時はやって来ませんでした。ジオレス殿が私の目の前に降り立ったのです。彼は向かってくる白銀に持っていた大剣を一振り薙ぎました、するとそれは、そのまま反転し竜の元へと帰っていったのです。すさまじい轟音が響く中、竜は飛び去りました。」
すげぇ…。その光景を想像したのだろう、誰かの口から言葉が漏れる。カイトも同じ気持ちであった。
「その後雪崩も起きたのですが、それも剣一本で対処しておられました。まあ、このようなことがあったので、多少贔屓目にはなりますが、私はジオレス殿が強いのではないかと思いますね。」
神父が話し終わった後、一瞬の静寂を置いて教室中が歓声に包まれる。
「ジオレスすげえええええ!!!」
「冒険者も悪くないな…。」
「俺、冒険者になろうかなぁ。」
「カイト君、一緒に冒険者ならない?」
皆の中の冒険者株が上がったようだった。実際カイトも、いつか見てみたい、などと思っていた。
「さて、そんなジオレス殿のような強い方が昔にもいたのを知っていますか?」
「え、そうなのかよ!!教えてよ爺先生!」
「ふふ、わかりました。それは魔王を倒した戦士の内の一人、アケイロン卿です。彼の戦いに関する逸話は数十にも及ぶといわれていまして、特に野盗千人斬りは———」
(話戻すのうますぎる…)
カイトの余韻は一瞬で消え去り、感心と苦笑いだけが残った。
授業が終わり、帰宅の準備をしているとラニアに声をかけられた。
「カイト君、魔術のことで質問したいから先生のところ一緒に行かない?」
「え、俺?なんで?」
「いーじゃん。暇でしょどうせ。あ、…もしかしてレイと遊ぶの…?」
ラニアが不安そうな、それでいて悲しそうな顔をした。
「いや、そんな予定はないけど。」
「じゃあ決まりね!!行こう!!多分神父様のところにいるはず!」
一転、嬉しそうな顔をするラニア。カイトはラニアに引き連れられて行った。
そしてそれを見ている子供たちがいた。
「ラニアの奴、またあいつと一緒だ。」
「…。」
「どうしたのよ?ユーリ、怖い顔してるよ?」
「何でもない!!!」
神父の部屋に着いたカイトとラニアだったが肝心のリースの姿が見当たらなかった。
「神父様、リース先生はいないんですか?」
「リースさんかい?今日はお仕事だそうで、すぐに帰られましたよ。」
神父の言葉にラニアは露骨にがっかりとした顔をした。
それを見た神父はおかしそうに笑いながらラニアに問いかけた。
「何か聞きたかったのですか?」
「うん…、どうやったら魔法で火とかを出せるようになるのかなって…。」
現在の魔術の講義でリースが教えていることは魔術発動前の基礎知識にあたる、
講義は説明や地味な訓練が大半を占めており、物語のような魔術にはまだまだ程遠い段階だ。
ラニアには魔術に対する憧れが人一倍あった。基礎の部分とは言え魔術というものを実際に体験したことにより、
魔術というものが物語の中だけではないことを認識してしまったようだった。
「ふむ、そうですね…。発動の基礎部分であれば少し教えてさしあげられますよ。」
どうですか?、と神父がラニアに尋ねる。
「ほんとっ!?教えて神父様!!」
「良かったな、ラニア。」
うん!と元気に返事をするラニアを眺めながらカイトは、
「じゃあ、僕はこれで。」
「え!カイト帰っちゃうの?何で…。」
「いや、僕は聞きたいこと別にないし…。」
「いえ、折角です。カイト君も聞いていきなさい。生徒は多い方が私も嬉しいですから。」
時折見せる、神父の逃れられそうにない圧力を感じたカイトは渋々話を聞いていくことにした。
「ラニアさん、魔術というものはどんなものを想像しますか?」
「火を手から出したりする!!」
「そうですね。でもラニアさんがリース先生に習っているものも魔術なのですよ。」
「体の中ぐるぐるする奴?何も出てないのに?」
「そうです。それも魔術なのです。ただラニアさんの言っているものとは種類が違うのです。」
「種類?」
「魔術には体の中でおこるものと、体の外でおこるものがあるのですよ。それぞれ蓄積と放出と呼ばれています。」
神父は子供用にかみ砕いて説明しているようであった。それでも6歳には難しい内容となっているのはこの神父の癖のようなものであるのか。
「ラニアさんが言っている魔術は体の外でおこる、つまり放出魔術です。これを使うには少し条件があるのです。」
神父の説明を受けながらカイトはウィジーに習ったことを思い出していた。
『放出の魔術は蓄積の魔術に比べて少し面倒なものになっている。』
『面倒?』
『ああ。まず使用できるようになる為に体外からの刺激が必要となってくる。そしてこれにより使用できる属性が決まる。』
『へー、じゃあ火の魔術を使いたかったら炎に触ればいいってこと?』
『そうだ。そしてその刺激の強さで発動できる魔術の大きさが決まる。』
『え、じゃあ日常生活ですぐ決まっちゃうんじゃないの?』
『刺激が魔力と結びつけばな。本人の保有する魔力量が多いほど小さな刺激では決まらない。』
『じゃあ、ある程度は好きに決められるってことか。』
『いや、そうとも限らない。そこに本人と属性の相性があるからだ。』
『相性?』
『属性と本人の相性、それが良ければ多少の刺激では目覚めないが、悪ければ少しの刺激でも目覚める。これに関しては運がすべてとなると思って良い。』
『でも、そこまでわかってるならある程度予想はできるようになってないの?例えば親が相性のいい属性だったら子供もそれを受け継いでいるとかさ。』
『魔力の種類が同じ生物なんていない。人によって得手不得手が決まっている。遺伝も多少は影響するがその情報を活用できるのは一部の特権階級だけだ。しかしそれも絶対ではない。つまり予想などできはしない。』
『そっか…。あ、でも相性が悪くても大きい刺激を受ければ強い魔術が使えるんじゃないの?』
『お前は荒れ狂う炎の中に飛び込み、焼かれ、それでも生きている自信はあるのかい?』
『…ないです。』
『つまりそういうことだよ。ただ…属性との相性が良いと大きい刺激でも生き残れる。』
『結局一か八かじゃないか!!』
『だからそういっているだろう。まったく…。』
そこまで思い返したとき、神父がカイトに質問を投げかけてきた。
「カイト君、聞いていますか?」
「え?はい聞いていますよ。」
何食わぬ顔をして答えるカイト。
「では魔術を使うために必要なこととは?」
「体外からの刺激と自身の魔力、そして属性との相性。これらの大きさで魔術師としての能力の高さが決まります。そしてそれはほとんど運次第、ということです。」
「ふむ、120点です。私の教えたことより多くの答えが出てきました。どこで学んだかは気になりますが素晴らしい知識です。」
神父が満足そうにカイトを褒める。ラニアもキラキラした顔でカイトを見ていた。そしてカイトは失敗した、と苦笑いしたのであった。
神父の講義を聴き終えたカイトとラニア。カイトが今日はどうしようか、と思っているとラニアが話しかけてきた。
「カイト君、今日予定ある?」
「え?特にないよ。今何しようか考えてたところだったし。」
「じゃ、じゃあ久しぶりに一緒に遊ばない?」
「…。それはやめといたほうがいい。またあいつらに何か言われるぞ。」
「いいよそんなの!!私が遊びたいの!!!」
カイトが言い切る直前に、被せるような形でラニアが叫ぶ。
「わ、わかった。遊ぼう。」
予想よりはるかに大きな声量だったこともあり、思わずカイトは返事をしていた。
「やった!じゃあまずは夫婦ごっこからだね!」
「なんだそりゃ。それは楽しいのか?」
「うん!後、お母さんも会いたがってたし私の家にも行こう!」
「いや、昨日も畑で会ったけど…。」
最高に機嫌がよくなったラニアを見ながら、カイトは疑問符を浮かべていた。
ラニアとしばらく遊んだ後、二人はラニアの家に向かっていた。
「ラニア、やっぱり迷惑じゃないかな?こんな急に。ほら、俺の家も夕飯の準備してるだろうし。」
「さっきお母さんに行ったから大丈夫!カイトのお母さんにも伝えてもらったし!」
「そ、そうか。いつの間に…。」
他愛ない話をしながら歩いていると、急に道がふさがれる。
「おい!!お前いい加減ラニアに付きまとうのやめろ!!」
カイトに向かって放たれた言葉。村のユーリという少年からだった。
ユーリの他にも何人か子供たちが一緒にいる。
「そうだそうだ!!いっつも偉そうにしやがって!」
「生意気なやつだな!」
シュウとケニーという少年も続く、日頃からカイトに対して不満を持っていたのだろう。
そもそも最初の内はこの少年たちとカイトは一緒に遊んだりしていたのだが、少年たちがカイトを追い出したのだ。カイトは同年代の少年の中ではとびぬけて頭が良かった。それにより大人たちに頼りにされることも多かったからか少年たちは嫉妬してしまったのだ。
「ちょっと、やめなさいよ!」
一緒にいたアーニャという少女が止めに入る。
それがさらに気に食わなかったのだろう、少年たちの悪口は加熱していく。
「アーニャ!何で庇う!!…あぁ、もしかしてこいつのこと好きなのか!!」
「女に守られて情けねぇやつ!!」
少年たちの笑い声が響く、アーニャは俯いて黙ってしまった。涙をこらえているようだった。
「違う!!私がカイト君と遊びたかっただけだもん!!ユーリ達には関係ない!」
「何で、何でこんなやつ!!こっち来いよ!」
こういった状態になるとカイトはすぐその場を離れるようにしている、しかし、今回はラニアにしっかりと手を握られていることによりその手を振り払うわけにもいかず、離脱が不可能な状態となっていた。
「やだっ!!あっち行ってよ!!ユーリなんてもう嫌い!!」
「くそっ!!なんでだ!!いいから来いっ!」
遂にユーリが痺れを切らして無理矢理ラニアの手を掴もうとする。
だがそれを阻む手が横から伸び、彼の手を掴んだ。
「それはやりすぎだろ。」
それは静かな声だったが、言い争うどんな声よりも少年たちは圧力を感じた。周囲が静まり返る。
「っ!」
ユーリは手を振り払ったが自然と一歩後ろに引いていた。圧力もその理由だが、今まで取ったことのない反抗的な行動をカイトがとったことに驚いたのだ。思ったよりもかなり強い力で握られたからかユーリ手に痺れが残っているようだった。
「男らしくない、出直して来いよ。」
「…くそっ!」
「覚えとけよ!」
捨て台詞を残して少年たちは踵を返した。
「ラニア大丈夫か?」
「う、うん。…カイト君ありがとう。」
少し頬を染めながらラニアは言った。
「…アーニャ、これからラニアの家に行くけど一緒に行かないか?嫌じゃなかったらだけど。」
いいか?とカイトはラニアに確認した。
「うん!アーニャちゃん一緒に遊ぼうよ!!」
「え…でも私、カイト君にひどいこと…。」
「アーニャがやったんじゃないだろ。ほら、行こうぜ、…俺の家じゃないけど。」
「あはは!うん!」
アーニャに笑顔が戻ると、3人でラニアの家に向かってった。
一方カイトから逃げ出したユーリ達は村にある小さな小屋に集まっていた。
「クソッ、クソ!」
「どうするユーリ、アーニャまであっち行っちゃたし。」
「チクショー、あいつ強そうだったな。」
「強いからラニアもついて行ってんじゃないか?もしかしたら無理矢理…。」
「そうか、俺たちがやられると思って…。」
「っ!そうかっ!!じゃあ俺たちが強いことを見せつければ…。」
まだ子供であるユーリ達は自分たちに都合のいいように解釈していく。
「でもよユーリ、また同じようになるぞ。ラニア達の前でやると。」
「脅されてるならアイツがいないときに証拠を見せればいい。」
そう言ったユーリは森の方向を見ていた。
後にこの行動が大きな問題となって村に襲い掛かってくることも知らずに。
「カイト君、アーニャちゃんまた着て頂戴ね。」
「タニアさん、ごちそうさまでした。おいしかったです。」
「ありがとうございました。」
ラニアの家で夕飯をごちそうになったカイトとアーニャは、夕方になったので帰宅しようとしていた。
「カイト君、アーニャちゃんまた明日ね!」
「うん!また明日!」
ラニアとアーニャは今日でさらに仲良くなったようだった。
「タニアさん、この間の岩鹿おいしかったです。ケヴィンさんにもよろしくお伝えください。」
「あらあら、わざわざご丁寧に。ありがとね。」
カイトがお礼を言ってくる様子を微笑ましそうにを見るタニア。
「じゃあな、ラニア。」
「うん、カイト君もまた明日。」
ラニアが手を振って見送ってくれた。帰り道、アーニャはカイトに話しかけた。
「カイト君、今日はありがとう。とっても楽しかった。」
「別に何もしてないよ。俺も楽しかったしな。」
その言葉にアーニャはクスッと笑った。
「今度は私の家で遊ぼうよ。お母さんにも言っておくから。」
「いいのか?面倒くさいことになるぞ、俺といると。」
「アハハ!ユーリ達のこと?いいのそんなの。」
「…そうか、じゃあ行こうかな。」
「うん!楽しみにしてて。」
そして、お互いの家の方向に別れた。じゃあね、と言って少し歩いたときアーニャがカイトに向かって言った。
「今日はすごくかっこよかった!!ラニアちゃんには負けないから覚悟してて!!」
「??お、おう!」
カイトは返事をしたが意味はいまいち分かっていなかった。アーニャはそれを分かっていながらも楽しそうに走って帰っていった。
「おおっ、カイトお帰り。」
「爺ちゃん!!爺ちゃんこそ帰ってたんだ!!お帰り。」
カイトが帰宅すると祖父のマートンが久々に村に帰ってきていたのだった。
マートンは考古学者であり遺跡調査を主とした仕事についている。
今はカイトの弟妹にもみくちゃにされているが
「じーちゃ、これとこれもって。」
「じーちゃ、こっち向いてこれ見て。」
「おうおう、ちょっと待ってな。今カイトと話しとるかなの。」
「はいはい、エルトもサーニャもこっち来なさい。」
リサが気を利かせて弟妹を引き取り寝室に連れて行った。
「今回の遺跡はどうだった?なんかすごいの見つけた?」
カイトはマートンの遺跡調査の話を聞くのが大好きだった。様々な発見をしているマートンは優秀な学者として界隈には名が通っており、危険な遺跡にも呼ばれることが多い。そんなマートンの調査はいつもちょっとした冒険譚よりも刺激がある話が多いのだ。
「うむ、今回もすごかったぞ。深海につながる遺跡であったのだが、その昔に人が住んでいた形跡があってな・・・。歴史書が書き換わるかもしれん。途中番人とも呼べるような巨大な鰐の魔獣に出くわしたことで更に重要な建造物の可能性も高くなった。」
「大丈夫だったの!?」
「今ここに儂がいること、それが答えじゃ。今回は‘‘白騎士’’殿も護衛についてくれたしの。それはともかく今回発見したお宝は、蒼の宝玉と言われている古代の魔法具でな———」
しばらくマートンと話したカイト、まだ話し足りなかったが時間も時間になったので寝室に向かった。
今、マートンはエルウィンと話している。最近は少し慣れてきたがカイトも修練のせいでひどく疲れていたので眠りに落ちようとしていた。その瞬間、家の扉が叩かれる。
「誰だ。」
エルヴィンが問いかけると扉の向こうから声が返ってきた。
「すまん。エルウィン俺だ。ダントスだ。」
エルヴィンは扉を開ける。すると外にはダントス以外にも6人の男女が立っていた。
「ユーリ達が帰ってきていないらしい、今日カイトと一緒にいたと聞いたから少し話を聞きたくて来た。」
様々な要因が重なり、ここから村での一件は始まったのであった。