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騎士物語  作者: 田中
プロローグ
1/7

0話 忠国の騎士

初投稿、お手柔らかにお願いします。

「早く逃げろ!もうここは危険だ!!」


 誰かの叫ぶ声がする。その声を聴きながら僕は母親の顔を見た。


「大丈夫だからね。あなたは大丈夫。」


 叫ぶ声とは対照的に母親は静かに、そして僕に言い聞かせるように語り掛けた。

 その顔は笑っているようで笑っていない。

 幼いながらも、いや幼いからこそ、その表情に含まれた奥の感情を汲み取れたのかもしれない。

 とにかく、それで状況は理解できた。


「火だ!火矢が打たれたぞ!」


 その声と同時に周囲に火の手が上がる。

(家が燃えている…)

 ぼんやりとそう思ったとき、母親が僕の手を引いて走り出した。


「いやあああ!!やめてえええ!!」

「クハハハハハ!!お前らぁ!!全部奪ってやれ!」


 背後から叫び声が聞こえてくる。そして粗野な笑い声も。しかし母は歯を食いしばりながらも逃げ続ける。


「いたぞ、獲物だ。」

 唐突にその逃走劇は終わりを迎えた。二人の男が目の前に現れたからだ。

 母だけなら逃げられたかもしれない。僕はそう思った。


「上玉だな。貰っちまうか。」

「馬鹿言え、殺されちまうぞ。」


 確かにな、そういって二人の男は笑いあった。


「だがガキはいらねえな、殺しちまえ」


 男の言葉を受け母は僕に覆いかぶさった。

 母越しに男たちが見える。男が持つ剣が振り下ろされる瞬間が鮮明に焼き付く。

 まるで時間が止まりそうになったかのように、ゆっくりと。

(母は殺さないような言い方だったのにな)

 僕はふとそう思ったが、もう一人の男が母を引き剝がそう腕を掴んだのを見て納得した。

(僕はここで死ぬのか。)

 母が放り投げられる。剣が迫る。しかし、僕は何故か冷静だった。

(ここまで遅いなら避けられるかも。)

 そう思った瞬間。僕の体は半歩分右に動いていた。


 ガキィン


「あぁ…?」

「お前何やってんだよ、ガキだからって手ぇ抜きすぎだろ。」


 剣が大地を叩く音に男たちが答える

(避けられた…。)

 だが二度目はないだろう。僕はへたり込んだ、体が動かなかったのだ。


「たく、手間かけさせんなよ。死ねや!!」


 再び剣が振り下ろされる。今度は見えるだけだ。母が悲痛な叫びをあげている。


「させん!!」


 パンッ


 剣が弾かれた。そして馴染みのある優しい声がした。


「もう大丈夫だ。少し待っていてくれ。」

「あなたっ!」


 父だ。父が来てくれた。


「道を空けてくる。」


 父はそう言って男達に向かっていった。その間に母が駆け寄ってくる。


「良かった…、本当に。」


 怪我はしてないか?大丈夫か、といった母の言葉を聞きながらも僕の意識は父と男達に向いていた。


「クソっ!なんでこんなやつが!!」


 男達と父の剣が斬り結ばれる。二対一なのに男達は防戦一方に見える。

(父には未来が見えるのか。)

 そう思うくらい綺麗に男達の剣を捌いており、こんな状況であるにもかかわらず僕は父の剣技に見惚れてしまっていた。細かい技や技術など幼い僕には理解できない。しかし、父の剣と男たちの剣の違いは僕には何となく理解できた。

(父の剣には芯がある。)

 言葉で表現するのは難しい。ただただ感覚的にそう思っただけだ。まるで長い時間をかけて積み上げられたものそういった部分が見えるような気がした。


「グギャアアアアア」

「グハッ」


 決着がついた。父が男達を斬り捨てる。


「リサ、カイト、無事でよかった。」

「あなたこそ。」


 父が母と僕を抱きしめる。母は嬉しそうにしている。もちろん僕も嬉しいし安堵した。

 しかし同時に恥ずかしさや悔しさといったものが込み上げてきた。

 僕がもっと強ければ母にあんな顔をさせなかったのではないかと。

 今はたまたま父が来てくれただけだ。僕には守り切れなかった、自分さえも。

 そういった思いが胸中に渦巻いた。


「こっちにみんなが避難している、さあ行こう。」


 父の案内に従い歩く。道中何人もの死体があった。見たことがある人もいるし、攻め入ってきた男達もいた。

 家は荒らされ、焼かれ、家畜は皆死んでいた。幼い僕には世界はここだけ。この世の終わりのような光景に見えた。


「エルウィン!無事だったか!!で、どうだった!?」


 避難場所に付くと一人の老人が飛び出してきた。


「父さん、この通り無事さ。」

「おお…、本当に良かった…本当に。」


 僕の祖父であるマートンだ。祖父は母と僕を抱きしめ、無事を喜んでいた。

 そこに大柄な男近づいてきた。


「良かったな、エルウィン。」

「ダントス!帰っていたのか!で、状況はどうだった。」

「ああ、こっちでみんな待ってる。情報を共有しよう。」


 僕と母、祖父も父についていく。

 避難場所は阿鼻叫喚の状態であった。


「娘は!!私の娘は何処っ!!!」

「うえええ~ん、お父さん起きてよお。」

「あいつら!!絶対に許せねえ!俺がぶっ殺してやる!!!」


 人々の間を通り抜けると、開けた場所に出た。何人かの大人たちが話し合っている。


「おおっ、エルウィン帰ってきたか!早速でスマンが状況を教えてくれ。」


 大人の一人が父に問いかける。


「状況はかなり悪い、賊たちの数が多すぎる。今すぐにでもここから移動するべきだ。」

「俺もそれに賛成だ、相手には魔法使いもいた。」


 ダントスさんの言葉に動揺が広がる。


「魔法使いか…では悠長にしてられんな。」

「よし、すぐに移動の準備を始」


 ドオオオンッ


 誰かが言葉を言い終わる前に衝撃と爆音が邪魔をした。

 そして、悪魔が来た。


「よおし、いい感じに集まってんなぁ。クハハハハハ!!」


 僕でも一目見て分かった。これまでの男とは違う。身にまとう雰囲気が、立ち振る舞いが、大勢の男を引き連れて歩くその姿が。右目の縦傷、赤い瞳、腰にある二本の剣、僕の目には悪魔のように見えた。


「ちまちま追いかけて殺るのもめんどくせぇからよ、いい感じに泳がせてやったらこんなもんだ。」


 な、お前ら、と連れた男達に語りかける。ギャハハハハ、と下品な笑い声が続く。

 父たちの顔を見ればわかる、劣勢だと。だが、父に諦める選択はなかった。


「ここは俺が食い止める。隙を見て離脱しろ。」


 小声で父が語り掛ける。そして悪魔に向かって言った。


「最近ここ近辺の村を襲っていたのはお前だな、グレンデル・イシュロン。」

「へぇ、俺のこと知ってんのかい。こんな辺境にまで届くとは俺も有名になったもんだなぁ。」

「抜かせ賞金首!!山猿どもの上に立ってお山の大将気取りか。」


 父の言葉に賊達が殺気立つ。


「あぁ…?ま、いいか。それより俺の部下どもを殺ったのはおまえだな。」

「だとしたら…どうする。」

「やっぱりか!こんなところに騎士剣術の使い手がいるとはねぇ!!退屈しのぎにちょうどいいな。おいお前ら、こいつは俺が一人でやる。手ぇ出すなよ。」


 父と悪魔が剣を構える。空気が張り詰め呼吸を忘れる。誰もが二人に意識を取られた瞬間父が叫んだ。


「走れええええええ!!!!」


 それは父が僕たちに発した言葉。賊達の間隙をついた会心の一手。賊も、僕たちも、誰もが成功したと思った一手。あの悪魔以外は。


「打て。」


 ドオオオオオンッ


 爆破音、先ほどよりも大きな音。人が焼け焦げる匂いがあたりを包む。

 逃げ道の先、フードを被った人がそこにいた。


「バレバレなんだよ。さあ、これで逃げられねえな。全力でやるしかねえな。」


 悪魔は笑いながらそう言った。

 その瞬間、父が悪魔に走り出す。悪魔も父に走り出した。


 キィィィン


 父と悪魔が激突した。音が、衝撃があたりに走る。そこから始まったのは常人には理解できぬ斬り合いだった。

 父の剣は隙なく相手の剣を弾き、そして技を返す。無駄をそぎ落とし、動きを最短にし、間隙を繰り出す。

 一方で悪魔の剣は獣のようだ。変則的な動き、足技、目潰し、見せかけなども利用し父を翻弄にかかる。

 双剣を巧みに操り、手数の多さで圧倒する。認めたくはないが、僕は悪魔の剣にも芯を感じた。


 何度目かの衝突。悪魔の剣が大きく弾かれる。父が大きく踏み込んだ。


「秘儀、雷光。」


 それは、ただの突き。しかし、僕が今まで見た技の中で一番速かった。大きな衝撃があたりを包む。


「これで、全部か?」


 悪魔の声がした。

 そして父が切り捨てられた。


「あなたぁぁぁぁ!!!」


 母が駆け寄る、皆は逃げ出す、そして悪魔から号令がかかる。


「よし、満足した。皆殺しだ。」


 ウオオオオオオ


 不快な叫びが木霊する。賊達が向かってくる。

(やっぱり死ぬのか)

 現実感が無い。色んなことがありすぎて僕の心が付いて来られていないのかもしれない。

 他人事のようにそう考えたとき、世界がズレた。

 音がやんだ。賊達の動きが止まった。そして賊達の上半身が地に落ちた。


「ほう、一人残ったか。」


 深い声が響く。包み込むようでいて、圧し潰すようでもある声。騎士甲冑を纏った壮年の男がいた。


「な、なんでてめえがここに…。」


 悪魔の顔に初めての動揺が生まれる。


「貴様のような奴がいるからだな。」


 その答えを聞いた瞬間、悪魔は背を向けて逃げ出した。先ほどまでの余裕が嘘だったかのように、必死の形相で走り出す。


「もう遅い。」


 悪魔が縦に両断された。声すら上げることなく。僕には何も視えなかった。


「皆、もう大丈夫だ。賊はこのガーランド・マクシミリアンが屠った。」


 皆の声がさざ波のように広がっていき、やがて歓声に変わった。僕たちは助かったのだ。

 しかし、僕は助かったことよりも大きな興奮を覚えていた。

(体が熱い。心臓が高鳴る。)

 あの人はいったい何者なんだ。知りたい。そういった感情が支配していたのだ。

 だから僕はその人に話しかけた。


「あの、おじさんは?」

「ん?なんだ坊主。私のことが知りたいのか?私はグレイフィア帝国の騎士だぞ。と、言っても小さいからわからんか。」


 わはは、と彼は笑った。


「騎士って何ですか?」

「ほう、興味あるか。というか私の言ったことを理解するか、賢いな坊主。」


 ワシャワシャと僕の頭を撫でる。


「騎士とは国を守るもの。民を守るもの。そして国に忠義をささげるもの。」


 その言葉は僕の心に深く刻み込まれたように思った。


「僕も騎士になれますか?」


 気が付くとそう聞いていた。そして彼は小さく笑うとその疑問に答えてくれた。


「それは君が決められることだ。」


 これが僕の原点。一番古い記憶。グレイフィア帝国七剣が一人、ガーランド・マクシミリアンとの出会い。


ハーレムはまだ先です

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