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最終話 崩落

 階段をのぼりきろうとした時、不意に声が聞こえた。

「独りは怖いよ」

母の震えた声。

「――おかあ、さん?」


 思わず振り返った瞬間、階段がバラバラと崩れだした。

 足場を失った体は前方に大きく(かし)ぐ。

 何もかもがやけにスローで動いてる様に感じられて。


 階段の欠片の間から、少年の薄く笑みを湛えた顔が見える。

 何で、笑って……


 そのまま、あたしは意識を失った。



 ――セミの声が聞こえる。

 目が覚めると、あたしはあの神社の狐に供えられた、大量の彼岸花に埋もれていた。

 空は昼間の色をしている。

 立ち上がって周りを見たけど、もう少年は居ない。


 少しの間、あたしはそのまま立ち尽くしていた。

 意識を失う直前、リビングで泣いている母の姿が脳裏によぎった気がする。

 残像がこびりついて離れない。


「あ、電話」

そこで初めて、自分の携帯がさっきからずっと鳴っていた事に気付いた。

 ディスプレイには『母』の表示。


「もしもし」

『菜月ちゃん?』

「お母さん?」

『今からお母さんもおばあちゃんの家に行くから』

「へ」

突然の言葉に思わず聞き返す。

『菜月ちゃんが狐に連れて行かれちゃう夢を見たの』

「なんだぁ、ただの夢じゃん」

少しどきっとしたのを隠して、私は笑って言った。

『うん……。でもね、それでお母さん反省したの。今まで菜月ちゃんとゆっくり話す事なんてなかったなって。これじゃあ連れて行かれても文句言えないじゃない。だからこの機会に色々話したいの』

「そうだね。あたしも色々話したい」

『うん、じゃあ、また後で』


 ああ、こんなに簡単な事だったんだ。

 ただ話し合えばいい、それだけの事。

 目頭が、少し熱い。

 今夜は三人で沢山喋ろう。


 あたしは夏の暑い日差しを体に受けながら、玉砂利を蹴散らして神社を後にした。

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