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僕は長篇が書けない  作者: 友里 一
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あくる日。俺はその日、講義を一つも取っていないし、昨日なんだか気疲れしてしまっ

たので、昼近くまで寝て回復してやろうと目論でいたが失敗に終わった。

部屋が騒がしくて、眠っていられなかったのだ。

どうしたことかと思って、目を開いて、部屋を見回すと、四~五人の女の子が俺の部屋

で騒いでいる。どうやら酒盛りをしているらしかった。

俺は泡を食って飛び起きた。

「なに!? なんなのアンタら!? 他人の部屋で!」

その内の一人が狼狽する俺に言う。

「他人って……知らない仲でもないでしょうに」

「はいィ!?」

そう言われてよーく見てみると確かに見覚えがある。いや! 見覚えがあるというより

は……。

「愛恵さん!? 『ブレイベスト』の!」

「正解でーす!」

俺の昔書いた小説の登場人物だった。書き損ったと言った方が正確かもしれないが。

他の女子達もそうだ。中坊の時に書いたやつから、最近だと半年以内に書いて途中で放

り投げたやつも居る。

俺は、つまみの豆をポリポリかじっている革命剣姫R・Dさんを見つけて聞いた。

「どゆこと? ねえどゆこと?」

「私だってタマには女子会の一つや二つやりたくなりま~す」

口調も表情もだらしない。既にだいぶ出来あがっている。こんなカミさんは初めて見

た。

「たまにはって……。一つや、二つって……これ初めてじゃないの?」

あまり呑んでいないらしい愛恵さんに振り返って尋ねた。「まあ……月一くらいカナ?」

若干目が泳いでいる。

「ホントに? ねえ! ホントに?」

「うーん。月に二、三回、かも……」

「ほぼ隔週じゃねえか! どーりで酒の減り方がおかしいと思ったよ!」

冷静に考えれば自分の小説の登場人物が自分ちで勝手に宅呑みを催しているというのは

大事なのだが、俺にとってはそれより、なけなしの金で揃えた酒が理不尽に減ることの方

が由々しき問題だった。

大方イマジナリ―フレンドなんだろうし。

そして、彼女らがイマジナリ―フレンドなのだとすれば消費された酒は味も酔いも覚え

てないけど俺の腹に収まっていることになる。

味も酔いも楽しんでいないのに肝臓にダメージだけは残して。

俺は頭が痛かった。呑んだ覚えはないけど呑んだ酒或いは現在進行形で呑んでいる酒の

せいかもしれない。

「やめてくれよ……SHIMAM○T○先生も自分のキャラでこういうことするのは薄っぺらい

ことだって H○E ペンで言ってたじゃんかよー……」

「いいじゃん、薄っぺらいんだから」

俺の椅子に腰掛けたボーイッシュな女子が言う。誰かと思ったらこいつはアレだ。アイ

デアだけ練って結局書き始めなかった小説の子だ。

しかしどうしてこう俺の周りには口撃力の高いやつしかおらんのか。

「まあまあ。いいじゃない。いくら架空の存在で、実際に動いてるのは巻島くんの体とは

言えいつも文句も言わずに家事からなにからやってくれてるのよ」

愛恵が俺をなだめる。

「その通りだ! その通りだが、せめて言っておいて欲しかった!」

「あなたは自慰行為に及ぶ時一々R・D ちゃんに報告してるの?」

「してない!」

それ言われるとまあ。弱いですね。

しかし自慰をまだ知らない時に作成したキャラにあっさりそういうこと言われると何か

凹むね!

まあ色々反論できなくはないが、それを愛恵相手にやっても無駄だ。作者であっても議

論口論で、愛恵に勝つことはできない。俺は彼女をそのように描いた。

そんなことを言っている内に、革命剣姫 R・D さんは寝入ってしまっていた。

隣に座っていた小柄な少女が毛布を掛けてやる。若葉だ。こいつは半年前に止まって進

んでない小説のヒロインの予定だ。予定というのはこいつが登場する前に止まってしまっ

たからである。ここに居る面々を見ていると罪悪感がすごい。

「でも妬けちゃうな」

「んん? なにが?」

「R・D ちゃんが女子会開くのっていいことがあった時だけよ?」

「今回は何かい?『赤ひげ』が良かったとかそういう?」

「違うわ。巻島くんの小説が褒められたって。あんなにはしゃいでるとこ、初めて見た

わ」

「それは俺も見たかったけど俺、別に褒められてはないと思うぞ」

クロガネセブンのパート以外はまあマシ、みたいな意見を最大限に好意的に解釈したら

そうなるのだろうが。

「巻島くんが帰ってから褒めてたんだってさ」

「ほんとかよ……」あんなリアクションでなあ。確かに革命剣姫 R・D さんが帰ってくるのは遅かったとい

うのはあるが……。

「一番初めにこの女子会開いたのはなんの時か解る?」

「さあて」

「私たちが『総力勇者戦フルブレイブ』に出られるって決まった時よ」

俺は言葉を失った。

そうなのだ。彼女らは、俺が終わらせられなかった物語の登場人物であると同時に『総

力勇者戦フルブレイブ』の登場人物でもある。

石川賢先生の『虚無戦記』とか。水島新司先生の『大甲子園』みたいなスターシステム

を採用したわけである。

大御所のだとファンサービスだが、俺のは完全に自分のケジメをつけるのと、架空の連

中への贖罪みたいなもんで、完全に自己満足になる筈だった。もちろん面白くはするが。

「R・D ちゃん、優しいから。自分は出ないのに喜んでくれて」

「へえ」

「この会開くと最終的にいつもあの作品の話になるわ」

――私が一番、楽しみにしていますから――いつか、彼女はそう言った。

「ありがとうね。覚えていてくれて」

「いや、俺が謝ることはあっても礼を言われるようなことはしてないよ」

思えば、この娘も俺の未熟さと願望充足のために作中で随分イビツな人物になってしま

っていた。今こうして常識的な話ができるのは、再登場時にだいぶ練り直したのが幸いし

たかもしれない。

そういうことも含めて俺はケリをつけたいし、彼女らもそれを望んでくれている訳だ。

「頑張るよ、俺。ちゃんと面白くできるか自信ねえけど。とにかく完結はさせるわ」

「そういう情けないところ、変わってないのね」

愛恵の口撃力まで上がってんのかよ……。救いはないのか、救いは!

俺は頭がくらくらしてきた。

「出来れば、ちゃんと面白くしてね」

その台詞を聞いたあたりで俺はブっ倒れた。どうやらクラクラしていたのは、愛恵みの

口撃のせいではなく、呑んだ覚えはないけど確実に摂取していたアルコールのせいらしか

った。

ブッ倒れたのだから悪酔いしていたのだと思うが、不思議と悪い夢は見なかった。

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