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僕は長篇が書けない  作者: 友里 一
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それから、俺と三日月は顔を合わす度に二言三言、言葉を交わす程度の中にはなった

が、打ち解けてはいなかった。相変わらず学食で鉢合わせたら三日月は隣に座ってきた

が。

プイキュラの件で俺は警戒心を解いてはいたが、あまりソリは合わないと感じたのだ。

言葉を飾らずに言えば、馬鹿にされてはいない、とは思わなくなったものの、逆に俺が

三日月のことをコイツお馬鹿なんじゃないのか、と思い始めたのである。

感情がすぐ表に出る上、その感情があまりに素直だったからである。

三日月が村上龍や村上春樹など、俺が好きな作家を同じ様に愛読していることはこの間

に解ったが、あまり深く追求したりすることはなかった。

そんな感じで一ヶ月が過ぎた頃、部の親睦カラオケ大会が開催されることになった。

カラオケボックスで割り当てられた部屋に入るや否や、三日月が選曲リモコンを掴んで

言った。

「俺いちばーん、で異論ないスかー?」

「遠慮しないなキミ、他に一番歌いたい人居ない?」

当時の部長の問い掛けに、手を上げる者は居らず、三日月は嬉しげに、一曲目を入力し

た。

その曲が『超人戦隊Z-MENのテーマ』だった。

テレビに曲タイトルと、『超人戦隊 Z-MEN』のキービジュアル的スチル写真が写し出

され、続いて本編総集編映像が再生される。

連動してスピーカーから例の熱いイントロ……ただ我武者羅に熱いのではなく、これか

ら何か凄いことが始まることを予感させる……そんな希望に満ちた熱さを感じさせるイン

トロが流れ始めた。

三日月が歌い始め、俺は一番は我慢したものの、二番は許可も取らずに勝手に二本目の

マイクを取って歌い始めてしまった。

歌い終わった俺は正しく完全燃焼といった具合で足腰立たなかった。

こんなに気持ちよく歌ったのは、人生でも初めてのことだった。

普通俺はカラオケ行ったら歌いまくるクチだったが、その日は結局一曲も入れなかっ

た。

そんな状態の俺を残しながらもカラオケ大会は滞りなく進行していた。

終わる頃には、何とか歩けるくらいには回復していたが、やはり足元はおぼつかないま

ま、二次会的な流れで近所のうどん屋さんについて行くことになった。

そのうどん屋さんでも三日月は当然のように俺の隣に座った。

「先輩も好きなんですね『Z-MEN』」

「お前も? 観たん?」「今観てるんスよねー。先輩が特撮好きって聞いたんで、評価高かったし懐かしかったし

で」

そう言って、三日月はうどんを啜った。

「へー。俺も今観てるけど、行きつけのビデオ屋さんで四巻から借りられてて続きまだ観

れてないんよねー」

三日月は噎せて、啜っていたうどんをお冷で飲み下した。

「先輩どこのビデオ屋行ってます」

「ユナステだけど」

ユナステは近所というには少々距離のあるマイナー店だが、品揃え、価格、サービス、

どれを取っても優良店だった。

「何巻が借りられてたって言いました?」

「四巻からだけども……まさか……」

「俺っスね」

「お前かよ……もう観た?」

「まだっス」

「お前んち行って一緒に見ていい? 料金半分もつから」

「急っスね……いいけど」

この時俺は金欠気味だった。部のイベントには顔を出したが、三日月と仲良くなれる自

信はあんまりなかったが、DVD のレンタル料金さえ折半したいくらいだった。

うどんを食べたお陰か、その場で流れ解散する頃には、完全に元気になっていた。

体は元気になったし、全力で歌ったことによるハイテンションが続いていたのもあって

三日月のマンションまで着いてくことにした。

たどり着いた三日月んちにお邪魔すると、入った途端にベッドで寝ている女の子が目に

入って俺は大層面食らった。

「お前彼女連れこんでるんなら OK するんじゃねえよ!!」

「え? いや、彼女っていうか……見えるんスか?」

「見えるも何もお前……」

俺はそこで、眠っている女の子をまじまじと見てみる。

どっかで見覚えがあると思ったらゲームの登場人物で、俺は余計に面食らった。

「サーベルさんじゃないですか君」

「まあ、そうと言えばそうなんスけど……」

あとの流れはキャプテン・ミッケの時とそう大差ない。

「巻島さん、彼女、私と同属です」

急に、革命剣姫 R・D さんが出てきて助け船を出してくれたのだ。

「はえー。居るとこには居るもんっスねー」

「ほんとにねえ」

それから四人で『超人戦隊 Z-MEN』を鑑賞したり、OP を毎回全力で歌ったり、応援し

たり、その流れで飯に行ったりしてる内にマブダチになった訳である。

「ちょっと仲良くなる過程で『超人戦隊 Z-MEN』の比率が大きすぎる気しますね!」

彩澄くんが呆れて言った。

「名作やけん。しゃーない」

「あれはいいものですからね」

「ねー」ここまで革命剣姫 R・D さんと意見が合うのは珍しい。それくらい POWER のある作品と

いうことになる。

「ミッケも『Z-MEN』観てみたいですにゃ!」

「キャプテン・ミッケ。何故略したんです?」

キャプテン・ミッケには初体験となる革命剣姫 R・D さんの氷の声。

「にゃ!?」

キャプテン・ミッケが竦みあがるので俺は助け船を出す。

「正式名称でお呼びしてさしあげろ」

「『超人戦隊 Z-MEN』観てみたいですにゃ!」

「よろしい。ういやつです。よしよしいいこいいこ」

革命剣姫 R・D さんがキャプテン・ミッケを抱きかかえる。

一瞬前まで竦みあがっていたキャプテン・ミッケは既に上機嫌だ。

「にゃ!」

立ち直りはええな……。

「ていうか、毎回歌ってたんですか? オープニングテーマ」

「そうだな……。あの頃の特撮は初回だからとか最終回だからとかで、OP キャンセルし

なかったから四十七回は歌ったことになるな」

「あのテンションで?」

「あのテンションで。毎回」

「はえー……」

「とにかく先輩と三日月先輩の尋常ではない絆は解りました。先輩が他人の内で自慰行為

に及んでころされなかったのもそれで納得がいきます! 処置なしというのは撤回しまし

ょう!」

「でしょうとも」

「ドヤ顔はしないで下さい! それでも先輩がトンデモないことをした事実は変わりあり

ません」

「そうでした」

「処置なしでなくなったということは何か良い方法があるということですか?」

革命剣姫 R・D さんが、キャプテン・ミッケをモフりながら聞いた。

「はい! まず今から三日月先輩をここに呼びます!」

ありがたい! やはり彩澄くんに相談して正解だったぜ。

「ほうほうそれでそれで」

「三日月先輩がここに来ます!」

「まあそうなるわな」

「ですんで三日月先輩に謝って下さい!」

「策でもなんでもねえ。策でもなんでもねーよおおおお!!!!」

俺は頭を抱えた。

革命剣姫 R・D さんはキャプテン・ミッケをモフる手を全く休めずに澄まし顔をしてい

る。前に言ったかもしれないが、これは他の人のドヤ顔に相当する表情である。

「いえ。よく考えてみて下さい。先輩、三日月先輩とあの後会ってないんですよね? 三

日月先輩が話してくれるっていう確証ないですよね? なんなら先輩って情ないから話し

てくれるかどうか確かめる勇気すらないですよね?」

「その通りだ。実は俺は情ない男なんだ」

俺は頭を垂れた。

「だいじょぶですにゃ! それはみんな知ってると思いまうぐ」キャプテン・ミッケがなにか言おうとしたが、途中で革命剣姫R・Dさんが口をふさい

でしまったので、何を言おうとしていたのかは、全然ッ! まったく! 解らなかった。

まあ、革命剣姫R・Dさんが割り込みキャンセルするくらいだろうから、大した話では

ないんだろうがな!

「さて、ここで僕が登場するワケです! 僕がここに呼び出し、先輩がトイレにでも隠れ

てる間、居間に招き入れます」

「ほうほう」

「その後先輩が居間に入ってくれば三日月先輩が口聞いてくれるくれないに関わらず絶対

確実に謝罪できます」

「なるほど。お前さては天才やな!!」

「ははは! それほどでも!」

前にも言ったかもしれないが、この物語に登場する人物は基本的にみんなアホである。

「そうと決まれば!」

「善は急げです!!」

彩澄くんはスマホを取り出し、素早くタップした。

「おお! ちょうど近くに来てるそうです! すぐ来れるそうですよ!」

その言葉が言い終わるか言い終わらないかの内にチャイムが鳴った。

「速過ぎませんか!?」

「じゃあ僕トイレ!」

俺はさっとトイレに身を隠した。

「お邪魔しまース」

「いらっしゃいませ!」

「ちょうど良かった。二本目が上がったから、誰かに見てもらおうと。連絡、これからし

ようと」

三日月が居間に移動しならそんなことを言う。

もう書けたのかよ。はえーよ。

「そ。そうなんですか。へえー」

彩澄くん達がしっかり居間に入ったのをトイレのドアの隙間から確認し、俺はトイレを

出た。

あとはタイミングを見計らうだけだ。

「彩澄くんの方の用事は?」

「それがですね」

「それは私です」

居間の扉を勢いよく開け、俺は飛び込んだ。

着地と同時にダイナミックに土下座をかます。

「こないだは誠に申し訳ありませんでした」

「いや、土下座するほどのことじゃねーし……。いいスよ別に」

ええんかい。やはり三日月は寛容の代名詞的存在であった。

「ほ、本当に良いのかい!? 俺逆の立場だったら多分……」

俺は顔を上げ、こわごわと三日月の表情を確かめた。

声と表情が全然違うなどということはこの世界では日常茶飯事だ。

三日月はケロッとしていた。

「俺も先輩が泊まってる間も普通にオナってましたからね。PC使えないのは不便でした

けども」

「ええ!? でもお前、俺より先に寝て……ああ!」

「先に起きてたでしょ!」「あー、そう言えば半覚醒状態の時に。ティッシュ引き抜く音はするけど鼻かむ音はしね

ーなーって時が何回かあったわ! あれってそういうことだったのね。おかしーなーとは

思ってたけど」

「そういうことッスね」

「そんでお前、禿げるから朝シャンはしないっつってたのに朝シャンしてたのは」

「抜いた後シャワー浴びないとなんか落ち着かないんスよねー」

「なるほどなー。謎が解けた。そういうことなら早く言って頂戴よ―」

「俺の方は気にしてないッスけど、先輩の方が気にしてるかなーって。そういうの気にす

る方でしょ?」

「やさスぃー!!」

どうやらなんもかんも俺の杞憂だったようだ。

「なんなの……なんなのこの人たち……」

彩澄くんは確実にドン引いていた。

「ホンットにしょうがない男達ですよ……!」

「彩澄さんはああなっちゃ駄目ですよ」

カミさん方は呆れていた。

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