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ノンデッド・サクセスライフ  作者: 斗樹 稼多利
7/12

再会からの告白


 涙目のラオヤンとシャンカは、立ち上がったロンレン目掛けて一直線に駆け寄ってしがみつく。


「兄さん! 無事で、無事でなによりですぅっ!」

「お兄ざまぁぁぁぁっ! シャンは、シャンは心配で心配で夜も眠れませんでじだぁっ!」


 人目も憚らず、泣きながらしがみつく二人を受け止めたロンレンは、自分の事で精一杯だったとはいえ、どれだけ弟妹を心配させてしまったのかと悔いた。

 不安でだったであろう二人の頭を撫で、申し訳なさそうに話しかける。


「悪かった。せめて書置でも残しておけばよかったな」

「兄さんは悪くありませぇん! 悪いのは、父親の皮を被ったあのゴミクズですぅっ!」

「ぞうでずぅ! 極悪非道なのは、あの人でなしの金と権力と欲望の亡者でずぅ!」


 自分の親をそこまで言うか。

 ロンレンとドウコクだけではなく、訓練場に残っていた兵士達もそう思った。


「生命神の加護の、どこが悪いっていうんですかぁっ! あのカスはぁっ!」

「ぞうですよぅ! どんな加護であろうと、神様から授かったものを使えないだなんて、何考えてるんでずかあの駄目人間はぁっ!」


 弟妹の言葉遣いの酷さに、どこでそんな言葉を覚えてきたのかとロンレンは不安になる。


「とりあえず落ち着け。そもそも、どうしてここにいるんだ」

「お前がどこへ行ったか知らないかと、放課後に高等学校へ押しかけて来たんだ」


 遅れたやって来たハクトは、どこか疲れた表情をしていた。

 その後ろに付き従うショウライも疲れていて、ランカは苦笑いを浮かべている。


「さすがに放ってはおけなくてな、連れて来たんだ。こいつと一緒にな」 

「こいつ? あっ……」


 ハクト達の後ろから現れたのは、白が強めの灰色の髪を短く切り揃えて幾分か日に焼けた肌をした細身の少女。

 彼女は無表情で歩み寄ると、ロンレンの手前で立ち止まる。


「二人とも、ちょっと離れてくれ」


 今だ泣きじゃくる弟妹に離れてもらったロンレンは少女と向き合う。


「ロンレン……」

「ルウフェイ……」


 名前を呼ばれてもルウフェイという少女の表情は変わらず、少し見上げるようにしてロンレンと目を合わす。

 しばし見つめ合うが、互いに言葉は出ない。

 やがて沈黙に耐え切れなくなったのはロンレンだった。


「えぇっと、その……ぐふっ!」


 何かを言おうとしたタイミングでルウフェイは拳を握り、思いっきりロンレンの腹へ叩きつけた。

 完全に油断していたところへの一撃は見事に決まり、腹を押さえたロンレンはやや前傾姿勢になる。

 あまりに良い一撃に、まだこの場に残っていたドウコクは感心を示し、ハクト達と弟妹はいきなりの事に驚く。


「何す」


 再生の加護で痛みはすぐに治まったものの、文句の一つでも言おうとしたら首に両腕を回されて抱きつかれた。

 決して放さないと態度で示しているかのように、両腕には力が込められている。


「僕ね、すっごく心配したんだよ。今のはその罰だよ」

「……悪かった」


 今は見えない顔は無表情を装っていたが、耳元で囁かれた声は震えているのに気づいたロンレンは文句を引っ込め、代わりに謝罪する。


「家を追い出されたって聞いて、学校を辞めさせられたって聞いて、倒れそうだった。目の前が真っ暗になった」


 語る度に両腕の力が強くなり、そこから体の震えが伝わってくる。


「殿下から城にいるって聞いても、こうして会うまでずっと不安で不安で仕方なかった」

「ああ……」

「ロンレンのバカバカバカバカバカバカバカバカ……」


 繰り返される言葉は変わらないが、徐々に涙声になって所々に嗚咽が混じるようになる。

 ロンレンからは見えていないものの、その表情がどうなっているのかはすぐに想像できた。

 さっきまで強がって装っていた無表情を崩し、不安が解けたことで泣いているのだと。

 それが分かったかからこそ、そっと手を回して抱きしめる。


「ごめん。心配かけて」

「……バカ」


 二人の間に流れる良い雰囲気に、一部の空気を読まない兵士達が口笛を吹く。

 そんな部下達に渋い表情を浮かべるドウコクは、暖かい目で二人を見守るハクトに歩み寄る。


「殿下。彼女は彼のお相手なのですか?」


 追放されたとはいえ、元は高位豪族の生まれだったロンレン。

 そういう立場から親が決めた相手がいてもおかしくないと思ったドウコクは、小声でハクトに尋ねるが首は横に振られた。


「ロンにそういう相手はいない。魔力無しに相手を用意してやる価値はないと、リ家の当主が言っていたという噂があるが……」


 噂どころか、実際にそうだった。

 高位豪族なら早くに相手を決めていることが多いのだが、いずれロンレンの授かる加護がリ家の役に立たないものだったら、すぐにでも除籍し追放できるようにしたかったパイアンは、余計な繋がりは作らない方がいいと考えて相手を探さなかった。

 このことから他家の間では、リ家はいずれロンレンを見限るかもしれないという話が流れるようになり、ロンレンへの話を持って行くようなことせず、弟妹であるラオヤンとシャンカへの話ばかり持って行くようになった。


「では彼女は?」

「そうだな。身分の関係で互いに最後の一歩を踏み出せなかった相手、といったところか」

「ということは彼女は平民で?」

「ああ」


 豪族の子息と平民の少女。

 身分違いの恋といえば物語の上では盛り上がる要素だが、実際はそうはいかない。

 互いに相手の気持ちは分かっていながら、身分の違いから互いに一歩引いてしまっていた。


「見ている側としてはもどかしかったが、身分差に関しては口を挟んでどうにかなる問題ではないからな」

「ですね。もしも彼が除籍されるようなことがなければ、相応の相手が用意されていたでしょうから」


 ドウコクの言う通り、もしもロンレンがパイアンの求める類の加護を授かっていたら、それなりの相手を用意するくらいは考えられていた。

 豪族の子息の妻には豪族の娘があてがわれる。それが豪族として当たり前のことだから。

 だがその前提が崩れてロンレンは平民になったため、二人は人目も気にせず抱き合っている。


「しかし彼女、なかなか良い動きをしますね。先の一撃も見事でした」

「当然だ。彼女は『勇猛の牙』の団長の娘だ」

「『勇猛の牙』というと、あの有名な傭兵団の?」


 ドウコクの問い掛けにハクトは頷く。

 『勇猛の牙団』は皇都を中心に活動する傭兵団。

 荒くれ者やならず者が多いイメージの傭兵だが、ここに所属する傭兵達は賑やかで騒ぐのは好きだが、仕事はしっかりとこなす上に仁義を守る芯の通った者ばかり。

 腕利きも多く、幹部に至っては礼節をわきまえているため、顧客に大手の紹介や豪族も抱えている。

 それゆえに、例え仲間であろうと仁義を守らない者には容赦しない。

 一部からはヤクザ扱いされているものの、仕事ぶりを知る顧客や平民からの評判は高く、下手に用心棒や護衛を雇うよりも『勇猛の牙』と契約した方が安全とまで言われている。


「なるほど。彼女はそこで鍛えられていると」

「そういうことだ。ところでドウコク、仕事はいいのか?」

「おっと、そうでした。申し訳ありません、失礼します」


 仕事があるのを思い出したドウコクは、急ぎ足で訓練場を離れていく。

 それを見送ったハクトがロンレン達へ視線を戻すと、ラオヤンとシャンカがまだ抱き合っているロンレンとルウフェイを引き剥がそうとしていた。


「兄さん、いつまで抱き合ってるんですか!」

「いい加減に離れてください!」


 両側から二人の間に割って入り離そうとする様子は、さながら兄を独り占めされたくない弟妹の可愛らしい抵抗のような光景。

 だが、それは一時のまやかしだった。


「そんな女より、妹である私を抱擁してください!」

「いえ、弟であるこの僕を!」


 現実は兄に甘えたい弟妹による、単なる我が儘だった。


「もう。君達は少し兄離れをするべきだよ」

「兄離れ? そんなもの、するはずがありません」

「例え除籍されようと家を追放されようと、兄さんの下を離れるはずがないじゃないですか」


 胸を張って言うことでもないのに、胸を張るかのように言う二人に周囲は気づく。

 あれは抵抗どころか我が儘でもない。単に兄好きを拗らせているだけだと。


「やめないか、お前達。悪いなルウフェイ」

「僕は大丈夫だよ。それよりも、どうしてお城にいるの?」

「あっ、それ僕も気になります兄さん!」

「私もです、ロンお兄様!」

「あれ? ハクから聞いてないのか?」


 首を傾げての問い掛けへの返答は、聞いていない。

 理由はロンレンの無事を確認するのを最優先にして、理由を聞くのは後回しにしていたからだという。

 知らないとはいえ、一応は国家規模になる計画への協力を後回しにしたのだから、ロンレンは苦笑いを浮かべた。

 その後、場所をロンレンが使っている部屋に移し、ロンレンが授かった加護も含めて城にいる理由を説明した。


「ふ、不死身? 兄さんは、寿命が尽きるまで死なないのですか?」

「さすがロンお兄様です!」

「しかも魔域内部の調査をするって。それなら城で保護されてるのも当然だね」


 驚くラオヤンと感動するシャンカと納得するルウフェイ。

 三者三様の反応だが、何をもってさすがなのかだけはロンレンにも分からない。


「でも、本当に大丈夫なんですか? 魔域なんかに入って」

「大丈夫だろ。首を切り落とされても死ななくて、この通り元に戻っているんだから」


 首を見せながら軽い調子でロンレンは言うが、それを聞いた三人は一瞬停止した後、揃って椅子を倒す勢いで立ち上がった。


「兄さん! 首を切り落とされたって、どういうことですか!」

「どこの誰ですか、そんなことをした無礼者は!」

「どうして、そんなことになったのかな?」


 ラオヤンは驚きながら理由を尋ね、シャンカは怒気を爆発させ、ルウフェイは表情の変化こそ少ないが不安そうに尋ねる。


「落ち着け。不死身を証明するためには、やらなきゃならないことだったんだ」


 先と同じく反応は三者三様だが、根本はロンレンを心配していることで一致している。

 だからこそ、まずは首を切り落としてもらった理由を述べた。


「不死身を証明って、そのためには兄さんは?」

「他のどんな方法にしろ、本当に死なないのかを証明は必要だったからな」

「だからって、ロンお兄様の首を斬ったのは断じて許せません!」


 怒りが治まらないシャンカは、地団駄を踏みそうな勢いで両手を小さく上下に振る。


「死んでないんだからいいだろ」


 呆れるロンレンがそう告げた瞬間、頬へルウフェイの平手が軽く当てられた。


「死んでないから、は問題じゃないよね」


 小さく頬を膨らませたルウフェイの手が、頬から首へ伝い移って首元へ触れる。


「痛かったよね。苦しかったよね。死なないだけで、感覚はちゃんと有るんだよね?」


 悲しそうにそう告げると、室内にいる全員が驚く。

 その点に気づかなかったラオヤンとシャンカ、実行するまで気付かなかったロンレンやハクト達。

 なのにルウフェイだけは、言わずともそれに気づいていた。


「よくそのことが分かったな」

「当然。ロンレンは寿命が尽きるまで死なないだけで、感情や感覚を失って不死身になった化け物じゃないからね」


 得意気に小さく笑みを浮かべるルウフェイ。

 その表情以上に、化け物じゃないという言葉がロンレンにはとても響いて目を見開く。


「ロンレンは化け物なんかじゃなくて、れっきとした人間でしょ。だから痛かったし、苦しかったよね?」

「……ああ」


 小声で呟いたロンレンは、首に添えられているルウフェイの手に自分の手を重ねる。


「とても痛かったし、苦しかった。そして怖い。死なないとはいえ、またあんな目に遭ったらどうしようって」


 重ねられた手と声が震えるのを感じ取ったルウフェイは、徐々に俯いていくロンレンの様子に、もう一方の手をその上に重ねて包み込む。


「僕にはそれが、どれだけ痛くて苦しくて怖いのか、分かってあげることができない。だけどね、受け止めて支えてあげることはできるよ」


 その言葉にロンレンの顔が上がる。 


「頑張ったねって、大丈夫だよって慰めてあげる。だから辛くなったら、僕を頼ってほしい。僕が君にできるのは、それぐらいしかないからね」


 同じような状況で、苦しまないように避ける手助けをすると言ったハクトは負けた気がした。

 彼がしようとしているのは、辛いことへ近づけさせないようするための防波堤。

 だがそれは、押し寄せる波を弱めるだけで完全に受け止めることはできない。

 波によっては乗り越え、勢いと数次第では破壊されかねない。

 対してルウフェイがしようとしているのは、辛いことを共に受け止める支柱。

 同じような経験をするのを前提にした、ロンレンに直接寄り添って支えようとしている。

 完全に防げないまでも、可能な限り弱めて同じ経験する回数を減らそうと考えていたハクトは、その減らした回数をロンレンに受けてもらうのは仕方ないと考えていた。

 ところがルウフェイは、最初から共に全部を受け止める気でいる。

 彼女の真意はハクトには分からない。だが少なくとも、ハクトはそう感じていた。


「……いいのか?」

「いいよ。僕は君の味方だから、存分に甘えてくれたまえ」

「ああ……そうさせてもらうよ」


 そう告げるロンレンの表情は穏やかで、救われたような雰囲気を感じさせる。

 自分の時は見せなかった表情に、ハクトは軽く落ち込む。


(私は……震えるロンレンの姿に怖気づいたのか……)


 前日の自身を振り返ったハクトは気づく。

 首を切断され、再生するまでのことを語るロンレンの姿に恐怖を覚え、友のために逃げない覚悟はしても一歩引いてしまっていたと。

 だからルウフェイのように直接支えるのではなく、距離を取っての防波堤になる道を選んだのだと。


(……強いな、彼女は)


 今更対抗しようとは思えないハクトは、それならば絶対に防波堤の役目に就いて役目を果たそうと密かに決める。

 友と、その想い人への負担を減らすために。

 密かに決意をするハクトの心中を知らず、見つめ合って微笑み甘い空気を発するロンレンとルウフェイに、先のやり取りに見とれていたシャンカがハッとする。


「って、思わず見とれてしまいました! ロンお兄様! 私も、私もロンお兄様を癒して差し上げます!」


 挙手をしたシャンカが叫びながら二人の間に割って入ると、同じく見とれていたラオヤンもハッとする。


「兄さん! 僕も、僕もです!」


 シャンカを押しのける勢いでラオヤンも主張し、弟妹揃ってグイグイとロンレンへ迫る。

 そんな弟妹の姿に、ロンレンはありがとうと告げて頭を撫でる。

 すると二人は揃って蕩けた表情になり、照れてるのかクネクネと体を動かす。

 照れているのかと思ったロンレンが思わず笑みを零していると、ふと気づいた。


「そういえば、そろそろ帰らないと拙いんじゃないか?」

「そうだね。確かに帰らないとね」

「ならば遅らせよう。ショウライ、馬車の手配を」

「分かりました」


 指示を受けたショウライは、馬車の手配のために退室する。


「殿下、僕達はいいです」

「私達はロンお兄様と一緒にいますから」

「いや、帰れよ」

「「えぇっ!?」」


 ロンレンから帰るように促された弟妹は、ショックを受けたような表情になった。


「そんな、ロンお兄様! 私達に、あんな人でなしの住む魔窟へ帰れと言うのですか!」

「兄さんを追い出したあんな家、敷地に足を踏み入れるのも虫唾が走ります!」


 一体何が二人をそこまでさせるのか、そこまで言わせるのか。

 誰もその理由が分からない。


「だからって駄目だ。お前達は未成年だし、帰らなかったら俺に迷惑を掛けるかもしれないんだぞ」

「「うぐぅっ!」」


 兄に迷惑が掛かると聞いて二人が怯む。


「第一ここは城だぞ。簡単に泊まれるわけがないだろ」

「「うぅ……」」

「下手すれば皇族に迷惑を掛けたってことで、一生俺と会えなくなるかもな」

「「すぐに帰ります!」」


 ただ帰宅するだけなのに、まるで断腸の思いのように二人は告げ、無念そうに俯いた。

 説得に成功したロンレンは、弟妹の気持ちは嬉しいものの、我が儘を通そうとしたことに小さく溜め息を吐く。


「はあ、全く。今生の別れじゃないんだから、また会えるだろ。大げさだな」

「大げさじゃないです!」

「そうですよ、ロンお兄様。あの人でなし、ロンお兄様のことは忘れろと言うんですよ!」


 確かに言いそうだなとロンレンは頷く。


「酷い親だね。安心して、僕は絶対にロンレンを忘れないからね」


 微笑みながらそう告げたルウフェイは、さりげなくロンレンへ寄り添って肩に頭を乗せる。


「ちょっとルウフェイさん! 忘れないのは褒めてあげますけど、何寄り添ってるんですか!」

「そうですよ! あなたとロンお兄様は単なる知り合いで友人で元同級生であって、それ以上ではないんですよ!」


 調子を取り戻した二人の、特にシェンカの言葉にルウフェイは少し落ち込む。

 さすがにそれは言いすぎじゃないかと、年上の同じ女性としてランカが注意しようかと思案する。

 だがロンレンは、別方向の反応をして決意をした。


「そう、だよな。それ以上じゃないんだよな」

「えぇっ!?」


 思わぬ反応にルウフェイは軽くショックを受け、ラオヤンとシャンカは勝ち誇った表情をする。

 まさかそんな事を言うとは思わなかったハクトとランカも、少し驚いている。


「だけど、それ以上に進めなかった理由はもう無いんだよな」

「……えっ?」

「今の俺は高位豪族の一員じゃない。ただの平民のロンレンだ。そうだろ、ルウフェイ」

「確かにそうだけど……って」

「今後は略称で、呼んでもいいか?」


 室内の空気が固まる。

 勝ち誇っていたラオヤンとシャンカは表情そのままに目からは光が消え、ランカは感心を示し、ハクトはそうくるかと呟きながら笑う。

 リュウ皇国には、親族か同性の親友か異性の恋人しか名前を略称で呼べないという風習がある。

 五歳までは誰でも彼でも略称で呼んでも許されるが、六歳以降は先の条件を満たす相手しか略称で呼べない。

 つまり異性に対して略称で呼んでもいいかと尋ねることは、告白をしているも同然。

 いきなり告白をされたルウフェイは目を見開き、自分の頬を抓る。


「夢、じゃないよね?」

「現実だ」

「……」

「へ、返事は‥…」


 黙ってしまったルウフェイに、いまさらながら恥ずかしくなってきたロンレンは、真っ赤になって視線を外しながら尋ねる。

 すると次の瞬間、ルウフェイの表情はこれ以上ない笑顔になってロンレンへ抱きつき返事をする。


「大歓迎だよ、ロン!」


 大喜びのルウフェイと良い返事を貰えたロンレンは満面の笑みで抱き合い、ハクトとランカが祝福の拍手を送る。

 だがラオヤンとシャンカは、想定外の事態に崩れ落ちた。


「そんな、私達のロンお兄様が……」

「まさかこんな事になるなんて……」


 自分達が焚きつけたともとれる状況に、二人は抵抗する気も割って入る気も失せていた。

 思わぬ形で結ばれた二人だが、結果としてこの時の決断が大正解だったと、後にロンレンは知ることになる。


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