年末のホラー的な……ね?
書き納め。ホラー書いてみたくて書きました。
『いやー、今年ももう終わりですね~。』
『そうですね~。今年は流行り病が大変な年でしたが、いかがでしたか?』
炬燵の中で暖まりながらテレビの中では定番の年末トークを眺める。芸人たちが一年の出来事を振り返って”大変だった”とか”一年は早い”とかそんな聞きなれた言葉を連呼する。代り映えのないものだ。最近ではテレビも付けるのは年末年始くらいのものだが、いざ付けてみると内容は去年とあまり変わらない。話題が変わってもやることは同じ、それがいいのかもしれないが毎年変わらないといささか飽きてしまう。しかし、変わってないのはテレビだけだろうか。ふと考えて自分の周りを見回す。大学生になって一人暮らしを初めて3年。3年前から変わらないベッド、テレビ、机、そして都会の寒さにやられてたまらず購入した炬燵。
「あんま変わらないかもな……」
「それって……私がいるのはこと?」
つい零れた独り言に”彼女”が反応した。彼女は……人生初の”彼女”だ。出会ったのは大学生の合コン。趣味が同じで話してるうちに意気投合してといった感じだ。
「はい、年越しそば。温かいうち食べよ。」
彼女はお手製の年越しそばを炬燵の上置いて炬燵に入ってくる。
「ありがとう。」
お礼を言って箸を取る。彼女は料理が得意だ。リクエストをすればなんだって作れてしまう。初めて作ってもらったものがパンで、一から作ったと言われた時は驚いたが、素人とは思えないほど美味しく、聞けば祖父が料理人だったそうだ。蕎麦だって一から作ったと言われれば、普通は驚くが彼女ならばできて当然のように思える。
「君、いつもは実家に帰ってたでしょ。こっちで年末年始過ごすのも初めてだし、私と年越しするのだって初めてよ?」
「いや、そうなんだけどさ。ここは暮らしなれてるし、一緒にいるのも初めてなんだけど、何となく当たり前というかいつも一緒に過ごしてたような気になってた。なんかごめん。」
「ふふ、一緒にいるのが当たり前ってのは気に入ったから許してあげる。」
彼女はクスクスと笑う。彼女と過ごす時間は楽しくてあっという間に時間が経ってしまう。今だってそうだ。
『今年もあと5分!さあ、盛り上がって行きましょう!今年最後の曲です!!』
彼女と他愛のない話をしているとつけっぱなしにしていたテレビが今年の終わりが近いことを教えてくれた。
「もう今年も終わりだね。来年はどんな年にしたい?」
「そうだな。変化のある年がいいかな。非日常!劇的な人生!ってチープだけど楽しそうじゃない?新しい趣味とか見つけたいね。」
「劇的な人生かあ。うーん、気づいてないだけで、世の中もっと注意深く見ていれば変化とか非日常とか幾らでもあると思うよ?」
「そうかなあ。」
「そうだよ。」
こんなどうでもいい話をしていると
『あけましておめでとうございます!』
どうやら年は明けたようだ。
「明けましておめでとう。今年もよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく。末永くね?」
新年の挨拶、確かに例年なら家で家族にしていた気がする。もしくはSNSで。
「あ。」
丁度スマホが鳴った。スマホを見れば、友人からだ。
『明けましておめでとう。今年もよろしく。』
『明けましておめでとう。こちらこそよろしく。』
友人にメッセージを返す。
『今、どこにいるの?実家?』
『いや、今年は帰省してない。彼女とアパートで過ごしてるよ。』
『彼女!?え?彼女いたの?いつから』
『教えてなかったっけ?2年くらい前から』
『え?お前、2年前って去年の夏に遊んだ時に彼女欲しいって言ってたじゃん?あれ噓だったのか……。』
え?去年の夏?去年の夏は確かに友人と遊んだ覚えがあって思い返せばそんな発言をした記憶があった。なにせナンパに挑戦しようとか、友人とふざけて海に男衆で行った覚えがあるのだ。でも、”彼女”ができたのは2年前の合コンだった。どんな記憶違いだ?
『なあ、彼女の写真見せてくれよ。』
『いいよ。』
反射的にメッセージを返す。少し混乱している気がするが寝ぼけているのだろう。写真だけ送って寝よう。そう決めて写真のフォルダを開く。写真は結構ある。何せ初めての彼女だ。写真は何かあることに写真を撮って……。
「え?」
「どうしたの?」
隣から聞こえた声はチョークを爪で擦ったような生理的に不快感を覚える声だ。声か?僕はこれを声と認識して何を言っているのか理解できたが、それは日本語じゃない。それどころか人の出せる音ではない。隣にいるのは僕の“彼女”だ。
「ねぇ。」
生温い風が耳に掛かる。隣を見なくても僕の身体を覆うほどの影が……。
「うわああああああああああああああああ」
僕は叫ぶと布団から抜け出して家からそいつから逃げた。スマホだけひっつかみ、バイクで隣街まで飛ばした。
僕の隣にいた何者かの気配はない。あれは何だったのか……。僕が撮った写真には写っているはずの“彼女”は真っ黒に塗りつぶされていた。“彼女”はなんだったんだ。そう彼女、彼女?彼女の名前は……
「やっと名前を気にしてくれた!君、中々聞いてくれないんだもの。」
聞き覚えのある。二度と聞きたくなかった音が……下から、乗っているバイクから?何故バイクから……
僕の握っていたものはハンドルではなかった。世の中注意深く見れば変化とか非日常は幾らでもある。気づいていないだけで。でもそれに気づいてしまったら……。
「私の名前は……****。これからずっとそばにいるからね。」
クトゥルフとかポーみたいな読者がゾワッってするやつ書きたいなって思って書きました。ありきたりな話でしたけど、練習ってことで一つ。