始まる
いろんな人が登場します~
一応、今後主人公二人組は有名強プレイヤーにはなりますが、最強、チートキャラにはなりません。
ノアちゃんは、これからもじゃんじゃん運営(の胃)を殺します。
光の粒子になって消えていく土蜘蛛を見送ったあと、ルミは桜の木の方に向かった。だいぶ使い方に慣れた【顕現】で翼を広げ、滑るように飛んでいく。元のAGIも高いが、【顕現】による飛行の方が一段と速かった。
桜の木の近くには、あの男の子がへたりこんでいた。
ルミは男の子の近くで翼を消し、そっと屈んで目を合わせ、微笑んだ。
「あの蜘蛛は、いなくなったわ。」
「…おねえちゃん、ありがとう。」
男の子は、ようやく年相応のくしゃっとした笑顔を浮かべると……すぅっと透明になり、消えてしまった。
「…やっぱり、そうよね」
ルミは戦闘途中から、男の子はある程度実体を伴った幽霊なのではないかと思っていた。
目を2つ潰されていて速度が格段に落ちていたとはいえ、蜘蛛の移動速度はAGIに大きく振っているルミがようやく回避出来る程度であった。
それを、言っちゃ悪いが明らかに非戦闘員の幼子が回避できるかと言われれば、答えは否、であろう。
また、蜘蛛のターゲットが男の子へ向くこともなかった。いくらダメージを与えていたのがルミとはいえ、自分に怪我を負わせた猫の飼い主をほっとくだろうか。…そこに関しては、そこまでの理性というか思考能力というかが蜘蛛にはなかった、という話にもなるが。
これらのことから、男の子は自分と、そして大事な友達だった猫の仇をとって欲しかったのだろう。
これでよかったのかしら、とは思いつつも、桜の木の下の猫が埋められているであろう土の山に向かって、手の指を絡めて祈りを送る。
それに…と桜を見上げる。
このあまりに綺麗な桜を見たい人は沢山いるだろう。
その度に、逞しき(?)プレイヤー諸君はともかく、住人達があの蜘蛛の被害に遭っては堪らない。
結果、ルミも不名誉な正式サービス開始初の死に戻り経験者になるのも防げたし、「スキル交換チケット」なるなんだか縁起の良さそうなものもゲット出来たし、何よりようわからんかった【顕現】さんの使い方もひとまず分かったので万々歳である。
―――『おい、其処の使徒殿』
「っ誰!?」
気配もなく聞こえた声に、思わず双剣を構える。
使徒、というのはプレイヤーのことだ。そういう設定になっている。
『我はこの櫻の木に宿った者だ』
「…桜?桜の精ってことですか?」
かなり相手は年上そうなので、丁寧な言葉遣いに直す。
たしかにルミは先程男の子に対し「桜の精が守ってくれる」とは言ったが、正直子供だましの安心させるための嘘のつもりだった。
『貴殿らの分かる言葉で謂うと其の様にも呼べるだろう。
だがより正確に物を謂うので有れば“妖怪”と謂うのが最も正しいであろうがな』
「妖怪…」
『あまりに長い時を生きた猫が猫又に成る様に、或いは蔵の奥に捨て置かれた人形が化けて出る様に、人の理を越えた物には妖の力が宿る』
「あなたも、そうだというのですか?」
いかにも、と渋い声で返された。
『我は嘗て“万年桜”と呼ばれ、黒の時代から此の地の妖に血を連ねる者共と共に生き、季節を問わず咲き続けていた。然し時は経ち、此の丘に栄えていた筈の町は戦火に巻き込まれて消えてしまった。人々は北方へと移り棲み、我の存在など忘れてしまった…
故に、彼の小僧と猫っころが我を見つけ、そして此処を安息の地とした時は、久方ぶりの人との関わりに年甲斐も無く歓びを感じたのだがな』
そういやここのフィールドの名前は「万年桜の丘」だったなと話を聞きながらルミは思い出す。
それにしても黒の時代、というのは、ホームページに書かれていた黒の帝国とやらに支配されていた時代のことだろうか。どこぞのアホ娘程ではないにしろ割とストーリーに関わっていないだろうか…ノアのあの規格外装備を思い出し、頭痛がする。どこであんな見るからに危険なフラグと頭の悪い装備拾って来たのよ。うちでは飼えないから戻してらっしゃい。
そんなことを考えるルミには構いもせず、万年桜おじいさんは話を続ける。
『だからこそ、あの忌まわしき土蜘蛛は許しがたかった。しかし、我にはあの小僧と猫を救うことは叶わなかった…小僧が我の声を聞くことが出来れば、話は違ったのだが』
「…そうですね、逆になぜ私には聞こえるのでしょう」
『女神の使徒とかいう存在だからだな。貴殿らには、人ならざるの物共の声を聞くことが出来る』
初耳だ。割と攻略組には重要ではなかろうか。
『…貴殿には礼をしなくてはならない』
「大したことはしてないです。たまたま種族の相性がよかったので。」
これが鳥などの飛べるモンスターや、飛び道具を扱う敵相手ならばこうはいかなかったであろう。空中でも回避し続けるのは普通にしんどい。
だが、と万年桜は続ける。
『あの小僧と猫は、久方ぶりの客人だったのだ。次、いつ、誰が来るかも判らぬ。言葉を交わしたことは無かれども、我にとっても大事な友人であったのだ。友人の仇を取ってくれたものに、礼をしなければ万年桜の名が廃る。我を助けるつもりで貰ってくれ』
「…そこまで言うなら」
ルミが渋々了承すると、木の根元の辺りの地面が光始めた。ここ掘れわんわん、否、にゃあにゃあ、ということらしい。
手で掘るのは嫌だったしスコップもないので、銅の双剣を取り出しシャベル代わりにしてサクサク掘る。
掘り進めると、黒くて艶のある和風の箱が出てきた。
イメージは、玉手箱だ。
「…これ開けて、よぼよぼのおばあちゃんになったりしないわよね」
おもわず独り言をごちってしまう。
『昔じぇいる、とかいう里に行った若造じゃあるまいし、そんなことはせんわい』
なんだかよくわからないことを言っているが、違うらしい。失礼しました、と呟いて、しかし恐る恐る箱を開く。
中には、装備が入っていた………ノアのぶっとび~↑装備を思い出し思わず顔が引きつるが、落ち着け、土蜘蛛はレベル10だった。さすがに終盤コンテンツばりの非道な目には遭うまい、と装備の詳細を見る。
≪ユニーク装備 「夜桜に祈りを」≫
夜桜の衣 ※譲渡・売却不可
AGI+10 VIT+5
装備スキル
【陽炎】LV.1 一度に限り致命的な攻撃を無効化する
※残りHPの80%を失う攻撃を「致命的な攻撃」と定義する
【???】プレイヤーレベル15で開放
【???】プレイヤーレベル30で開放
夜桜の下駄 ※譲渡・売却不可
AGI+5
装備スキル
【敏捷】LV.1 AGIが[スキルレベル]×10%上昇する
夜桜の弓矢 ※譲渡・売却不可
STR+20
装備スキル
【花に嵐】LV.1 [スキルレベル]×10本の矢を同時に放つ
【???】プレイヤーレベル15で開放
【???】プレイヤーレベル30で開放
「…ノアのあの装備見た後だと霞むけど随分強いわね……」
『不満か?』
「いえいえ、滅相もございません…ただ、私には不相応かと思いまして」
はん、と万年桜は鼻で笑った。鼻どこにあるん。花はあるが。やかましいわ。
『そりゃ不相応であろう。今はな。我の力を制限されているのが何よりの証拠であろう。なんでも使徒たちはついさっきの昼この世界に降り立ったばかりらしいな。何、焦ることはない。じきに我の力を最大限使えるようになるであろう』
「…頑張ります。」
ユニーク装備 「夜桜に祈りを」 を手に入れました
装備しますか?
はい いいえ
あとで外すが、とりあえず外観が見たいので装備してみる。
まず、夜桜の衣は簡単に言うと改造着物だった。地の色は黒と藍色のグラデーションであり、桜吹雪のような模様がある。帯は銀色だ。上半身は着物だが、下はふわっふわのミニスカートだ。スカートのなかは布が敷き詰められているので、飛んでも中は見えない安心設計。であろう。多分。
夜桜の下駄は、全体的に上質な黒であり、鼻緒の部分は桜色と赤色のグラデーションになっている。なにより7cm程の厚底になっている。148cmルミ、嬉しい誤算である。履いても平均身長には届かないが。
次に武器だ。矢は、自動セットの場合、弓の種類に関わらず一律で変化はない。
夜桜の弓を見てみる。弓本体は少し透き通った瑠璃色で、桜の花の意匠が彫られている。光に翳すと金色の粒がキラキラと光る。弦を軽く引っ張って離すと軽やかな弦音が響いた。
サブジョブの暗殺者のための双剣はないが、まぁそこまでのサービスは求めていない。
1度初心者装備に戻した上で、ルミは感謝を述べた。
「素敵ですね…ありがとうございます」
『良いのだ。』
ルミは万年桜に向かって続ける。
「また近いうちに来ます。長い時を過ごしてきたであろうあなたから見て『久々』と言わしめるほど長い間、あなたのような美しい桜に誰も会いに来なかったなんて、とても勿体ないことだと思うんです。
…次は、騒がしいのを1匹連れてきます」
それでは。と丁寧に礼をすると、ルミはふわっと大きな翼を展開し、丘の上から去ったのだった。
『…生真面目な小娘だ』
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ところ変わって、白の王国側の雛菊の平原。
ノアはシルバーウルフを倒し終わってホクホク顔である。
と、その時。頭上から、声が降ってきた。
≪使徒の皆様にお知らせいたします≫
≪使徒 夕 が神聖都市マリアベルの初回踏破者になりました≫
他のプレイヤーたちにとってはただのワールドアナウンスだった。
まぁ内容については驚き桃の木山椒の木であるが。なんでノアが最初の町のダリアに着く前にその次であろう都市(どうやらマリアベルに一度戻るらしい)のミッション踏破してるんだろう。
周りのプレイヤーたちは「えっ!?もう!?」と驚くものがほとんどであるが、「あーあいつか」と妙に納得しているものもいる。有名人なのだろう。
しかし。
ノアにとってはそんなこたぁどうでもよかった。
だって、その声は。
「………アリス?」
ノアは、澄み渡る空を見上げ、こてん、と首をかしげるのであった。
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時を同じくして、友好記念都市ダリア、中心部。
ひときわ目を引く二人組が、このアナウンスを聞き、歩みを止めた。
片や、凛々しさと美しさを同居させた、そこらの男より男前な雰囲気の、現在のACOでは珍しい、藤色の着物に藍色の袴の、黒髪黒目の女。
片や、ペンギンの顔を模した帽子に、ペンギンのおなかを模したポンチョ、そして半ズボンという奇妙な風貌の少女…ではない。ドワーフ族特有の低身長のれっきとした大人の女性だ。しかし、耳の先はとんがっている、エルフ族のそれだ。髪は明るい水色、薄めの紫の目をしている。
ペンギン服の女は、おっとりとした声で「あらら~」と笑った。
「夕くんが一番かぁ。相変わらずせっかちというか生き急いでいるというか、そんな感じやなぁ。」
「…お前はのんびりしすぎてる気もするけどな」
あら、と心外そうにペンギン服の女が目を見開く。
「納期に遅れたことはないやろ」
「…その分ギリギリだろ。私のこの服を作ってくれたことはありがたいが、あれやこれやと凝り始めて。」
そう言う女の服はなるほど、藤色の着物の上部には金糸と銀糸でで月の模様があしらわれており、下部や袖には、鮮やかな朱色の糸で鬼灯が描かれていた。
彼女が歩くたびに太陽光を浴びて輝くその刺繍は確かに目を引き、プレイヤーたちのみならず、住民(NPC)までもが思わず足を止めてしまう。
だが、一部のプレイヤーたちは知っていた。
「まぁ夕くんには随分遅れをとっちゃったけど…」
「舞蘭ならすぐ追いつくやろ?」
鷹揚に頷く舞蘭と呼ばれた女は、口の片端を吊り上げ、面白そうに目を細めた。
一部のプレイヤーたちは知っていた。
彼女の刺繍は、月光の下で、最も美しく光るということを。
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「…ん」
「あれぇ?」
同時刻、白の王国神聖都市マリアベル。
ここは、国の要となる城の中。
落ち着いた青色のローブを纏い、自分の背丈ほどの旗を抱えるのは、よく言えば穏やかそうな、悪く言えば凡庸な顔の青年だ。青年のさわやかな短髪は、明るすぎない灰色で、瞳の色はローブと同じ深い青色だ。
青年の傍らには、真っ白なウサギの耳としっぽを可愛らしくピコピコさせる少女がいた。これまた真っ白な髪の毛は、肩までのふわふわのボブカットであり、鮮やかに赤い瞳を持つ丸い目はうるうるしていて思わず庇護欲を誘う。少女はフリルとリボンを幼くなりすぎないようにあしらったオフショルダーのワンピースを着ており、首にはフリルのチョーカーがついている。
彼らは、今しがた聞こえたワールドアナウンスに、思わず天井を仰いだ。
「…夕がトップバッターか。速いな。RTAでもしてたか?」
「まぁそれならイベントは踏んでいないでしょ」
こそこそと話す彼らに、目の前の美しいお姫様は「どうなさいましたか」と首をかしげる。
青年と少女はお姫様に向き直る。
「いいえ、なんでもございません。メリッサ殿下。安心してくださいませ。必ずや、あなたがたの思いは、我々がサポートいたします」
「そうだよぉメリッサちゃん♡
愛のない結婚なんて寂しいもの、女のコだったらしたくないのは当然だよ!
らびぃと一緒にがんばろうねっ♡」
メリッサと呼ばれたお姫様は、「ありがとうございます!」と心底嬉しそうにほほ笑むのであった。
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神聖都市マリアベル、その治安の悪そうな裏路地を駆けていた青年は、アナウンスを聞いて足を止め、「畜生!」と舌打ちをした。
「覚えていやがれあんの腹黒爽やかプリンス…AGIでも極振りしてんのかあいつ…まぁんなわけねぇのは知ってるがよぉ…」
悪態をついた彼は、いっそ目に悪そうなほど鮮やかな、肩までの紫の髪の毛を一つにくくっており、薄い銀色の瞳は、黒くなった白目部分(こう書くとまるで矛盾しているが、しかしこのように書く以外の表現の仕方がない)とあいまって、不気味な雰囲気を出していた。
すると突如、敵性NPC…すなわち、荒くれもの達が彼の背後を狙う。その数、5人。
彼らが青年に武器を振りかざそうとしたその時、
「【ウィンドカッター】【ダークエッジ】…お前ら馬鹿じゃねぇの。相手選べ」
したっけ、死ぬこともなかったべさ。
青年はそう言いながら、あっさり5人分の死体を積み上げるのだった。
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彼は、動かなくなった三つ首の緋色の犬を見下し、ひどく退屈そうに首をぐるんと回した。
端正で甘い、中性的な顔立ち、カーキ色のさらさらとした髪の毛、こちらを溶かしてきそうなほどの金色の瞳。まるで王子様ともいうべきルックスではあるが、その表情は、無であった。
彼は、はぁ…とため息をひとつついた。
「つまんね」
腹黒爽やかプリンスという呼び方が気に入ってます。




