ノアと焼き鳥 ルミと桜
ノアの親友、ルミちゃん本格登場です。
ルミに言われたので装備はとりあえずもとの「地味なローブ(灰)」と「普通のブーツ」、「木のロッド」に戻した。ステータスも逆戻りである。しかし安心感はある。びば、ふつう。
そして今来た道…とはどうせだからと違う道を通って、コンパスの指し示す方向へ向かった。
ようやく今いるマリアベルの東端にたどり着くと、いかにも門番!という感じの人たちが出入り口に立っていた。
通っていいのかな、と思っていると、プレイヤーの一団が普通に通り過ぎて行った。じゃあいっか。
「門番さん、お疲れ様で~す!!」
ぴしっと槍を持って立っている門番に、ノアは気の抜けた挨拶をする。挨拶をされた門番は少し驚いたような顔をしていたが、すぐに嬉しそうに顔を綻ばせて敬礼をしてくれたのであった。
バトルフィールド 雛菊の平原
門の外を出れば、ふわっと気持ちいい風が吹き抜けた。
あたり一面草原であり、あちこちに雛菊が群生している。青い草は陽の光を浴びてきらきらと輝いていた。
「うわぁ~~~!!!きもちい~~!!!!」
きゃっきゃと楽しそうに駆けていくノア。まぁAGIが大して高くないのでそんなに速くもないのだが。
そんなノアに男女問わず…まあ男の方が多いが、周囲のプレイヤーの視線が釘付けになる。
それもそのはず、絶世の美女がエルフ耳で、きれいな草原でキャッキャと楽しそうにはしゃいでいるのである。ノアのプラチナブロンドの長い髪がふわっと風に靡いていた…この日、公式掲示板の雑談板に、「妖精がいた」と書き込まれたのだった。
そうしてちょこちょこと歩いていると、「ぐぁっ!ぐぁっ!」という鳴き声が聞こえてきた。
鳴き声とともにノアの前に躍り出てきたのは、二羽の白いあひるだった。あひる…といっても、その目はこれでもかと吊り上がっており、真っ赤に光っているのだが。
アグリーダック LV.1
アグリーダック LV.1
「でた!!焼き鳥!!!!」
「「ぐぁっ!!??」」
名前のカーソルがでているのに「焼き鳥」呼ばわりである…ノアはモンスターの名前など覚える気はない。しかし、ノアの初エネミーとして堂々と出てきたにもかかわらず開口一番「焼き鳥」と呼ばれるアグリーダックたちも不憫である。あわれ、やきとり。
「じゃあやっちゃおう!【チアアップ】!【ライトニング】!」
【チアアップ】は一番基礎のバフである。正直なところ、聖女セット(面倒なのでそう呼ぶことにしたらしい)のスキルに【加護】とかいう化け物バフがあるので要らん気もするが、まぁ育てとくのに越したことはない。なにより、今は聖女セットは身に着けていない。
【ライトニング】も一番基礎の光魔法である。CTも短い。そのうえエルフ族の固有スキル【魔法CT短縮】もあるので、ポンポン打てるのだ。
ノアが【ライトニング】を唱えると、杖の先から小さな光の弾丸のようなものが出てきて、片方の焼き鳥…アグリーダックの首のあたりを打ち抜いた。これでHPは半分ほど減った。
「まだまだいくよっ!【ダークエッジ】!!」
すると、三日月形のブーメランのような「闇」が杖から飛び出てきて、アグリーダックの首に直撃し、そのままHPを刈り取った。
「よし!もう一匹だね!!」
すると、残った一匹がばさばさばさぁ!!とノアに向かって飛んできて、頭に蹴りを食らわせた!!
「うわぁ!!いたた…」
自分のHPを見ると、わずかにだが減っている。
「も~…【ヒール】、と。」
【ヒール】は対象一人のHPを回復する魔法だ。回復量はINTとスキルレベルの両方に依存する。まだレベルの低いノアなので、そこまで回復量は多くないが、そもそも受けたダメージが少ないためHPはすぐ回復した。
「よし!もう一匹も焼き鳥にするぞ!!【ライトニング】!【ダークエッジ】!」
ノアの杖から放たれた二つの魔法がアグリーダックに当たり、見事初バトルは危なげなく終了したのであった。
YOU WIN!
勝利報酬
アグリーダックの肉×2
アグリーダックの羽×1
「あ!!お肉落ちてる!!」
ダリアに着いたあと、さっきの街(名前忘れた)に戻れたらあの焼き鳥のおじさんにあげようかな、と思うノアなのだった。
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一方、こちらも雛菊の平原。
ただし、赤の王国側の平原だ。
時刻は、ノアがルミに「なんかすごい装備てにいれちゃったてへぺろ」みたいな内容のチャットを送った後だ。
「【回避】、【クイックアロー】…よし、【スナイプショット】!」
威力は弱いがCTが非常に短い【クイックアロー】でノックバックしたのを見て、タメ時間が必要だが威力が大きい【スナイプショット】を叩き込む。
無事に光璃…ルミはシルバーウルフを順当に倒したのだ。
シルバーウルフは、雛菊の平原の中でも後半…ダリアに近い地域に現れる。ノアが呑気に散歩した挙句に重要イベントを踏み抜いているその間、ルミはちゃんと攻略を進めていたのだ。
ちなみに、ACO内においては、基本的に矢の枯渇を気にする必要はない。
弓を引くと自動で矢がセットされるのだ。まぁ、サクサクしたバトルのためには仕方ないだろう。あまり難易度が高すぎるとユーザーは離れてしまう。
自動ではなく手動で矢をセットすることも可能であり、その場合ダメージが大きく上昇するが、矢の本数は限られるし、戦闘中、または戦闘後に矢を回収しなくてはならない。そのようなリスクを負ってまでそのような戦闘をするものはめったにいない。
…めったには、いるのだが。
ルミのアバターの紺色の緩いウェーブを描く髪は、低い位置でお団子にしてまとめている。そして年齢の割に小さなその背中には、小さな小さな天使のような羽がキラキラと輝いていた。
ルミ
プレイヤーレベル:3
種族:幻翼族
職業:弓士/暗殺者
武器:木と麻の弓、銅の双剣
装備:普通のTシャツ(黒)、普通のホットパンツ(藍)、普通のブーツ
STR 12
INT 2
VIT 4.5
AGI 24.4
DEX 14
LUC 84
スキル
【顕現】【クイックアロー】【スナイプショット】【回避】【隠密】【スラッシュ】
ランダムでの種族選択の末、ルミは「幻翼族」というレア種族を引いた。
ランダムでの種族の割合は、80%が通常種族、15%が通常種族同士のハーフ、5%がレア種族、という割合なので、まぁ運はよかったが奇跡というほどでもないだろう。
むしろ、外れかもしれない、と思った。
ステータスの傾斜は有翼族と同じだし、見た目も有翼族の翼が小さいバージョンである。
しかし、どうやったってこうやったって飛べないのである。
幻翼族の固有スキルはこれだ。
【顕現】[スキルレベル]×10秒間、MPを消費し、魔法で任意のものを顕現させる。
ふわっとしている。わたあめよりもふわふわだ。
実際、アバター設定の後の時間で「【顕現】!」と叫んでみたが、うんともすんとも言わない。ちょっと恥ずかしかったくらいだ。
というわけで貴重な初期スキル枠が、いまいち使い方がわからない固有スキルでひとつ埋まってしまったのだ…とりあえずはダリアまでは幻翼族のまま向かうが、ダリアに着いたら有翼族に変えようと心に決めたのであった。
そうしてまたダリアに向けて歩みを進めたその時だった。
「─────────」
遠くで、一瞬子供の泣き声が聞こえたのだ。
「…誰かいるの?」
キョロキョロと見回すが、周りは同じ位のレベルのプレイヤーばかりだった。
普通ならば「気のせいか」となるような声だったが、ルミはそれを無視できなかった。ルミは一人っ子であるが、年下のいとこは大勢いる。親戚の子供たちの中では最年長だ。ルミの家族は割といとこなどの親戚との関わりが深いので、お姉さんは子供たちの面倒を見ることが多い。
ルミは面倒見の塊のような人間であり、ついでに無類の子供好きであった。
そんなルミは、一瞬聞こえただけの子供のすすり泣く声をどうしても無視できなかったのだ。
周りにモンスターがいない、あるいはいても狩られているのを確認し、その場で立ち止まり、よく耳を澄ます。
…右側ね。
ルミは泣き声の聞こえた方向への走り出した。
AGIはかなり高い方ではある。走り出すと、徐々に人もまばらになっていき、いなくなる。いつの間にか、雛菊の花は見られなくなっていた。
バトルフィールド 万年桜の丘
突き進んでいくと、少しずつ子供の泣き声は鮮明になって行く。
「…ぁぁ……ぅゎぁぁ…ん……」
やがて地面は上り坂になっていく。そこを駆け上がっていくと…
丘の上に、鮮やかに、そして可憐に咲く1本の大きな桜の木があった。
そのあまりの美しさに見とれてしまうルミだったが、子供の泣き声が再度聞こえてはっとする。
泣き声は、桜の木の方からしていた。
「誰かいるの?良かったら返事をしてくれないかしら?」
「うっ…うっ………おねえちゃん……」
桜の木の下には、小さな3~4歳くらいの男の子がぺたんと座り込んで泣いていた。
男の子は妖族の妖狐らしく、耳はぴこぴこしていて、ふかふかの白いしっぽが揺れていた。服装は和装で、割と上質そうだった。
ルミは男の子の目線になるようにしゃがみこむ。赤い瞳が印象的な目は、腫れてしまっていた。
よしよし、と言うふうに男の子の白い髪を撫でて、ここまでで手に入れた水を飲ませた。ハンカチがないのが悔やまれる。
「きみ、どうしたの?」
「よるが….よるが………」
夜が?何があったのだろうと思うと、男の子が地面を指さす。そこは、不自然に土が盛り上がっていた。
「よる、っていうのは?」
「ぼくのともだち、飼っていたねこ」
「そう。…悲しかったね。きっと、いいお友達だったんだね。」
寄り添うように微笑むと、男の子の涙が止まらなくなる。
「あのね、よるといっしょにね、よくここのさくらのところに、あそびにきていたの」
「えぇ」
「だから、よるをここにうめてくれた、おっとうとおっかあは、うれしいんだけれど」
「…えぇ」
「でも、それでも、ぼくくやしくって」
男の子の話を遮らぬように静かに聞いているが、どことなく話の雲行きが怪しい気がした。
しかし、まずは、目の前の男の子が全部気持ちを吐き出せるようにしないといけない。
「あの、あのね、このあいだここにきたときに、よるといっしょにここの桜みていたら」
「おっきなくもにおそわれて」
「それで、にげようとしたけれど、すごくはやくって」
「………」
「それで、ぼくがにげようとしたら、くもにつかまって、そしたら、よるがくものめをひっかいてまもってくれて」
それで……と男の子は続けようとするも、ここで限界だったらしく、うわああああと声を上げて泣き出してしまった。
「辛いこと思い出させてごめんね、もういいのよ、教えてくれてありがとう、偉いのね…」
と、ルミは男の子を抱きしめ、頭を撫でた。
大体の話はつかめた。
いつものようにこの男の子と、よる、という猫がここの桜を見に来たところ、いつもはいないような大きな蜘蛛が突如ここに現れ、男の子を襲った。口ぶりからしておそらく何もしていないし反撃もできなかったであろう男の子を襲った、ということは、理性のないモンスターであろう。
そして、男の子がつかまりそうになった時、猫は身を挺して主人を守り、命を落としたのだろう。
泣き続ける男の子を、ルミはただ慰めていた。
その刹那。
「キッキッキッキッキッキッキッキッキッキッキイイイイィィィィィィ!!!!!!」
耳に障る、嫌な鳴き声が聞こえた。
すっと男の子を背にするように立ち上がると、予想通りのモノがいた。
――全身に細かい毛が生え、細い八本の足をカサカサと動かし、醜い老人のような顔をもつ大きな蜘蛛。
その顔の上には、ご丁寧に自己紹介文が書かれていた。
土蜘蛛 LV.10
なんで主人公よりも先に親友がガチバトル始めるんですかねぇ…(遠い目)




