カウントダウンイベント
今回短いです。
「ぷはぁ!!転移ってこんな感じなのかー。なんか変な感じー。」
なぜか転移中息を止めていたらしい芽衣―――――ノアは、はぁはぁと息を整えながら、あたりを見渡した。
ノアが転移した先は、街の広場、というような場所であり、多分プレイヤーであろう人々でごった返しており、ヒュン、ヒュンとノアの後からもプレイヤーが転移してきている。顔と肩幅はいかつい男の人だけれど光璃…ルミよりも小さい人や、肌が青白い…体調がというより、本当に、青っぽい白の女の子など、いろんなアバターの人がいる。
上を見上げれば、ホログラムのように、数字が浮いている。
04:24
その数字は今も一秒ごとに減っている。サービス開始までのタイマーだろう。
プレイヤーたちの服装はみなちょっとずつ違うが、色合いはみな、茶色や濃い緑、藍色など、少し地味なものばかりである。かくいうノアも、白いロングのワンピースに無地の灰色のローブである。手にはいつの間にか、木製の頼りなさげな杖が握られていた。いわゆる初心者装備だ。
ださいなぁ、早くかわいい装備にしたいなぁ、などと思いながら、次に街の風景を見た。
わかっていたことではあるが、やはり中世ヨーロッパ風の街並みである。
街の道は青っぽい灰色と白の石畳であり、遠くには、大きくて荘厳なサグラダファミリアを彷彿とさせる教会のようなお城のような建物が見えた。
白い壁に青い屋根のその建物は、形こそ教会であり、屋根の上には祈るようなポーズの麗しい女性の彫刻が掲げられているが、十字架のマークはない。代わりに、二つの細長さの違うトランプのダイヤのマークを重ね合わせたマークが堂々と示されている。
あたりを見ると、街灯や、家々、店先に、大きな教会と同じ、まぶしい程の白の旗と清々しい青の旗が掲げられており、そのすべてに銀色の線で同じダイヤのマークが描かれていた。
なるほど、国というか世界が違えば宗教も大きく違う、そしたらシンボルも違うのかぁ、とぼやっと考えた。
ぼやっとでここまで考えが回るあたり、ノアの思考速度が常人よりも大きい、というのがわかるだろう。ノアは数学が得意だった。苦手なのは社会系科目だ。名前が覚えられない。
ピロン、と音が鳴り、突然ノアの目の前にウィンドウが出た。
ルミ さんからフレンド申請が来ています。
許可しますか?
はい いいえ
「あ!ひか…じゃなかった、ルミからだ!!」
ほとんどの機能はまだ使えないものの、どうやら、ノアたちのように友人同士でACOをする層のために、フレンド申請とチャット機能だけはこの時間でも使えるらしい。
ノアは迷わず「はい」を選択する。
するとすぐにチャットが届いた。
ルミ
今赤の王国にいます。エルフ族は白の王国スタートと聞いたけど、間違いない?
ノア
うっそ!?ルミと一緒に始めらんないのか…ショック…
ちなみにルミは種族何になった?
ルミ
レア引いたわよ。幻翼族っていうらしいわ。
まぁ全然固有スキルの使い方わかんないけど…外れかしら。
ノア
あちゃー
ルミ
棒読みでカチンとくるわね。
とりあえずチュートリアルまでやって、どうしても無理そうなら変えるわね。
ノア
チュートリアル?え、さっき終わったんじゃないの
ルミ
話聞いてなかったの?
赤の王国と白の王国の間にある、ダリアっていう街を目指すのですって。それで実戦とか、フィールドの歩き方に慣れてもらうのでしょうね。
ノア
じゃあそこで落ち合えばいいのね!
ルミ
そういうことね。
一応言っておくけれど、私は紺色の髪に瑠璃色っぽい目の色にしたわ。
ノア
黒髪黒目じゃなくてよかったの?
ルミ
それも考えたけど、この色のほうがきれいに見えるから。私は黒髪黒目だと顔から浮いちゃうし。
ノア
そっかー
私は金髪に水色の目だよ!
ルミ
把握したわ。
と、話していると、突如壮大なファンファーレが鳴り、あたりはプレイヤーの歓声で包まれた。
タイマーを見ると、ちょうど残り3分を切ったあたりらしい。
ドーン!という大太鼓の音があたりを揺らすと同時に、空中、タイマーの少し下にスポットライトが当たった。
そこには、ホログラムで映し出された少し腹回りが太いが穏やかで人のいい笑みを浮かべたスーツのおじさんがいた。…どうにもスーツがいまいち似合っていない。
おじさんが現れると同時に、一部のプレイヤーから「石渡ー!!」「運営きたーー!!」と声が上がる。おじさん――石渡というらしい――は少し困ったように笑ったが、すぐに顔を上げ、ずっとずっと響く声で話し始めた。
『初めましての方は初めまして、そうでない方はこんにちは…あるいは、お久しぶりです。
GMの、石渡淳伍と申します。
この度、はれてAlice Code;Onlineの正式サービスを開始することができました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます。
ACOは、一人ひとりの人生が違うように、プレイスタイルも様々だと思います。ですが、そのどれもがこの世界そのものに影響を与える可能性があります。
とはいえ、それを重荷に感じる必要はありません。エンジョイ勢もたくさんいるでしょうしね。
ですが、どうか、可能であれば…この世界を皆さんの手で救ってほしい、そう思うのです。
まぁそんな堅苦しい言葉など、皆さんは求めていないでしょう。
正式サービス開始まで、残り一分です。皆様、とくとこの世界を遊びつくしてください!』
それでは!という言葉とともに、ノイズをまとわせながら石渡は消えた。
タイマーは30秒を切っていた。
会場の熱気は徐々に上がっていく。
そして…
「3!2!1!」
先程よりも壮大なファンファーレとともに、ついにサービスが開始した。
だれかが「うわぁ!?」と驚いたように声を上げる。ノアも非常に驚いたのだ。
サービス開始とともに、この五分間は封印されていたすべてのシステムが解禁されたのだ。それすなわち、オニロ社が本気で作りこんだこの世界が動き出す、ということである。
さわやかな風が吹き抜ける。季節は現実と同じ春らしく、あたたかな日差しの温度を感じる。NPC…否、住民たちの生活が動き出す。道端の花壇には色鮮やかな花々が咲き、風に揺れている。広場には広場には屋台が開き、おいしそうな焼き鳥の匂いがする。
そこは、間違いなく、もう一つの現実であった。
「すっっっっっっっっごおおおおい!!!!!!」
ノアはぱぁぁと顔を明るくするのであった。




