拡声器
バイトやら友達と遊びに行くやらで投稿してませんでしたすみません
冒険者ギルドのカウンターで、オレンジ色の毛並みの猫獣人の女性職員が手際よく書類に必要なハンコを押した。
「はい、では依頼内容『キャトスル地下下水道のスライムの討伐』で、リーダーは舞蘭様、メンバーはノア様、ルミ様でお間違えありませんね?」
「ああ」
「かしこまりました。
冒険者ギルドでは、随時依頼が更新されています。依頼はカウンター横のコルクボードに貼られています。依頼の獲得は原則早い者勝ちです。今後、お時間がある時にはぜひ使徒様にもお願いしますね」
そう言って職員は営業用のお手本のような笑顔を見せた。
ノアたち3人の前に、ウィンドウが現れる。
CHECK!! サブクエスト
今後、各都市につき1箇所存在する冒険者ギルドでは、『サブクエスト』を受注することが可能です。
採取系のクエストから、町の人のお手伝い、ダンジョンでのモンスター討伐など様々です。
運が良ければ素敵な報酬をGETできるかも…?
※例外的に、冒険者ギルドの存在しない都市もあります。その場合こちらから周知致します。
なるほどβ版ではなかったシステムだ、面白い。
「ねーねールミ今度一緒にやろー??」
「いいけどあなたが選ぶとろくな事にならなさそうだから私に選ばせなさい」
「えーー!!??リフジーーン!!」
「そのバケモン装備のこと忘れたとは言わせないわよ!?」
なにやら後ろでは弟子2人がわちゃわちゃ言い合っているが、もしかしたら特訓になる高難易度の討伐系のクエストもあるかもしれないな、と舞蘭はほくそ笑んだ。
そしたら、特訓しながら報酬も貰える。オトクである。
「とりあえずお前ら、このクエストは終わらせるぞ」
「はーーい!!」
「今回はお役に立てなさそうですが…」
ノアは呼びかけられた幼児のようにニコニコ笑顔で手を上げる。ルミはちょっと申し訳なさそうだった。だって物理職なんだもん。
舞蘭は「ふむ」と顎に手を当てて考える。
「いや、ダンジョンの中はスライムだけではい。多いが。中には物理特攻のモンスターもいるだろう。その時は私とお前でやるぞ」
「…頑張ります」
舞蘭に全部持ってかれそうね、とは思ったが言わなかった。
「では、女神アリスの祝福がありますように」
職員は頭を下げて見送った。どうやらこれがこの世界での「お気をつけて」に当たる文言らしい。
舞蘭は軽く片手を上げ、ルミは会釈した。
ノアは「アリス…」と少し眉を下げる。女神様との関係は分からないけれど、名前が同じだから思い出す。早くあの子に会いたいな。
カランカラン、とベルを鳴らして赤茶の石畳の街道に出ると、何やら街がにわかに騒がしい。
黒地に金の装飾の軍服を着た赤の王国の兵士たちは、何やら冷や汗を流しながら駆けてゆく。
その様子を見て、住民たちは不安そうに顔を見合わせる。一方でプレイヤーは「えっ、なに、イベント??」と野次馬根性をどっかーーんと爆発させている。
「なんかあったのかなぁ」
「そうね…それなりにギルドの中が混んでて時間はかかっちゃったけれども、私たちが見てない間に何があったのかしら。」
ルミは思案顔で首をかしげる。
舞蘭は特に気にしてない様子で「早く行くぞ」と急かしてくる。
すると、ルミたちの間を縫って、「失礼!」と焦った様子で叫ぶ1人の兵士がギルドの中へと入っていった。
ただならぬ様子にルミは思わず眉を顰める。
「…大丈夫かしら」
「んー、ルミ、調べてみるー?」
「本当によっぽどの事態だったら、ね」
でも、スライム掃除のお仕事があるわよねぇ、とルミは困った様子でウンウン唸る。
「まぁ、このクエストは一応期限ないからな。後回しでも構わない。早期解決報酬はあるが。」
舞蘭としては、まぁ魔法使い(本職は聖職者)のノアがいる間にスライム掃除クエストを終わらせたいが、何よりこの子達と遊ぶ方が目的である。
スライム掃除をほっぽり出して事件に首を突っ込むのもまぁ吝かではない。
ルミは「それじゃあ」と舞蘭を見上げた。
「とりあえず地下下水道に向かいましょう。その間街の様子を見て、大丈夫そうならそのままスライム掃除始めたいんですけれども…いいですか?」
「おっけー!!そーしよ!!」
「ああ、そうしよう」
かくして3人は、ミッションコンパスが次に指し示す方向…即ち、地下への入口へと向かう。
「マリアベルの時もそうだけど、地下ばっかりで気が滅入るねぇ」
「そうね…そろそろ陽の当たるところで爽やかに戦闘したいわ」
「爽やかに戦闘は訳わかんなくてうける」
ノアとルミがそんな軽い会話をしているのを、舞蘭は和みながら聞いていた。正直話し下手な自分が会話に参加するのは苦手なので、この2人のなんでもない会話を聞いているだけでよかった。
そんな中でも街はさらに騒がしくなってくる。
ルミがふと耳を傾ければ、兵士たちは「どこにいる!?」「まさか王都から出たのか!?」と会話している。
「誰かを探しているのかしら」
「誰かって…だれ?」
「わかってたら苦労しないわよ」
『あ、あ、テステス、…おう聞こえてるか?
…大丈夫そうだなァ』
突然、空から声が降ってきた。
アリスの大人びた寂しい女性の声ではない。
少し乱暴だが甘さのある男の声である。どこかで聞いたことある気がするけどあんまり覚えてない。
というか、ワールドアナウンスの時みたいな感じではなく、住民たちや兵士たちにも聞こえているようだ。ザワっとしてる。
声が降ってきた方を見上げると、城塞の屋根の上に誰かいる。高くてよく見えない。
「…だれだろ」
「見えないわね…【鷹の目】使えばいけるかしら…それでも遠いわね」
「【鷹の目】とか殺す気じゃんだめじゃん」
【鷹の目】は『視力が良くなるスキル』ではなく『ある程度なら遠い相手にも矢が確実に当たるスキル』である。相手のどこに当てるかは本人の技量とDEX次第だが。間違ってはいけない。
「いや、この声は…」
舞蘭は何やら難しい顔をしている。
「まさか」
『【拡声器】なんてスキル一生とらねぇと思ってたわ…気に食わねぇ人畜無害じゃあるめぇし。
やぁ、間抜けな兵士の皆さんこんちわァ〜
俺はゼット。お前らが探してる誘拐犯様だよ』
「やはりあいつか…また面倒なことを起こしたか…」
「っ≪白菜≫!?」
「あなたほんと、1回本人に怒られてちょうだい、お願いだから」
何やら『また』面倒なことを起こしたらしいゼットに頭を抱えた舞蘭だが、ノアが『また』ゼットを≪白菜≫と真顔で呼んだので頭を抱えた体勢のままプルプル震えて笑い始めてしまった。
今度あったら≪白菜≫って呼んでやろう。舞蘭は決めた。
一方ルミは天を仰いだ。こいつ、≪厄災≫じゃなくて≪白菜≫で覚えた。間違いない。
ルミはノアとは中学以来の付き合いだ。豆腐鍋みたいに『キムチ鍋』だの『豆乳鍋』だの色んな間違い方をしている間はまだマシだと、経験上知っている。
今回のゼットのように≪白菜≫で固定されたら、もう多分二度と正しい名前で覚えてくれない。ルミは知っていた。頼むから1回怒られてくれ。
そんなこんなで、ACO最強プレイヤーと色んな意味で期待の新人からの呼び名が≪白菜≫に決定したとは知らない哀れなゼットは声高らかに続ける。
『わかんねぇ奴らのために俺が1分で説明してやる。1回しか言わねぇから耳かっぽじって聞け、特に魔女サマとその手下共、それとシーアグラだかにいる王サマに連絡寄越す役人。
俺はギルドで王サマ直々に特殊なクエストをしたが、ここの国の宰相サマに約束を反故にされた。だから近くにいたこのお姫サマを拐った。
お姫サマ解放の条件は2つだ。
ひとつ、大したことじゃねぇ約束も守らねぇ宰相がいる国を誰が守るかァ?ってことでみみっちい公爵に宰相を辞めさせろ。どーせ裏で大したことしてねェだろわかってんだよこっちは。証拠をバラされたくなきゃさっさと条件を飲むんだな。
ふたつ、報酬を貰えないって聞いて俺の心はそりゃあ傷んだ。俺は悲しい。そりゃもう涙がちょちょぎれそうだ。長男だから我慢してるけどな。てなわけで慰謝料代わりに報酬を3倍にしろ。30万マタだ。耳揃えて渡せ。
期限は今日の日没だ。
俺は何度殺っても生き返る使徒、特に強ぇ奴らに関してはぶっ殺すのに躊躇しねぇが、1回限りの大切な命をお持ちのこの世界の住民たちを殺すのは無い良心が痛む。
頼むから、俺をこれ以上悲しませないでくれよ?』
な?と念を押してくる甘い声には、悲壮感はなく、こちらを挑発してくるような声色すらあった。
『じゃ、そういうわけで』
そう一言言い残して、ゼットは屋根から飛び降り、黒く高い城壁の上へと飛び乗った。
その際、ゼットの黒いマントと、赤色の何かがふわりと風に舞った。
王女クラウディアのドレスである。
「あいつだぁ!!!追え!!!!」
「「はい!!」」
壮年の兵士の怒号が響き、有翼族の兵士2人が大きな翼を広げて飛んでゆく。
それ以外の兵士たちも忙しなく走ってゆく。
「…これはまずそうね、私達も追いかけた方がいいかしら」
「そうだね!!ついでにあいつにリベンジしたいし!!」
ノアはアイテムボックスから金色の杖を取り出し、ルミは背中の小さな翼に力を込め、【顕現】でぶわりと大きくさせる。幻翼族の飛行準備だ。
「ちょっと待て、追うな」
それを制したのは舞蘭だ。
「でも、誘拐って…」
「あと普通にあいつ腹立つから追っかけたいです!」
イメージを切らしたので、ルミの翼は再び小さくなる。ノアは不満げにぷくぅ、と頬をふくらませた。
「ルミは真面目だしノアは素直だな…まぁそれはいいことなんだが、事情があってだな。これを見てくれ」
舞蘭はちょいちょい、とこちらへ来るように手招きをした。やってきた2人に起動させたウィンドウの画面を見せる。
それは一通のメールと、それに添付された1枚の写真。
それを見た2人は「なるほど…?」と首を捻りつつもまぁ一旦理解した。
「…そういう事情なら追いかけません。ただ、あれで私達含めた使徒全体が警戒されなきゃいいんですけども…」
「そこが問題なんだがな…あいつは後先と他の迷惑を考えないから」
ルミの懸念は当然のものだった。
ゼットによって、『使徒は王族を誘拐するような存在』と認識されても自分たちが困るのだ、とルミは語る。
…まあ、そうは口では言いつつも、心の中ではあの大人びた小学生や、騒がしいくまのお兄さん、クールだけどちょっと抜けている彼など、彼女に優しくしてくれた人達が困るんじゃないかな、と思案しているのだろう。ノアにはわかる。だってルミはツンデレだもん。
そんなツンデレ照れ屋なルミちゃんを見ていたノアは、ふと目を見開いて「閃いた!」といった顔になる。
「ねぇ、ルミ!」
「とりあえず、追いかけっこしよ!!!」
ゼットは長男らしい
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