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Alice Code;Online  作者: 恋歌
赤の王国 城塞都市キャトスル
36/40

警笛

おなかいたい(瀕死)



翌日、赤の王国、城塞都市キャトスル。

神聖都市マリアベルの次のメインクエストの舞台はここであるから、その中心である城前の広場には住民(NPC)だけでなく使徒(プレイヤー)の姿も多く見られる。

そして、その使徒たちは現在、やや挙動不審になっている。

ある者は驚きに目を見張り、ある者は畏敬と憧れの目線を向け、そしてある者は不審そうに眉を顰める。

原因となっているのは、艶やかな長い黒髪を大雑把に紐で一つにくくった藤色の和服の女性、舞蘭。


そして…


「舞さーん!こんにちはぁ!」

「こんにちは…」


この二人、ノアとルミである。

二人(特にノア)にとって、舞蘭は「教えるのが下手だけどかっこいい侍のお姉さん、ついでに言うとなんか強いらしい」という認識なのだが、周りはそうでは無い。

泣く子も黙る最強侍プレイヤー、≪夜叉≫…それが彼女の一般的な評価だ。

恐れ戦きこそすれど、関わることなんて一生ない。

…そんなはずの彼女に対して、まるで部活の先輩に挨拶するようなノリの少女たちに、通りすがりのプレイヤーたちは二度見、否、三度見した。


ちなみによく見ると、ルミの方は元気がない。

いやノアが元気すぎるのもあるのだが、それを差し引いてもシワシワの表情をしている。

…ルミは、そのバトルスタイルが現実の身体能力と大きく乖離しているために、ログアウト後に体が重くなりがちなのだ。

特に、前回の特訓の後は酷い目にあった。

それが嫌で梅干しでも食べたかのような顔になっているのだ。




「来たか」

「来ました!」

「連行されました」

元気にピシッと敬礼するノアと、対照的に遠い目をするルミに、舞蘭はフンと笑った。

「そうか、連行か…そんなに嫌だったのか?」

「特訓自体はまぁ楽しいのでいいんですが、私ビュンビュン飛んでるんでVR酔い酷いんですよ」

「…それは、まぁ、慣れだ」

「デスヨネー」

ちょっと揶揄おうとすると、思ったより現実的な理由が返ってきて、舞蘭は一瞬きょとんとした。

まぁだからといって建設的なアドバイスはあげられない。実際慣れが解決するし。



「でだ。

今日はちょっとお前たちにお願いがあるんだが…」

「お願いですか?」

ノアがこてん、と首を傾げた。

舞蘭は少しばつが悪そうな顔をしている。

「そうだ。お前たち、特にノア。

…キャトスルのメインクエストを手伝って欲しい。」



MISSION 2

キャトスルの下水道のスライムを一掃する






ミッションコンパスが示す方向へと、身長の違う3人は歩幅を合わせて歩いてゆく。

「セレナという情報屋は知ってるか?」

「ちょうど昨日絡まれましたね…」

「そうそう、それでトマト鍋さんが助けてくれたんです!」

豆腐鍋でしょ、とルミはノアを小突いた。

舞蘭は「鍋さんが?」と少し驚いた表情をした。


「そうか…それで、そいつが言うには、今回のクエストに大量に出てくるスライムは、βと違ってほとんど物理が効かないらしい。βでは若干効きづらい程度だったのだがな。

まぁ効かないわけではないのだが、スライムの体内の核に触れないと攻撃判定にならないらしくてな…まぁ正直面倒なんだ。」

「それ私も死活問題ですね…」

ルミは遠い目をした。ルミはメインウェポンは弓、サブウェポンは双剣である。物理しかねぇ。

「そうだな…

というわけで、ノア。正直お前に任せ切りになるのだが、いいだろうか」

「はい!

特訓のお礼としたら安いもんですよー!」

舞蘭に任せられて上機嫌のノアは、子犬が尻尾を振るように金色の杖をぶんぶん振り回した。

ルミは「落ち着きなさい」とノアをてしてし叩いて宥めつつ、舞蘭の目を真っ直ぐ見た。

「そうです、舞蘭さんのお陰で邪族の討伐もできましたし。

今回私はなにも出来ませんが、何かお役に立てることがあればいつでも言ってください。それじゃあ足りないくらいの恩ですから」

「いや、いい。

特訓に関しては私が楽しいからやってるんだ。

私はあんまり沢山の人と関わるのが得意じゃないんだが、お前たちは何やらかすかわかんないから見ていて楽しいしな。」

そう言って、舞蘭はクスクスと笑い、「そうだ」と付け足した。

「ミッションやりながら、その邪族討伐についての話を聞かせてくれないか?お前たちが礼がしたいというなら、それがいい」

舞蘭は、情報としてではなく純粋に彼女たちの予測不可能な物語を知りたかったのだ。

ノアとルミは、ニッコリ笑って「はい!」と答えた。



そして、3人がミッションコンパスの指し示す目的地、『王立冒険者ギルド』に辿り着いたその時、再び空から声が降ってきた。




≪使徒の皆様にお知らせいたします≫

≪使徒 夕 キルケ が城塞都市キャトスルの初回踏破者になりました≫





「夕…だけじゃない?あいつ、誰と組んだんだ?」

「キルケさん?初回踏破なんて凄いわね…」

「あ、アリスの声だー!」



…三者三様、バラッバラの感想を抱いていた。





☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




鮮やかな紫の髪に、黒い眼球。

黒いマントをたなびかせる彼、ゼットは複数人の騎士に囲まれながら王城内を闊歩していた。

そんなゼットの隣には、情熱的な赤いドレスを身にまとい、大きく波打つ太陽のような金色の髪を揺らす女性がいる。

その眼球はゼットと同じく黒く、瞳は血のように赤く、虹彩だけが金色に輝く不思議な目をしている。

こつりこつりと黒と金の上品なハイヒールが、赤と白のタイルの上で軽やかな音を鳴らす。


「陛下は今、シーアグラに視察に行っておりますので、代わりに宰相であるヴィーザー公爵が対応致します。」

「りょーかい」

涼やかで突き放すような声の彼女は、ゼットとは決して目を合わせずに謁見の間へと歩いてゆく。




そして一行は、赤を基調として金色の装飾が施された重々しい扉の前で立ち止まった。


「宰相閣下、下水道の件を解決して下さった使徒様がお越しです」

彼女が相も変わらず冷たい声で宣言すれば、赤い扉はゆっくりと開く。

そして謁見の間では、黒と赤の豪奢な式典服に身を包んだ壮年の男がいる。ゼットや彼女と同じ黒い眼球で目線をこちらに向ければ、にこり、と仮面のような笑みを浮かべてきた。


「これはこれは、ようこそお越しいただきまして、使徒様。そしてここまでの案内をわざわざありがとうございます。

もう下がっても結構ですよーーーーー


ーーーークラウディア第一王女殿下?」



言外に「とっとと出ていけ」と宰相は告げる。

王女と呼ばれた彼女は、同じく底の見えない微笑みを宰相へと向け、美しく一礼した後護衛を数名引き連れて去ってゆく。謁見の間には2名の騎士が残った。

ゼットはその笑みを、どこぞの蜂蜜色の瞳の王子サマに重ねて「げぇ」と舌を出して不愉快そうな顔をした。



「それじゃあ、さっさと報酬をくれよな?

俺はそちらさんのお望み通りクイーンビースライムを討伐したんだ。」

ゼットは首を鳴らし、今にも舌打ちしそうな表情で宰相を睨めつけた。

その様子をにこにこと見ていた宰相は、傍らの黒いトレイから1枚の羊皮紙を摘んで取り出した。

「そう焦らずとも…ほら、こちらが契約書ですが…」




ぼうっ




突如、宰相の指先から赤い炎が現れ、契約書を燃やし尽くした。

「おや…契約書が消えてしまいましたね、これではどんな契約をしていたか分からない…」

「…クイーンビースライムの討伐、報酬は10万マタだ」

「おや、そうである証拠は?これ幸いと吹っかけられても困りますねぇ…」

くすくす、宰相は口角をさらに上げて言い募る。



「異なる世界から女神によって召喚された使徒殿…いやぁ、結構結構。

何度死んでも蘇るその力は、まさに邪族と戦う運命にある使徒殿には必要不可欠な『加護』でしょう。

邪神グレバティスは年々力をつけている。この先いつ復活するか分からない。その中で、世界を守るためにはあなたたち使徒の力に縋るしかないのでしょう。



だからといって付け上がられても困る。




ここはあなたたちではなく、私たちの領域(テリトリー)だ。

異分子はあなたたちだ。

そんなあなたたちに、私たちの世界で好き勝手されても困るのでね。

白の王国は女神信仰が深い土地だ。だからこそ、あの白の王も『王命』であるケルベロス討伐をもってして王家への忠誠に代えたのだろう。

だが、残念ながら、ここ赤の王国は実力主義だ。

とりわけ私は現実主義でね、子供の寝物語に縋るほどの人間ではない。


使徒は我々の支配下に置く。

この程度でマタなど払うものか。」




これまでの仮面のような笑みが消え、氷のような表情へと変わる。

ゼットは未だ、ひと言も発さず、動かない。

「この事を十分に理解して、あなたのお仲間たちに伝えるように。

…お前たち、連れて行け」

「御意」

ゼットの両隣に控えていた黒い鎧の騎士たちは、冷徹な宰相の言葉に頷いてゼットの両腕を掴もうとした。





「【サンダーカッター】」





刹那、風を切る音と、バチバチという電気の音が同時に聞こえた。

「うぐあああああっ!!」

「なんだ、動かない、動かない!!」

ゼットの腕を掴もうとした騎士二人は、その体勢のまま床に転がる。

ふぅ、と息を吐いたゼットは、いつの間にか取り出していた相棒の黒い剣を背中に担ぐ。

へん、と馬鹿にするように鼻を鳴らし、わなわなと震える宰相を笑い飛ばす。

「あぁ、そうかい、そりゃあ残念だ。

だが実力主義たァいい事を聞いた。それはつまり…


…俺()()が実力行使に出ても、なにも文句は言えねぇってことだよなァ?」



突如、ゼットの背後の赤い扉がバタン!と開く。

ゼットは首だけを後ろに回して上機嫌に笑う。

「首尾は上々かい?あーさん」

「……」

「相変わらず喋んねぇのな、まァ見りゃ分かるからいいけどよ」

「んなっ…!?」

扉の向こうの惨状を見て、宰相は目を剥いた。




「王女殿下に、なにを…!」




扉の向こうでは、たった一人の騎士を除く全ての騎士が気絶して散らばっており、唯一立ってこちらを無表情で見据える騎士は、ぐったりとした王女クラウディアの腹を抱えていた。





「…王女を離せ」

「あぁなに?へーかがいない間に王女が攫われたってなったらテメェの首が吹き飛ぶもんなァ?」

ゼットは挑発するように親指で首を切る素振りをする。

「まぁテメェの言うことには一理あるが、喧嘩を売る相手を間違えたなァ?

腹黒爽やかプリンスはまぁ知らねぇが、気に食わねぇ人畜無害御一行とか≪夜叉≫とか、鍋さんとか、あとまぁ聖女もどきのお姫様なら穏便に話を聞いてくれたかもしれねぇが、残念。

俺は世界がどーのとかより俺自身の目の前の利益のが大事なの。」

「…貴様」

「あぁそうだ」

怒りで震える宰相を無視して、ゼットは思い出したように王女を抱えている騎士に声をかける。

「あーさん、もういいよMP勿体ねぇっしょ」

その言葉に、騎士はこくりと頷く。




その刹那、騎士はしゅるしゅると姿を変えた。




…否、姿を()()()





「…化け狐か……!!」

「あれ、頭の足りねぇ宰相閣下サマでも知ってたかぁ。ほんっと王宮のセキュリティとテメェの脳みそガバガバじゃねぇの?」

ゼットは変わらず宰相を煽る。



そして、『あーさん』と呼ばれ姿を戻した元・騎士は、少年とも少女ともつかない姿をしていた。

身長は少年にしては低く、少女にしては高い。少なくとも先程の騎士の姿よりは幾分小柄だ。

黒い髪は顎の辺りまで伸ばされている。

だぼだぼの黒いケープを身にまとい、下には灰色のカーゴパンツ、靴は同じく灰色のスリッポンだ。

その手には、30cmほどの細い銀色の杖が握られている。

しかし、肝心の顔は能面で隠されていて1ミリたりとも窺えない。




そして何より目を引くのは、灰色…というよりは銀色の揺れるふわふわの狐のしっぽ3本。


妖族、化狐タイプ。

狐獣人とは異なり狐の耳はなく、代わりに狐の尾が複数本現れる。




固有スキルは【変幻】。

…MPを消費して他者の姿になりすますスキルだ。




「【変幻】って使い道限られるけど俺らみたいな外道にはぴったりだよなァ、あーさん」

「………」

…そして実は、誰もこの子が話しているところを見たことがない。

あーさん、はゼットが「そっちのが呼びやすい」と付けた呼称であり、本来のハンドルネームは『ああああ』である。

あ、が4つなのがポイントなのだが、本人は心底適当に付けた名前なので特にそこは拘っていない。



閑話休題。




「さて、と。あーさんその姿じゃ王女サマ引きずるっしょ。それは流石に無い良心が痛む。俺が持ってく。」

「……」

ああああ…以下あーさんはこくり、と従順に頷き、剣をアイテムボックスにしまって近づいてきたゼットにクラウディアを引き渡す。

ゼットは「よっこらせ」とクラウディアを横抱きにする。



慌てる宰相は、震える手で近くのヨーロピアンな電話を取り、その電話口に叫ぶ。

「城に残ってる騎士たちは、紫の髪の男と狐に気味の悪い面の子供を捕らえろ!!今すぐにだ!!」

「あぁそうだ、いっこ忘れてた」

にやり、とゼットは意地の悪い笑顔を宰相に向けた。



「俺の仲間が通信室ジャックしてるから、電話(それ)、繋がんねぇよ。」


ご愁傷サマ。




この世の終わりのような汚い悲鳴をBGMにして、クラウディアを抱えたゼットと、杖を片手に持ったままのあーさんは走り出した。






ゼットのことはは†蜜姫†ちゃんの次に私は気に入ってます。


獣人と区別するために化狐は耳なし、尻尾は複数本という設定に変えました。


いつも見てくださってる方ありがとうございます。

ブックマークまだだよって方はぜひお願いします〜

気が向いたら↓の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えてってくださいね

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